第5章 約束
ドン!
「痛っ!」
僕たち二人は、地面の上にいた。五階建ての学校の屋上から落ちたのだ。怪我をしていてもおかしくないはずなのに、怪我ひとつとしていなかった。だけど、その時はそんなこと、不思議にも思わなかった。
「おい、ハル、大丈夫か?」
マサが声をかけてきた。
「うん、大丈夫だよ。マサは大丈夫?」
「あぁ、俺も大丈夫だ。地面に落ちた瞬間は痛かったけど全然なんともない。ところで、ユキはどこに行ったんだ!?」
僕たちはユキを追って、屋上から飛び降りたはず。なのにユキの姿が見当たらなかった。
「本当にびっくりしたわ。あなたたち、まさか屋上から飛び降りるなんてこっちがヒヤヒヤしたよぉ~。ここじゃなんだし、校舎の裏へ行こうかしら」
頭上から、ユキの声が聞こえた。空を見上げると、ユキはフワフワさせた笑顔を見せて空をフワフワと飛んでいた。
「ユキ、どういうこと?」
僕の聞いた「どういうこと?」には色々聞きたいことが含まれていたが、そんなことは気にも留めずにユキは言葉を返してきた。
「ハル、マサ、とにかく校舎裏へ来て」
ユキに言われた通りに、僕たちは校舎裏へと向かった。ユキは空から地上へと降りてきた。
「あのね、実はあたし魔法使いなの」
僕たちはその言葉を飲み込むのに数秒の時間がかかり、なかなか意味を噛み砕くことができなかった。そして、その言葉の意味を理解したときにはもうすでに自分たちがとてつもない過ちを犯していたのだということに気づいた。
「もちろん社会的に魔法使いが嫌われていることは知っていた。でも、ハルやマサにあんなに言われるなんて思ってなかった。岩代教授が言っていたけど、大人になったらもう地球では生きることができないの。戸籍上では十六歳だけど、一歳の時に地球に来たから本当の年齢は十七歳なの。つまり、誕生日を迎えたらあたしはもう死んでしまう。そして、二人の魔法使いに対する思いを聞いてショックでここから飛び降りて死のうと」
僕たちは一人の少女の命を奪ってしまうかもしれなかったのだ。
「ユキ、ごめんね。まさか、ユキが魔法使いだったなんて思っていなくて。本当にごめん」
僕には謝ることしかできないということがとても辛かった。
「ごめんな、ユキ。本当にごめんな」
僕たち三人は泣いていた。ユキがそして口を開いた。
「いつかは言わなければならないと思っていた。二人のことを信用しているのだから、もっと早くちゃんと伝えておかないといけなかった。でも、あたしが魔法使いだなんて知ったら嫌悪されて、今までの仲が崩れてしまうのではないかと思うと怖くて言えなかった」
そう言うと、ユキは泣きながらも僕たちに笑顔を見せてきた。
「でもね、自分の身を投げてまであたしを助けようとしてくれて本当に嬉しかった。だから、あたしはここで二人にあたしが魔法使いだってことを伝えれたの。あたしが魔法使いだったとしても、友達のままでいてくれるかしら?」
僕とマサは目を合わせて深く頷いた。
「うん、絶対友達のままでいるよ」
僕たち二人の言葉に、ユキは満面の笑みを浮かべていた。そんなユキが言った。
「にしても、マサもハルもすごいね。ハルなんか高いところ無理なのにね」
「いや、あの時は本当に必死で」
友達のためなら、僕の臆病なところは無くなってしまうのだということに気づいた。それだけ僕にとっては、ユキやマサのことが大切なのだろう。
キーンコーンカーンコーン
お昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴った。僕たちは走って教室へと戻った。その後、お腹のすいた状態で二時間の授業を乗り切り、放課後になった。三人で中庭に集まってご飯を食べながら話をした。
「さっきの話の続きをするね。あたしの誕生日は知ってるよね。八月十五日なの。そこで本当は十八歳になる。つまり、大人。この地球上にいたら死んでしまう。ただひとつ、あたしが魔法使いじゃなくなればこの地球で生きていくことができるの」
マサがユキに尋ねる。
「できるのか?」
「あたしは、魔法使いのお母さんと普通の人間のお父さんの間に生まれたの。お母さんとあたしは魔法使いであることを隠して生きていたの。もし周りの人にバレたら殺されるかもしれなかったから。でも、魔法使いに有毒な物質がまき散らされたせいであたしのお母さんは亡くなってしまったの。お父さんはそのショックで自殺してしまった」
ユキが泣いていた。それでも話を続けようとしていた。
「で、お母さんから聞いたんだけど、魔法使いの中には地球にいたら酷い目にあうからと他の星に魔法で逃げていた魔法使いも多いらしいの。あたしのお母さんは地球が大好きで、狙われる危険があったとしても地球に戻ってきたんだけどね。それでね、あたしは魔法使いの住んでいる星に移動する魔法はなんとなく覚えてるの。でも、一人ではその魔法が使えないみたいなの。三人いないと使えない魔法だから。つまり、二人が必要なの。だから、一緒に来てほしい。向こうに行けばあたしのことを普通の人間にできる魔法使いがいるはず。だから、お願いしますっ...」
ユキは両手を合わせて、僕たちにお願いした。
「いいよ、もちろん。絶対ついて行く、約束するよ」
「ありがとう、ハル」
「俺ももちろんついて行くぜ」
「マサもありがと。夏休みに入ったら、集まろっか」
僕たちは校舎を出て駅へと向かった。家に着いたときには夕日が沈んでいて、少し星が見え始めていた。「僕たちは、絶対にユキを守る」って、そう呟いて玄関のドアを開けて家の中へと入った。
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