第41話 大切な……人……。


「はぁ〜、疲れたよ〜。ごめんね〜手伝えなくて〜」

「いいってべつに。それよりお疲れ」

「ありがとう〜」


 トタトタとこちらに歩み寄ってきた姫咲は安心したように微笑む。


 琥珀と最愛のライブ後、その2人がそのまま参加者たちに混ざる形で立花先輩司会のオリエンテーションが行われた。

 狙い通り、会場は大盛り上がりだ。

 しかしそれでも、馴染めない生徒はいくらか散見された。

 それらの生徒の対応が、会場の声を生で聞きつつ動き回れる俺と姫咲の役目。

 姫咲がその人懐こい笑顔とコミュニケーション能力で生徒を導き、俺はナゾのウザ絡みを繰り返した。


 その中で、会場を後にしてしまった影もひとつ。


『帰るのか?』

『はい…………』

『でもまだ、シュンと話してないだろ?』

『はい…………ごめんなさい』

『あ、おい……!』


 慌てて呼び止める。


『なんかあったら頼ってくれよ! シュンとオマエがどういう関係なのか知らねえけど、俺はアイツの友達だ! だから……』


『……もし、わたしに、………………があったら』


『え……?』


『ごめんなさい』


 小さな呟きと共に、悲しく寂しそうに瞳を濁した彼女、白兎柊翠しらとひすいは一足早くこの場を去った。

 心苦しい想いもあるが、彼女はそもそもの目的が他の生徒と異なる。

 だから引き止める言葉は見つからなかった。


 そしてオリエンテーションも終わり、しばしの憩いが設けられると、予想外の事態が起こった。


 生徒会のメンバーそれぞれに囲いが発生したのだ。

 あ、俺にはいませんでしたけどね?

 どぼして……?

 なぜ俺を囲ってくれる美少女たちはおりゃんのですか……?


 琥珀と最愛なら分かるが、まさか姫咲と先輩までとは……。彼女らの人気を甘く見ていた。


 しかしなんとか人混みを抜け出した先輩が司会に戻り、歓迎会が次のスケジュールへ進んだことで姫咲は解放され帰ってきたのだった。


 現在はお馴染みでありお楽しみでもある景品抽選会が行われている。

 景品は先輩がどこからか調達していた。

 最新ゲーム機や電化製品、ご当地グルメなどなど、なかなかに豪華なラインナップだ。


 俺にも一応抽選券は配られているが、まぁそう簡単には当たらないだろう。


 姫咲と2人で遠巻きに会場の様子を眺める。


 すると、姫咲が妙にソワソワしていることに気づいた。


「どうした?」

「え!? いや、その、えっと、ね〜?」


 誤魔化すように大袈裟に手を振り、微笑む姫咲。


 そうしながらも視線はキョロキョロと彷徨っていて、まるで誰かを探しているようだ。


 姫咲らしくない、いわゆるきょどっているような態度。

 それを見てようやく合点がいった。


「大丈夫だ。ここにアイツらはいない」

「え……そう、なの? ほんと? 大丈夫? さっきの見て、また何か……言われたりしてない……かな……」


 さっきの、とは一年生に囲まれてチヤホヤされていたことだろう。

 一緒に写真を撮ったりまでして、まるで芸能人のような扱いだった。


「2、3年を招いたのはシュンだからな。変なやつは連れてこないよ。つーか、一年生的には人気読モに会えて大喜びだ」

「そ、そう、かな〜……」

「誰も、姫咲を悪く思っちゃいない」

「そっか〜」


 感情を飲み込むように、姫咲はコクリと頷くと俯きがちだった顔を上げた。


 そしてすぐに笑顔をみせる。


「あ、抽選もう終わっちゃうね〜。当たらないかな〜?」

「どうだろうな? まぁ、ラストに生徒会役員が景品持ってくのもどうかって感じだし……」

「だね〜、そうかも〜」


 あははと笑い合い、抽選の行く末を見守る。


 と、最後の当選者がステージへ招かれた。


「あら、猫村さん?」


 え?


 会場内に立花先輩の驚き混じりな声がマイクで響く。


 ステージに現れたのは天使コスのままの琥珀だった。


「あ、琥珀ちゃんだ! すご〜い!」

「……なにこんなとこで運使ってんだ、アイツ」


 恐縮なのか、琥珀はオズオズと先輩に尋ねる。


「あ、あの、いいんですか? ワタシが貰って……」


「もちろんよ。あなただって参加者の1人だもの。ぜひ、受け取って?」


「そ、そうですか……」


 先輩が微笑むと、琥珀は安堵のため息を漏らした。


 訳(これ以上目立ちたくない。ワタシは要らないので他の人にあげて)


 だったとは思うのだが、これも運命の悪戯。


 琥珀は先輩の元へ進み出て、最後に残っていた小さな封書を受け取った。


「これは……?」

「おめでとう猫村さん。最後の景品は、遊園地のペアチケットです。お友達や、大切な人を誘って行ってきてね?」

「た、大切な……人……」


 まさかの景品に琥珀は思考が停止したようにフラフラとした足取りでステージを降りる。


「あん……?」

「どうしたの〜?」

「ん、いや。べつになんでも……」


 一瞬だけ、琥珀と目が合ったような気がした。

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