爀者―カガリモノ―

えなどりまん

旧章

ワタシの前書き、前書きのワタシ編

第1話 ワタシのことは、どうぞこうお呼びください。

「やあやあ、親愛なる読者様よ。ご教授ください。彼は何故生きておるのか? 」


……いささか話が突飛でありました。名乗りもせずにいきなり気安く、やあやあなどと語りかけるのは傲慢そのものですね。


 心より謝罪します。それはもう深く、太平洋に広がる世界最深の海、マリアナ海溝より五倍は深く反省しております。ものすごいです。ものすごい猛省です。


 ……もしかしてワタシ、いちいち表現が回りくどくてうざったるい、のでしょうか?


 わざわざ貴重な時間を割いてこの小説を読んでいただいているというのに、陰鬱な気持ちにさせてしまうのは非常に心苦しいのですが、それは仕方のないことなのです。


 なぜならそれがワタシのだから。陰鬱で、うざったるくて、鼻についてしかたない、それがワタシのだからです。


 自己紹介をしましょう。繰り返すようですが、ワタシは陰鬱で、うざったるくて、鼻について仕方ないを、役どころを任された者です。


 ワタシの名前は……さして重要なことではありませんし、読者様のお好きなようにお呼びして頂きたいと思います。


 読者様の豊かな想像力の限りを尽くし、ワタシの容姿を非常に残念なものに想像して頂いた上で、顔面土砂崩れだとか、村クエのウラ○ンキンだとか存分に卑下して頂ければ幸いです。


 ええ、そうですね。小説というのは所詮絵空事に過ぎないわけでありますが、なればこそ、読者様にはより克明な絵空事を楽しんでいただきたいものです。ワタシの容貌はひとまず、ワタシと読者様のひとまずの共通認識として、【村クエのウラ○ンキン】、といたしましょう。


 なんといっても前面に大きく張り出した特徴的な、強烈的といってもいいインパクトのある顎。そして、巨大な体躯や顎と比較するとあまりに不相応で、幼稚性すら感じる小さくつぶらな瞳。彼ほどとしてふさわしい造形もそうありません。そんな彼を何らかの謎技術によって人間の寸法に圧縮し、より正確には胴長短足に圧縮した姿がワタシである、そう理解していただければと思います。胴長短足顎、といった具合であります。


 もちろん、ワタシは港クエなんて凶暴な存在ではありません。思いっきり村クエであります。せいぜい星4、といったところでしょうか。……イマドキは里とか集会所とかいうのかもしれませんが、なにぶんワタシは愚図なもので、どうにも人間社会のスピードに付いていけないのです。ワタシの狩猟スピードでは五十分針はおろか、最新作まで追いつきようもない、まあそんな愚図なのです。


 なんだか、話がとっちらかってしまいましたね。まあとにかく、ワタシのことはそんな欠点と欠点を掛け合わせたような類い稀なるゴミクズとして、【村クエのウラ○ンキン】と、そう卑下し、忌み嫌って頂きたいのです。


 しかしもし、もしのもし、万々が一のことではありますが、ワタシのような道ですれ違ったら唾を吐きかけるのが道理であるほどの浅学非才の若輩者であっても、愚弄するのはどうにも気が引ける、というマリアナ海溝より十倍深い慈悲の心をお持ちの読者様がおられましたら、ワタシのことはどうぞこうお呼びください。




















、と。
























 ……ああ、言ってしまった! これでワタシはマリアナ海溝よりうんたらかんたらの、それはもう慈悲の権化ともいうべき読者様にさえ嫌われてしまったことだろう! なんてこったい! 


 とはいえ読者様に嘘をお伝えするわけにも参りません。ワタシは真実をお伝えする者なのですから。


 。それはキャラ設定などというあやふやで不安定なものではない。断じてないのです! 


 ワタシは生まれながらにして神であり、神はワタシなのです。


 故に、神は陰鬱。


 故に、神はうざったるい。


 故に、神は鼻に付いて仕方ない。


 故に、ワタシは神。


 ……どうやらワタシ一人でヒートアップしてしまったようです。ワタシのような、名前すらあやふやな者の自己紹介をお聞きになっても無意味なことでしたね。


 随分と長くなってしまいました。此度はここで打ち止めとして、次回本当の前書きを綴るとしましょう。


 ですからこれは、前書きの前書きです。本当に回りくどくてゴメンなさい。


 ワタシというのはどこまでもどこまでも回りくどくてウザくてぶつぶつぶつぶつぶつぶつ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る