1-8 札木暁優
「君に会うのは十数年ぶりかな。昔すぎて覚えていないだろうけど」
封戸はミルクピッチャーからカップにミルクを注ぎ、ポットに入った少々冷めた紅茶も入れながら言った。
「私、封戸さんと初対面じゃなかったんですか? 」
「あぁ。暁優くんと、愛依さん……君のご両親のお葬式の時に、ご挨拶させてもらったよ。あの時君は、おばあさまの影に隠れてこちらをチラチラ覗いていたね。あんなに小さかった子がこんなに立派に育って……暁優くんも君の成長を見届けたかっただろうに」
玲花はあの時の記憶はほとんどない。封戸にそう言われたところで、正直あまりピンときていなかった。
「私の父は封戸さんと同じ、探偵だったんですか? 」
玲花は1番気になっていたことを封戸に聞いた。封戸は少しだけ顔を曇らせる。
「君は両親のことを何も知らないのかい? 」
「はい。誰も教えてくれなかったし、なんとなく聞きづらくて……」
「由佳くんが玲花くんをここへ連れて来たということはそう言うことだと思っていたが……」
「何か言いました? 」
封戸が小さな声でつぶやくので、玲花はうまく聞き取ることができなかった。
「あぁ、大丈夫。こちらのことだ。君のお父さんの話だったね。君のお父さんはここの事務所の優秀な探偵だったよ。全く、惜しい人を亡くしたものだ」
若干気になる点はあるが、封戸の言葉に偽りはなさそうだった。甲夜が言う通り、怪しい部分もあるが悪い人には見えない。
「封戸さんは、どうして父を雇ったんですか? 」
父はどうして探偵なんて職を選んだのか、本当はそこが知りたいと玲花は思ったが、封戸に聞いてもわかることではないだろうと判断した。
「君はお父さんに似て、探偵の素質があるみたいだね」
封戸は微笑んでいる。
「どうしてそう思うんですか? 」
「自分が聞きたいことと、相手が知りえるところの妥協点とでも言うのかね、そういうのを見つけるのが上手だなって思って。要は相手から話を聞き出すのが上手いってことだ。人から話を聞き出すのは捜査の基本だからね」
自分では当たり前すぎて封戸の言っていることがよくわからなかったが、父に似ていると言われ、玲花は嬉しかった。封戸は改めて、玲花の質問に答える。
「彼は元々依頼人だったんだ。ある事件の調査を依頼されてね。仕事が終わってしばらくして、暁優くんは再びこの事務所を訪れた。彼はちょっと問題を抱えていてね。その問題を解決するためにも、私に力を貸して欲しいと。僕もできる限りあなたのお役に立ちますからってね」
「問題ってなんですか? 」
「それは……また時が来たら話をするよ」
封戸は嘘はついていないが、玲花に全てを話す気はないようだ。一体何を隠しているのだろう。甲夜が封戸を警戒するのも、全く気にならない訳ではないし……玲花はもやもやした気持ちを胸の中に抱えていた。
「封戸さんから見て、父はどんな人でした? 」
「とても優しくて、強い人だったよ。人に優しすぎて、自分を蔑ろにしてしまうところが彼のよくないところでもあったけどね。散々言ったものだよ。『人に優しくするものいいが、自分のことも大事にしなさい』って」
それを聞いて玲花はなんだか誇らしい気持ちになった。ちゃんと周りの人に聞かなかったとはいえ、誰も両親のことを話たがらないため、もしかしたら性格に難があったのだろうかと思っていた時期もあったので、そうではないことがわかり、玲花は少しほっとした。
「知りたいことは以上かな?こちらも質問したいことがあるんだが、答えてもらってもいいかい? 」
封戸はミルクティーを啜り、カップを置くと、玲花の顔を真っ直ぐに見つめた。
「あ、すみません。質問ばかりしてしまって」
「いやいや、それは構わないよ。ただ私も少々、玲花くんに聞きたいことがあってね」
「なんでしょう? 」
そういえば封戸は玲花と話をしたがっていた。玲花が一方的に質問ばかりしてしまっていたが、封戸が玲花に聞きたいことととは、一体なんだろうか。
「……君の後ろのその子は、いつから君に取り憑いているんだい? 」
「!! 」
玲花は手に持っていたラスクを思わず落としてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます