1-10 能力
「さぁて。どうやって大人しくさせようかね」
一香はなんだか楽しそうだ。甲夜はそんな彼女に対して敵意剥き出しの目で睨む。
「邪魔はさせない。玲花をよこせ」
「よこせって言われてはいどうぞなんて差し出すおバカさん、私は姉さんくらいしか知りませんよ」
「ちょっと!隙あれば人をディスらないでよ!」
どうもこの姉妹は仲が悪いようだ。そんな2人のやりとりなんか気にも留めず、凶暴化した甲夜はまずは二美に向かって駆け出した。
「生身の人間であるお前なら、そもそも俺に触れることもできないだろうからな!! 」
2対1の状況、自身が有利に戦えるであろう相手から落とすのは当然だろう。しかしながら彼の読みは大幅に外れることとなる。
「……っ!!一体どうなってるんだ? 」
一瞬の隙に二美は向かってきた霊を受け止め、相手の右手を取ると、固技を仕掛けた。
「お前、どうして俺を抑えられるんだ?……ていうかいてぇ!! 」
甲夜はあまりの痛さに叫んだ。幽霊になってから痛みを味わうなんて初めてのことなのではないだろうか。そんな甲夜の様子を一香はニヤニヤしながら覗き込む。
「これはねー。二美の能力ってやつ。この人、幽霊相手に拳入れることができるんだよ?幽霊より怖いよねー」
「姉さん、無駄口叩いてないで仕事してくれる? 」
「へ? 」
一香はなんのことを言われているのか分からずにキョトンとしている。
「この幽霊、中心に凄まじい霊力が集中しているの。おそらく、何かしらが彼に特別な力を与えているの。それを取り除いちゃえば、おそらく大人しくなるわ」
「そんなこと言われても、私には一体どれのことだか……」
二美の技から逃れようとする甲夜を一香はまじまじと見回す。
「ちょっと……早くしてくれない? 」
「わかってるってばぁ……」
先程までの威勢はどこへ行ったのか、一香はなんとも弱々しく答えた。
「彼の胸元についてる、黒いバッチだ! 」
まだ腰が抜けて立ち上がれない玲花を支えながら封戸が叫ぶ。
「場所がわかっちゃえばこっちのもんだよ」
元気を取り戻した一香は早速甲夜の胸元で鈍く光る、缶バッチをむしり取った。その瞬間、甲夜の体全体が光出した。次に彼を見ると、目の色も、肌の色も凶暴化する前の元の姿に戻っていた。本人は力がかかりすぎたせいか、二美の技が痛すぎたせいか、気絶している。
「あとは所長さん、任せてもいいかな? 」
一香は封戸の返事も聞かずに取り上げた缶バッチを素晴らしいコントロールで封戸に向かって投げた。
「任せなさい」
封戸はなんとも頼りがいのある声で答えた。
「玲花くん、ちょっと失礼」
封戸は一言玲花に言うと、彼女をその場に座らせた。そして一香から投げられた黒い缶バッチを両手で持つ。
「穢らわしき魂よ、この場をもって消え去るがいい……! 」
そう言って封戸は両手に力を入れた。すると黒い缶バッチは粉々に砕け、カケラが地面に落ちる前に跡形もなく消えてなくなった。
「ふぅっと。これで一仕事終わりだね」
玲花は一香の声のする方を向くと、やっと自分の足で立ち上がれそうだったのに、再び腰を抜かしてしまった。玲花が見たのはは足元がはっきりと見える、幽霊ではなく人の姿をした一香だった。
「あ、あれ?あなた一香さん?でも……一香さんて幽霊で……あなたは一香さんのそっくりさん? 」
「姉さんは元々は人間です。彼女は不気味にも、幽霊と人の姿を自在に使い分けることができるんです。私の能力と似たようなものです」
混乱する玲花に、二美は相変わらず冷静に答える。
「ちょっと不気味って言い方ないんじゃない?あ、もしかして二美ちゃん、さっき怖いって言ったことを根に持ってるの? 」
一香が二美に言い返してると、床に倒れたままの甲夜が目を覚ました。
「う、うぅーん……え……えぇっと。ここは一体……?僕は一体何をしていたんだ……? 」
「甲夜!よかった。目を覚ましたのね! 」
玲花は嬉しそうに甲夜に近づく。しかし彼はしばらくの沈黙ののちに一言放った。
「すみません。あなたは……誰ですか? 」
「……? 」
甲夜の言葉に玲花は絶句した。
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