怒涛のネタバレ編―天才少女と被検体X―

第17話 それは、既に終わってしまった者の物語。

 いやはや、さすがは【最高に可憐なヒロイン】様、クールビューティーですネ! ジャパニーズカワイイですネ!


 ――――あ、どうも、神です。大変ご無沙汰しております。ご無沙汰なあまり、ワタシめのキャラが少々ふわふわしております。このファンタジーの世界にジャパニーズなんてものは居らぬのでしたね。心より陳謝します。陳謝っ……! 圧倒的陳謝っ……!


 さて、それでは肥溜めの残滓と名高いワタシが【最高にカッコよくて、最高にお約束な物語】に、氷水を差すように登場した道理についてお話しせねばなりませんね。


 といっても語り手である主人公様が再び記憶喪失になってしまった、なんて問題が発生したわけではありません。極めて例外的な場面がしょっちゅう起こってしまっては物語になりませんから。


 ではなぜワタシは、今になってふてぶてしく再登場したのか。


 ……それはもちろん、ワタシめが寂しかったからでございます。ただそれだけです。いけないでしょうか? だって、真実がいつも複雑怪奇とは限らないでしょう? 


 そもそもワタシ、ちと出番が少なすぎるのですよ。前書きから随分張り切って、というかほとんど出しゃばって、華々しく初登場を飾ったというのに、主人公様がだらだらしておられるものだからワタシめは心底退屈なのであります。王道ファンタジーの体裁をして、未だにろくなバトルシーンがないのはいかがなものか! 最強かつ最凶の魔王軍も、極悪非道な悪の組織も登場しないのはいかがなものか! 


 ……またまたヒートアップしてしまいました。とにかく読者様には、ワタシがどこまでも陰鬱で回りくどいだけでなく、どこまでもかまってちゃんな性分であるということをご理解頂けたら幸いです。


 しかしあくまでもワタシは神であり、語り手であります。一切の意義なく登場し、物語にあれこれ難癖つけるだけして独りよがりに退場するなど語り手失格、ひいては神様失格であります。


 というわけで次回は、ワタシが読者様に、とある物語を語ることとしましょう。


 それは、既に終わってしまった者の物語。


 何を得ることもなく、何の意義もなく、その生涯を終えた者の物語。


 今から九年前の物語。


 まあ安直に言ってしまえば伏線というやつです。……いえ、伏線と明かしてしまった時点でそれは伏線としては成立しないのでしょうか? 優れた書き手は流れるような文章の中にひとつまみの伏線を、それはそれは繊細に、ときに大胆に忍ばせるものです。ワタシが一話分まるごとベラベラと語ってしまっては、せっかくのミステリーが台無しでありましょう。 


 ですが背に腹はかえられません。なんといっても、ワタシは今、神様としての尊厳が試されているのですから。もう伏線などと高尚なことは申しません。これはネタバレです。【最高にカッコ良くて、最高にお約束な物語】に潜む最大のミステリーを、ワタシは悪びれもなくネタバレする所存です。


 それでは『爀者―カガリモノ―』怒涛のネタバレ編第一話、はじまりはじまり……。

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