第12話 可愛くてカッコよくて賢くて天然でクールでツンデレで天才で努力家の、完全無欠の梓ちゃんだよ。
食堂に着いた夏希は、手を望遠鏡の代わりにして両目の前に持っていき、あざとく「むむむ」と誰かを探し始めた。「おっ、いたいた」とわざとらしく呟いた彼女は、彼女より頭一つは高いであろう女性の肩を叩いた。
「
記憶喪失の僕を、あたかもオモシロ人間のように紹介した彼女には審議の必要があるように思った。しかし僕のことを見定めるように観察するもう一人の視線に
「……ナツ、あなたが極度のお人好しなのは知っているけれど、いくらなんでも私に雑草を愛でる趣味はないわ」
えっ、この人なんて言った? 今すごい侮蔑を受けた気がするんだけど。
「あはは、第一印象最悪みたいだね、雑草くん?」
「おい夏希、僕の知らない人と、僕の悪口談義で盛り上がるな」
……本当は、僕を雑草呼ばわりした女性に一言物申すべき場面だっただろう。
しかし有り体に言えば、彼女はあまりに美しかった。端正な顔立ちに、腰までかかった柔らかな黒髪、妖艶と言っても過言ではないその美貌に、僕は思わずたじろいでしまったのだ。そんな僕をまじまじと見ていた夏希が、責めるように僕に問いかける。
「あれあれ、もしかして見惚れちゃった? というより、見惚れてほしいもんだよね、親友の私としては。彼女は
「は、はぁ……」
随分と大仰な紹介だが、それに違和感を感じさせないほどの気品を、彼女は備えていた。
「は、初めまして、木之本さん。魔術のことなら木之本さんに聞くといいって言われたんだけど……」
「……驚いたわ。雑草に挨拶されるというのは、屈辱を通り越してむしろ高揚感があるものなのね。未知との遭遇って感じかしら?」
「ぼ、僕はどうしてこんなに嫌われているんでしょうか⁉」
色白美少女から放たれる鋭利すぎる口撃。汚物を見るような目で蔑まれることに一種の中毒性を見出しそうになった僕は、とっさに大声を出して我に返った。
「たしかに、さすがの梓もここまで言うのは珍しいね。やっぱり君は見込みがあるんだよ、ねえ雑草くん」
すっかり雑草呼ばわりが口に馴染んだらしい夏希は、くすくすと意地汚い笑みを浮かべている。……もしかして、全部こいつのせいなんじゃないか?
僕を心底気味悪がっている女性と、それを見て嘲笑する性悪オンナ。
心の奥底から沸き立つようにこう思った。早く家に帰りたい。家で幸のご飯を食べていた日常がひどく懐かしく感じる。
――――そんなときだった。
ヒーローは遅れてやってくるという言葉の通り、この凄惨たる空気を豪快に一笑してくれた彼は、ヒーローと称賛されるに値するだろう。
「ガッハハハ! そう落ち込むなや少年! まだまだ人生長いぜ?」
後頭部から聞こえる低く
そんな英姿颯爽たる彼の登場に、彼女たちは――――
「あ、もう来ちゃったんだ。アンタはお呼びじゃないのに」
「しょぼい雑草の次は騒がしい雑草が来たのね。増えることが取り柄なだけあるわ」
――――なんだかもう好き放題に言っていた。
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