1-9 正体
「やっぱりな!!見えてなければ目が合うわけがないもの!! 」
ずっと大人しく玲花の背後にくっついていた甲夜はこれでもかと騒ぎ出した。
「随分と威勢のいい幽霊だね。君は一体、どこから来たんだい? 」
封戸は立ち上がった。出立ちからして、先程部屋に入ってきた時とは違う。ただ立っているだけだが、彼は明らかに戦闘体制に入っている。
「や、やめてください!この子に何するつもりですか? 」
殺気を感じ取った玲花は両手を広げ、甲夜を庇うように目の前に立った。
「どいてくれるかな、玲花くん」
「たしかにこの子はどこからきたのか、自分が何者かもわかっていません。でも……甲夜は私がこっちに来て初めてできた友達なんです」
「玲花……」
甲夜は庇われながら、玲花の後ろ姿を見つめる。
「……相手の全てを知り、理解する必要はない。だけどね、玲花くん。ある程度相手のことを知ることができなければ、人も……それが幽霊だったとしても、友達とはいえないんだよ」
「お呼びですか、所長」
何が合図だったのか、二美が扉を勢いよく開けた。彼女は透き通るような青色のロープを持っている。
「さすが二美くん、準備がいいね。その縄であの幽霊を捕まえてくれるか? 」
「任せてください」
やはり、二美にも甲夜の姿は見えていた。
「捕まえるって……あなたたち、甲夜をどうするつもりなの? 」
探偵事務所の人たちにいきなり敵意を向けられ、玲花は混乱しながらも、いまだに自身に取り憑く幽霊の盾になる。
「あなた、そいつがどういうものか、よくわかっていないようね」
「なんなのかわからないかもしれない。でも甲夜は甲夜よ」
「そいつがあなたの命を狙ってるやつだって知っても、そんなことが言えるの? 」
「え? 」
二美から告げられたことを玲花はうまく飲み込めない。頭が混乱している中、甲夜はその場にうずくまる。
「うぅ……うぅ……」
「こ、甲夜?一体どうしちゃったのよ? 」
玲花は背後の異変に気がつき、振り返って小さくなる甲夜の隣で屈んだ。
「えぇと、これでいいんだっけ? 」
玲花は声のする方を向く。振り返った時には気づかなかったが、そこには屋敷に取り憑いているという幽霊……一香の姿があった。彼女はスタンガンのような黒い箱を持っている。その箱は青い稲妻をバチバチとさせている。
「ちょっと、姉さん!!それは捕らえてからだって言ったでしょ? 全く、仕事が増えるじゃないの」
「ね、姉さん? 」
たしかに二美は一香に向かって姉さんと言った。どうも似ても似つかない2人だ。しかも姉の方は幽霊になってしまっている。この姉妹に一体何があったのだろうか?
「う、うわぁぁぁぁ」
そんなことを考える暇を与えないかのように、うずくまっていた甲夜が叫んだ。幽霊とはいえ、人の姿をしていた彼だが、肌の色はみるみる灰のような色になり、見開いた目は真っ赤に染まっていた。その目は玲花を睨みつける。
「玲花……彼岸花と血の香りを放つ少女……あの方がお前を待っている……さぁ、一緒に来るんだ……あの方が待っている……」
その低くてかすれた声は、もはや玲花の知っている甲夜ではなかった。
「こ、甲夜?ねぇ、一体どうしちゃったの? あなたは……誰? 」
今まで甲夜を庇っていた玲花は彼から1歩2歩と遠ざかる。何かに躓き、倒れそうになった玲花を封戸が支える。
「あれが彼の正体。彼はどういうわけか、君を狙っているんだ。大丈夫。あとは一香くんと二美くんに任せなさい」
「そうは言いますが、所長、どこかの誰かさんのせいで凶暴化してしまったあいつを捕まえるのは大変ですよ」
二美はロープを持った両手を上に上げ、伸びをした。不満はあるようだが、戦う気満々だ。
「いいじゃん!こっちの方がスリルがあるでしょ? 」
一香はどこか楽しそうだ。
「私は日常にスリルは求めてないんですよ」
「まぁまぁ2人とも」
凶暴化して、今にも暴れ出しそうな幽霊の前でどうやら姉妹らしい2人の喧嘩も始まろうとしていた。封戸は苦笑いしながら2人を止める。
「今は目の前の標的に集中してくれ。いくら君たちでも、気を抜くとやられてしまうよ」
「そんなヘマはしませんよ」
「もっちろん!今日も頑張っちゃうんだから!」
チグハグな姉妹は殺気渦巻く霊を目の前に、身構えた。
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