攻略対象者の様子がかなり違うようなんですが、何があったら全体的に生気が失われるんですか?

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 私、タバサは乙女ゲームの世界に転生した。


 ヒロインと攻略対象が邪神に向かって、協力して立ち向かうというのがそのゲームの大筋だ。


 そのために、登場人物は魔法学園に通っている。


 転生した記憶を思い出したのは3歳頃だったから、まだ原作開始まで余裕がある。


 でも私は知らなかったのだ。


 そこはループしている世界だったという事を。






 乙女ゲームの世界に転生した事に浮かれていた私は、うっきうきで原作開始の時期をまっていたのだが、その時がきたら異変が起きていて驚いた。


 それは、攻略対象の身にだ。


 攻略対象ヒューズが、私の知ってる人間じゃない。


 表情筋が死んでるし、目が死んでるし、声に抑揚がない。


 どうしたお前、状態だ。


 その攻略対象とは幼馴染で、私はこれまでに何度も交流してきた。


 これまでの彼は、ころころ変わる表情やイキイキした瞳が魅力的だったし。


 声もはきはきしていて、全体的に生命力にあふれていた。


 それが今はライフ1状態。


 思わず「どうしたお前」と言ってしまいそうになった。


「どうしたお前」


 いや、言っていた。






 私の問いに「何でもない」と答えたそんな彼は、淡々とした様子で日々を送っていく。


 他の攻略対象はみんな原作と同じなのに、なぜか彼だけが様子がおかしい。


 事件が起きれば率先して現場に向かうし、なぜか騒動が起きる前に現場で待機している事もある。


 そこで私はようやく察したのだ。


 彼はこの世界をループしているのだと。


 それが分かった私は彼を問い詰めた。


「ヒューくんは同じ時間を繰り返している! そうだね!」

「馬鹿みたいな事いってないで、現実みろよ」


 そしたら、こうだ。


 あっれぇー。


 そんな反応?


 そんな反応しちゃう?


 仮にも幼馴染のこの私に?


 わざわざ心配してさしあげたこの、このわーたくしにぃ?


 私は決意した、こうなったら無理やりにでもその口を割らせてやろうと。








 けれど、昔から頑固なところがあった幼馴染は、そう簡単には認めようとはしなかった。


 あれこれ指摘しても、偶然だ、考えすぎだ。と答えるばかり。


 人を頼ろう。相談しようって気配がまるでない。

 小さい頃は、私を頼って後ろを追いかけてばかりだったのに。


 あんなにもわんこみたいにかわゆくて、お姉ちゃんお姉ちゃんゆってたのに。


 迷子になった時なんて、私が見つけ出した時は泣きべそかいて、半日ずっと離れなかったくらいだよ?


「ヒューくんめぇ、私を頼れぇ」

「困っていないのに、頼れない」

「私に相談しろぃ」

「何も問題なんて起きてないから」


 今ではこんなだ。


 なんで、そんなになるかね。


 ぐれちゃったの?





 そんなこんなで、時は過ぎ去り。


 とうとう原作の最終イベントがやって来た。


 邪神が暴れだして、ヒロインと攻略対象達があれこれ戦うはめになる感じの大スペクタクルグレート魔法ショーだ。


 大迫力。


 前世で見たどんな映画も、目の前のこの迫力満点の光景には劣ってしまう。


 私は幼馴染から物陰に隠れていろ、もしくは家から出るな、いや学校に登校するな、とクギをさされていたのだが、興味心がまさってついつい、やじ馬化。


「いけっ、そこだ、どんどんいけー」


 と声援を送る他のにぎやかし系モブの中に紛れていた。


 そんな事して危なくないのか?


 いやいや、大丈夫だって。


 ゲームでは、誰も死ななかったんだから。


 バタフライエフェクトは馬鹿にならない?


 ああ、あの蝶のちょこざいな羽ばたきが、なんか遠くのすごい変化を巻き起こす的な。


 いやいや、だって私モブだしね。


 そんな大した事にはならんでしょうよ。


 なんて、言ってる間にちゅどんちゅどん。


 近くに戦闘の余波が着弾!


 あれ? なんか原作より強くない?


 死ぬ!


 一瞬で身の危険を感じた私達モブ。

 その反応は早かった。


 クモの子を散らすように、慌ててその場から逃げ出していく。


 ひぃ、お助けー。


 しかし、逃げ惑う私の傍に無常にもその一撃が着弾してしまうのだった。


 あっ、死んだ。








 それは幼いころの出来事だった。


 走馬灯を見てるのかな。


 私はしばし、懐かしい気分に浸りながら、その光景を眺めていた。


 すると心まで、子供に戻っていくようだった。


 私は草原を走っている。


 どうやら、私の弟分が迷子になったらしい。


 助けにいかないと!


 そんな感じで、いまの私は草原を疾走しているのだ。


 しかしおっちょこちょいだなー。


 なんでこんな見晴らしのいい場所で迷子になるんだねチミ?


 方向音痴なんかい?


 まぁ、しゃーないか。


 ちょっと抜けてるが売りの攻略対処だし。


 そこが結構、かわゆいのだ。


 なでなでしたくなる。


 苦労してあちこち探し回った私は、とうとう弟分を発見。


 将来攻略対象になるだけあって、美形の片鱗がちらほら。


 うむ、目の保養補充。


 涙目になっている弟分は、ピーピーなきながら私の服を掴んで離さない。


「大丈夫だよ。弟分君、私がちゃんと家まで送り届けてあげるからね」

「うん、ありがとうお姉ちゃん」


 はぁー、眼福・眼福。

 ういのう、かわゆいのう。


 なんて思っていたら魔物に囲まれてしまった!


 うっかりしていた、この世界には魔物がいたんだった。


 邪神がいる世界だもんね。


 そういう危ないのだっているか。


 前の世界の常識が、頭に残ってるからつい油断してしまったようだ。


 私は弟分君を突き飛ばした後、見事ガブッガブッとされてしまうのでした。


 ううむ、せっかく二度目の人生なのにここで終わりとか。


 この世界まじ異世界。


 あっ、本格的に駄目なやつきた。


 意識がもうろうとしてきた。


「――ちゃんをたすけて! 邪神ならでき――」


「我と取引するか。よかろう。ただしお前の力をいただくぞ。それにその者に一度しみついた死の気配は消えぬ。これからも何度か――」


「それでも、絶対にお姉ちゃんは僕が助けて見せる! 何度この世界を繰り返しても!」


 うーん、なんか重要っぽい話してるけど、何だろう。


 でも、眠くなってきたしどうでもいいや。






 その時も、以前の私も、後の私も知らなかったのだ。


 攻略対象ヒューズが私を助けるために邪神と取引し、時を戻して生き返らせてくれた事を。


 けれど、そのせいで、私には死の気配がしみつき、邪神大スペクタクルの際に必ず死んでしまうという事。


 そのたびにヒューくんが、世界をやりなおしているという事を。


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攻略対象者の様子がかなり違うようなんですが、何があったら全体的に生気が失われるんですか? 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

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