①震霆編―火傷遠矢の日常―
第3話 ――――あ、どうも、神です。
三〇一〇年一月。
――――ガシャン!
銀のトレイが床に叩きつけられます。老爺の足元に、トレイに乗っていたコンソメスープが広がっていきます。
――――あ、どうも、神です。
結局お前かよッ! と思われた方、申し訳ありません。どうやら記念すべき第一話目にして、極めて例外的な場面ということのようです。ここには【最高に熱い主人公】も居られるようですし、本来であれば彼に物語を語っていただきたいのですが……。
まあ、彼も寝ぼけておられるのでしょう。いくら正義のヒーローといえども、毎日が義理と人情の板挟み、というようなドラマチックな日常を過ごしておられるわけではありません。プライベートまで熱血的であることを強要するのはちと可哀想ではないでしょうか。ヒーローにも尊重されるべき人権があり、それを犯すことはナンピトたりとも許されることではないのです。それはもう、いわばヒーローハラスメントってもんです! ワタシは守りたいのです。ワタシ達のヒーローを!
というわけでワタシ、しっかりお勤めさせていただきます。
「と、遠矢……。目を覚ましたのか……?」
灼熱のコンソメスープが老爺の足先をじわじわと侵していますが、老爺は気にもとめずに正面に呼びかけます。やはりお年を召されると感覚が鈍くなってしまうものなのでしょうか……。
老爺の目線の先には、一人の青年がおりました。ベッドから身体を起こした青年は、老爺からの熱い視線を正面から受け続けています。
「ああ……、あ、あぁぁ……」
よた、よたよた、と老爺が青年に近づきます。
――――バシャッ!
ああ、熱い! 今のはゼッタイに熱かったですよね!
老爺は床に広がったスープに足を突っ込んでもお構いなしに歩き、恐る恐る青年の頬や手をぺたぺたと触りました。そして目から大粒の涙を零してこう言います。
「良かった……本当に、本当に……」
どうやら、老爺は現在とても感動的な出来事の真っ最中のようですが、青年は老爺を不思議そうにキョトンと見つめるばかりです。
いえ、不思議そう、というのはなんだか違います。まるで精気を感じられないその瞳からは、感情なんてものは微塵も感じられず、言うなれば人形やロボットのようです。
「そ、そうだっ。待っとれ、今わしが暖かいスープを持ってきてやる。そのまま楽にしておるんじゃ」
早口で言い放つと、老爺はまたもやスープをパシャッと踏んづけて部屋を飛び出しました。老爺が新しいトレイで灼熱のコンソメスープを持ってくるまでの間、青年はやはり人形やロボットのような瞳で、壁のシミをただじっと見つめるだけなのでした。
再度銀のトレイに灼熱のコンソメスープを乗せてやってきた老爺が青年にスープを手渡すものの、青年は一向に飲もうとしません。いきなり胃が動くものでもないか、とため息混じりに呟いた老爺は、しばしの沈黙の後、ゆっくりと口を開きました。
「…………よく、聞いとくれ」
…………何やらただならぬ雰囲気です。皆様、厳粛にお聞きしましょう。
「お前さんはあの終戦の日から十年、永らく眠り続けておったんじゃ」
…………な、なんだってー! ニンゲンが十年間、一度も起きることなく眠っていたなんて! 衝撃の事実発覚だ! これはものすごく続きが気になるぞー! もしここで話が終わってしまったら、続きを読む以外の選択肢はないじゃないかー!
というわけで第一話はここまででございます。 そんな、残酷すぎるッ! という読者様はこの下の「次のエピソード」をクリックすることを強く推奨します。
あと、これはあくまで世間話程度の雑談でございますが、「応援する」と書かれたハートマ……ああ、ダメだ! ワタシの口からはとても恐れ多くて申せない!
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