ラドルガの貧民街

祖国ルリアナ公国から南の森を抜けた先にある貧民街。おそらく、ここはラドルガ共和国連邦、通称「実力主義連邦」。細かい分類を含めると、100以上の種族が暮らすというこの国は、知力や力がなければ下落の一途をたどる。その最下層が、この貧民街ということだ。本当に貧民街なのか、というほどさまざまな市場やら職種の人間、さらには人種もさまざまだが、飢えて路上で倒れ込んでいるのをみる限り、確かに貧民街らしい。

ここでは、他の国から来てのし上がる、ということも少なくないそうだが、他国での身分はこの国では一切関係ない。そのことは逆に考えようによって、アドバンテージにもなる。これからいくらでも上に上がれるし、行動にも幅が出る。必ずのし上がって、父上の仇を討たねば。

(問題はまず何をすべきかだが……。詳しい下克上の仕方を知らないから、まずは聞き込みからか。)

見渡してみると、まあ礼服のような人はポツポツいるが、恐らく同じ亡命貴族だろう。ここは逆に貧相な身なりの人に聞く方が古株の可能性が高そうだ。

ちょうどいい感じの木材を担いだ体格の良い人がいる。

「ちょっと失礼。お聞きしたいことがあるのですが……」

「ん?なんだ、また貴族の兄ちゃんか。どうせ『政争で負けたからここでのし上がる!』とか言いに来たんだろ?」

「……まあ、そんなところですかね。」

ただの政争如きと同じにしてもらいたくは無いが、まあいいだろう。

「ハッ、やめときな。ここ最近で他から来た貴族の奴らで『昇格』した奴はいねえ。諦めて鍛冶屋でもやるこった。」

「『昇格』?それは一体……?」

「なんだ、『昇格』もしらねえのか。よーし、俺が教えてやろう!いいか?『昇格』ってのはな、まあ言ってみりゃ、行ける土地やら、つける職業の質、国からの扱いが変わる。例えばな、俺たちにはなーんの支援もねえが、お上のやつらは、次の王になる権利を貰えたり、領地を貰えたりするわけだ。」

「なるほど。昇格の方法は?」

「まあ焦んなって。昇格の方法は色々あるが、代表的なのは『決闘』と『大会』だな。決闘の方はそのままの意味で、特定のグループに対して、対戦を申し込む、ってもんだ。そんで勝てば、そいつの権利をまるまる強奪できるってわけだ。ちなみに、負けたら負けた方の権限は全て奪われるから、決闘は挑む方もなかなかの負担だ。あとは大会だが、これは国が公式にやってる大会で、勝てば優勝の商品にされている権限やら土地やらがもらえる。参加費は無いが、豪華な商品ゆえに、倍率はたけえ。

そんでここからがキモだ。こいつらは全部、3人までのパーティで挑むことができる。だからいかにいい仲間を集めるかも重要になるってもんだ。」

「なるほど、それで決闘や大会はどこで申し込めるのかな?」

「あー、決闘はやりたい相手に決闘書を渡せばいい。決闘書はそれぞれの居住区の役所に行けばもらえるが、貧民街には役所がなくてな。月に一回の貧民街の大会、いわゆる『闘鶏』が行われるから、そこで活躍するか、優勝すればある程度の地位はもらえる。決闘したいならそこからだな。次は2週後に開かれるが、俺はでねえぜ。なんせ優勝候補が決まっちまってるからな。」

「丁寧にしてもらってありがとう。じゃあ、お元気で。」

そう言って角材を背負った男を見送った。

(最優先課題は仲間作りだ。)

実は仲間にする人は誰でもいい。むしろ戦闘が得意でなさそうなものの方が、最終的には強くなることもある。どうやらこの国では、潜在性の『異能』を発現させる技術が未発達らしいし、下克上も可能だろう。血統性の『異能』である英霊術を持つ私には、ほとんど発現する可能性はないが、触発させて発現させられる可能性もある。最悪、私の英霊術で擬似的な『異能』を与えることもできる。

まあここは情報が集まりそうな集会所のようなところに行くのがいいだろう。(今日はもう日が暮れるし、適当に食料を買って、野宿しようか。)


母上と木綿で作った質素な寝袋を出し、魔法で火をつけて、野宿の準備をして、火の番をしていると、小柄な獣人族らしい女がこちらに向かって勢いよく走ってきて、風とともに通り過ぎて行った。青い瞳に赤い髪。紅毛碧眼、ラドルガの出身の者らしい。

(なんだったんだ‥‥?……!!)

すぐに気がついた。懐の中の金がない。あいつに全部スられたらしい。だが、盗まれたのなら盗み返せばいい。

(英霊術、『蒼撃の魔手』……!)

さあ、拷問の時間だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

カサンドラはせせら嗤う 獅子鮫 @shishizame

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る