第2話 それが、三人称神視点!(大改行ドヤ顔)

 全知全能の神などと大層な役回りを担うことになったワタシこと神ですが、この物語が物語だとして、すなわち書き手だとか作者だとか、ワタシとは別に、真の神と言える存在があったとして、前書きから我先にと図々しく初登場を飾るような狼藉人を主人公にしようとは考えぬでしょう。


 当然ワタシはスポーツ漫画の主人公役のような熱い信念は持ち合わせておらず、可憐なヒロイン役だなんて考えただけでおぞましい。主人公と切磋琢磨するライバル役なんかになってしまえば、途端に作品全体が芋っぽくなってしまう。


 ワタシなんて、せいぜいお情けの友情出演として、村人A……の従兄弟いとこ役くらいを寂しく演じているのがお似合いなのです。


 最近流行りの、カップルがレストランで食事をしているときに突然周囲のヒトビトが一斉に踊り出すパフォーマンスをご存知ですか? いえ、ワタシは先にお伝えした通りの愚図ですから、最近流行りのという口上には正確性を欠くという点は補足しておきますが。


 ああいうのをフラッシュモブパフォーマンスと言うそうですが、ワタシには、感動のあまり号泣する女性も、数十回の打ち合わせの結果見出した絶好のタイミングで婚約指輪を披露する男性も似合いません。


 ワタシなんぞは大してよく知りもしないカップルのために、何日も何週間も時間をかけて踊りを練習してきたフラッシュモブのヒト……を見て驚いている本当になんの関係もないヒトくらいがお似合いなのです。


 なぜか主役の彼女と一緒におどおどしながら踊りを見ている、フラッシュモブに紛れてしまったほんまもんのモブがお似合いなのですよ!


 ……ではワタシは一体何者なのか? 主人公でもなければヒロインでもないモブキャラクターがおいそれと物語の初めにしゃしゃり出て良い筈もない。


 ワタシはキャラクターであってキャストでない。


 ワタシは言うなれば影。


 光がなければ影ができないように、影がなければ光も存在できない。物語において、とりわけ小説において、ワタシは影なのです。


 ワタシがなければ小説は小説たり得ない。


 だってそうでしょう。カギカッコで埋め尽くされた文章を小説とは言いがたい。会話文だけで構成されているものをヒトは小説と言わない。小説としてあるべきモノがないのですから。


 ヒトはそれを、語り手と言います。


そう、ワタシはこの物語の語り手なのです。


「そう、ワタシは語り手なのです(ドヤ顔)」と、さも壮大な伏線回収をしたように振る舞うところはワタシの星の数ほどある欠点の一つだ、ということは自覚しておりますが、この話はこれで終わりではありません。


 語り手というのは呼称の一つに過ぎない、というお話です。ワタシに【顔面土砂崩れ】だとか【村クエのウラ○ンキン】などの数多の蔑称があるのと同様に、語り手にもナレーターだとか、ストーリーテラー、なんて若干仰々しい呼称もあったりするようです。


 しかしがある特別な条件を満たしたとき、もう仰々しいなんて言葉では済まされない、非常にうざったるくて鼻につく呼称をされるのです。











 それが、三人称視点。
































 三人称……視点!  (ドヤ顔)


 ……失礼しました。ここまでえらく長々と語り倒しておいて、果てが大改行ドヤ顔という痴態につきましては、それは深くお詫び申し上げます。要するにワタシは、この小説の語り手であり、それをヒト様は神だなんて仰々しい呼び方をするものだからすっかり舞い上がってしまって、自称・神という素っ頓狂なキャラクターに成り下がってしまった阿呆なわけです。


 すると、ぼちぼち本格的にワタシに嫌気が差してきたという読者様は、これから永らく地の文として、この肥溜めの残滓ざんしのようなヤツの文章を読まなければならないのか、と絶望されておられるやもしれません。


 しかし心配は無用です。この小説の大半は、主人公やヒロインたちがとして胸の内を明かしてくれます。


ワタシが登場するのは、彼らが場面上にいないときや、主に演出的都合で彼らの心情を読者様にお伝えできないとき。つまり極めて例外的な場合です。


ですからワタシが語り手を務めるときは、やむを得ない大人の事情が発生したときだと理解して頂ければ恐縮です。シンプルに作者の表現力不足と受け取ってもらっても構いません。


 さて、これにて長かった前書きも終わり。


 これから先、読者様が出会うのは【最高に熱い主人公】や【最高に可憐なヒロインたち】、そして【最高にカッコよくて最高にお約束な物語】でございます。


ワタシは所詮、神の名のもとに天上から彼らの終末を見定めるのみでございますが、どうか『爀者―カガリモノ―』を、彼らの物語を、ワタシ共々ご贔屓にお願い致します。

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