第37話 ダメだよぉ……みんなぁ♡
————女湯。
「お風呂だ〜! 貸切だ〜!」
萌香はいち早く制服を脱ぎ去ると、豊満な身体を弾けさせて浴場へ飛び込んでいく。
「ふふっ、本当な。まだ時間が早いからかしら」
萌香に続くように、瑠璃はタオルで前を隠しながらウキウキと後を追った。
そんな年上組の姿を見て、奏は軽くため息をつく。
「まったくぅ、先輩方は大はしゃぎですね————とぉ、あれ? あれあれぇ?」
奏はまるで新しいオモチャでも見つけたかのように、隣をすり抜けて行こうとした同級生、琥珀へ声をかける。
すると琥珀は立ち止まり、迷惑そうに視線を寄せた。
「…………なに」
「えー? 猫ちゃんったらどうしてそんなにしっかり、身体を覆い隠すみたいにタオルを巻いてるのかなーって思いましてー? マナー違反ですよー?」
「………………」
奏は琥珀を煽るように、ニマニマと笑みを浮かべる。
「もしかして……身体に自信がないんでしょうかぁ? そうですよねぇ、猫ちゃんってよく見たらすごく貧相な身体してますもんねぇ。私たちの前じゃ恥ずかしくてタオルを取れませんかぁ?」
「キサマ……っ」
ギラリと琥珀の瞳に炎が宿る。
「貴様って、そんなに動揺してどうしたんですかぁ?」
「……ぐ、……そ、そっちだって、そんなに変わらない」
「そんなことないですよーだ。私はなんと、Cカップあります。むふん」
「なっ…………!?」
奏が胸を張ると、ぷるんと揺れる2つの物体。
それはたしかに萌香や瑠璃と比べれば小さなものだが、琥珀にとっては自分より十分に大きいことを思い知らされた。
少なくとも琥珀の胸は、そんなふうにピクリとも揺れない。
「あれー? どうしましたー? 猫ちゃーん? ダンマリですかー? もしかして落ち込んじゃいましたー? ごめんなさーい」
「…………うるさいっ」
「わぷっ!? え……!?」
「ふん」
琥珀はタオルを取っ払うと、そのまま堂々と浴場へ足を踏みいれる。
ここで悔しがっても事実は変わらない。
それなら、隠している方が惨めだ。
何より、このまま奏にバカにされるのは堪らない。
「わお、男らしい! いえ、この場合は女らしい? ですかね?」
奏は琥珀のタオルを抱えたまま、慌てて追いかけた。
「はぁ〜、気持ちいいね〜」
「はい。いい湯加減ですね。……萌香さんのとなりぃ……にへへ」
貸切状態の湯船に浸かると、しっかり萌香の隣を陣取った琥珀が頬を染めてニヤけた笑みを見せる。
機嫌はすっかり治ったらしい。
「なんなんですかねあの子。何重人格? もうよく分からないです……」
仲睦まじい2人の様子を一歩引いて見つめる奏。
その隣には、長い黒髪を結った瑠璃が並ぶ。
「微笑ましいわね」
「はー? そうですか? 猫ちゃんヨダレ垂らしそうですけど」
「あの子なりに緊張を紛らわせようとしているのよ」
「難儀な猫ちゃんですねぇ」
「あなただって同じじゃないのかしら」
「何のことですかねー。私はいつでものらりくらりと気楽に生きてますよ」
「そう。ならよかった」
さらりと流すように会話を切った瑠璃を、奏は訝しげに見つめる。
しかしポーカーフェイスに笑む瑠璃の感情を読み取ることはできなかった。
奏は気を取り直すように一息をつく。
「(しかし……やっぱりあれ、気になりますよねぇ)」
視線の先にあるのは、萌香の胸元にぷっかりと浮かぶ2つの浮き袋。
一体何が詰まっているというのだろう。
琥珀よりは大きいとマウントは取ったものの、萌香と瑠璃を相手取るなら奏にとって胸元の寂しさは唯一のコンプレックスである。
ゆっくりと円を描くように周り道しながら、萌香と琥珀の背後へとまわる。
そして、
「姫咲先輩。ちょーっと失礼しまーす」
「え!? 奏ちゃん!? いつのまに————あん!?」
萌香の胸元のたわわを鷲掴んだ。
「もみもみー。うわ、柔らかっ! ヤバいですよこれ! こんなのもう兵器! 世の中の男性がメロメロになるワケですねぇ……」
奏は興味深そうに鼻を鳴らす。
「あっ……ちょ、らめぇ……んんっ……かなで、ちゃぁん……んっ……♪」
「いいじゃないですかー。減るもんじゃありませんしー。気持ちよーくしてあげますねぇ」
「ああ……んっ♡」
奏のテクに、萌香は切なげな声を漏らす。
「ちょっと、何してるの。萌香さん嫌がってる」
「ええー? もっとよく見てくださいよー?」
奏はさらに華麗な手つきで揉みしだき、琥珀の視線を促す。
「あっ、らめぇ、これ以上はぁ……♪」
「本当に嫌がっているように見えます? このイヤイヤは、もっとして♡って意味なんですよ?」
「…………っむぅ」
萌香のどこか恍惚とした表情に怯んでしまう琥珀。
「ほらほら。猫ちゃんも実は興味ありますよね? 大きなおっぱい。触ってみましょ?」
「ぐ、ぬぬ……」
琥珀を誘惑するように奏は萌香の胸をたぷたぷと揺らす。
湯船には綺麗な波紋が振動として伝わり、そのたびに柔らかな胸は形を変えてゆく。
「こはく、ちゃん……♡」
「…………!!」
その甘えるような声が、琥珀が堰き止めていた最後の理性を消し去った。
「ご、ごめんなさいっ!」
正面から萌香へ向かって手を伸ばす。
「ふわぁ……柔らか……きもちいい……」
「でしょー? すごくないですかこれ。一生揉んでいられますよー」
「あっ……琥珀ちゃんまでぇ……♪」
ビクビクと震えるようにか細い声が漏れる。
しかしそんな声を諸共せずに、後輩2人は先輩の偉大なたわわを揉みしだき続けた。
「あ、あの。私はこっち、いいかしら」
「あへ?」
ひっそりと3人の元へ近づいていた瑠璃が、萌香の腰、お腹まわりへと手を伸ばす。
「わぁ、すごいほっそりしていて……それに肌もスベスベ……さすがモデルね。羨ましい……」
「あんっ、かいちょーくすぐったいよぉ……♪」
「ごめんなさい。もうすこし。もうすこしだけだから……」
もはやどこを触られても反応してしまう萌香は艶やか声を出してプルプルと堪えるように震える。
もしここに男がいたなら卒倒不可避だろう。
4人の美少女によって、それほどまでに魅惑的な光景が作りだされていた。
まるで何かに取り憑かれでもしたかのように、夢中になって3人は萌香の身体を触り尽くす。
「あ、ダメ。ダメ、ダメだよぉ……みんなぁ♡ もう、わたしぃ……んんっ————ああっ♡」
浴場にはいつまでも、萌香の声だけが響いていた。
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