第24話 提案があります。
「くっ…………!」
「この…………っ!」
琥珀を加えてスマシスを初めて数分。
ゲーム画面では琥珀と立花先輩の熾烈な攻防が繰り広げられていた。
幼い頃から俺と一緒にゲームをやっていた引きこもり系ボッチ幼馴染の琥珀はゲームが上手い。
自信満々に提案しておいてクソ雑魚のビッチとは違うのだ。
まさに一進一退の闘い。
2人の独壇場。
その裏で、
「ねぇねぇ、姫咲先輩」
「なあに〜? 奏ちゃん」
「組みましょう。私たち」
虎視眈々と、小賢しい悪巧みを始めるビッチがひとり。
琥珀と立花先輩の闘いの端で、姫咲と最愛の2人は倒されることすらなく完全にスルーされているのだ。
「組む〜?」
「チームアップのお誘いです。2人で協力して、猫ちゃんと立花先輩を倒しましょう。1人で出来ないことは2人で成し遂げるのです」
「なるほど〜。わかった! じゃあ今からわたしと奏ちゃんは味方だね〜!」
グッと握手をするふたり。
姫咲萌香は役立たずのクソ雑魚ビッチを手に入れた!
「ふっふっふ。最後には裏切られるとも知らずに……」
「その前にオマエが死ぬだろ」
「なにをー!? せんぱいは誰の味方なんですか!」
「少なくともオマエの味方ではない」
「ぐにゅぅ……忌々しいです……いっそもうみんな死んじゃえばいいんだ……」
俺の即答に最愛はぐぬぬと顔を歪め、闇のオーラを纏い始める。
「行きますよ! 姫咲先輩! 私たちを無視する2人なんて背後からブスリです!」
「お〜!」
意気込んで琥珀と立花先輩の激しい闘いの最中へ忍び込んでいくが……
「……ジャマ」
「ごめんなさいっ」
「ぎゃー!?」
「わ〜!?」
2度目の悲鳴が響いた。
だから、ズルして覆るくらいの実力差じゃないんですよ……。
姫咲と最愛が退場し、今度こそ琥珀と先輩の一騎打ちが始まる。
「会長には負けない……っ」
呟きが俺にだけ聞こえた————その数分後。
「うぅ……負けたわ……」
立花先輩はコントローラーを置き、両手をついて崩れ落ちた。
「やった……っ」
小さくガッツポーズする琥珀。
その表情には珍しく晴れやかな笑顔が灯っていた。
「ということは琥珀の勝利————」
「ちょっと待ったー!」
最愛が銀髪を揺らして立ち上がり、抗議するように手を挙げる。
「誰も一回勝負なんて言ってません!」
「何をいきなり……見苦しいぞクソ雑魚」
「いいんです! 見苦しくてもなんでも、私が勝つまでやればいいだけのこと! それが世界のルールなのです!」
「んな暴論……」
しかし最愛は本気でるらしい。
おふざけの色もなく、訴えかける。
これだから全てが自分の思い通りなにると思い込んでる厨二は……もう高校生なんですよオトナになってください。
「姫咲先輩も、そう思いますよね? 勝ちたいですよね?」
「え? うーん。そうだね〜。やっぱりわたしも、一回くらい勝ちたいな〜!」
「えぇ……」
「もう一回やりたいな〜」
最愛の質問で火がついたように、姫咲は駄々をこね始める。
「ですよね! さすが人気読モさんとは意見が合います!」
「えへへ〜」
最愛と姫咲は何かと気が合うというか、最愛が上手く姫咲の純真な部分を利用しているように見える。
クソっ、姫咲に言われると俺にはもう拒めない……!
こんな時こそ獰猛な幼馴染の出番だ!
いけっ、我が支配下にあるネコよ!
「ま、まぁ、萌香さんが言うなら……まだ、やる?」
満更でもなさそうに頬を染めて、琥珀はコントローラーを構えた。
「ほんと〜? ありがとう〜琥珀ちゃん〜」
「に、にへへ……」
何嬉しそうにニヤケてんだよ!
そんな顔見たことねえよ!?
「これで話は決まりですね。立花先輩はどうしますか? あれだけ豪語しておいて負けたのが恥ずかしいなら、ぜひ帰ってください♪」
「あら、言うわね。でも残念。帰らないわ」
先輩はコントローラーを持ち直し、琥珀へ視線を流す。
「猫村さん、もう一度胸を貸してもらえるかしら」
「やるなら、受けて立つ」
「ありがと。……次は負けないわ。こう見えて私、負けるのは大嫌いなの」
こうして、最愛のワガママが発端となり延長戦が開始される。
もうめちゃくちゃだよ……。
ってことで、いい加減俺も参加していいだろうか。
俺の家で、俺のゲームを提供しているのになぜ俺が観戦しか許されないのか。
俺が全員ボコにしてやんよ。
チート能力なんてなくても、一般男子高校生はゲームの中で無双できるんよ……。
俺はひとり意気込むが……
「あ、あれ?」
コントローラー、余ってなかった……。
・
・
・
結局、あの後は勝負のことなど忘れたゲーム大会の様相を呈した。
「やるわね、猫村さん」
「そっちこそ」
2人はどこかお互いを認め合うように視線を交わす。
2回目の対戦では立花先輩が見事琥珀に勝利し、次の戦いでは琥珀がまた勝った。
それが繰り返され、一向に明確な勝敗はつかないイーブンの闘い。
その拮抗は、最後まで破られることがなかった。
「ぐにゅう……悔しいです……」
「やっぱり勝てなかったね〜。でも〜、よしよーし、奏ちゃんも頑張ったよ〜」
やはりと言えばいいのか、最愛と姫咲は最後まで一度も勝てなかった。
俺は永遠に琥珀のイスになっていた。
————気づけば、夕刻。
「ごめんなさいスズメくんっ。結局こんな時間までお邪魔してしまって……!」
時間の経過に気づいた立花先輩は申し訳なさそうに頭を下げたが、なんだかんだ言いつつも俺含めて全員が楽しんでいたからと、和やかなムードは崩れなかった。
半日の間、本気で遊べば多少の信頼や絆のようなものも生まれる。
そして、わずかな名残惜しさを残しつつも解散の時がやってきた。
「あ、あの、帰る前に少しだけ……いいかしら」
「先輩? どうかしましたか?」
「今日は私、失態ばかりで……スズメくんや猫村さんにも迷惑をかけて……あまりこんなことを言えた立場ではないのだけど……」
「…………?」
真剣な様子で語り始めた先輩の意図が読めず、俺や琥珀は互いに視線を合わせる。
「今日、とても楽しかったです。あなたたちとなら、いつも楽しくいられる気がします」
長い黒髪が美しく舞った。
先輩は俺、琥珀、姫咲、最愛と、1人ずつと視線を交わしてゆく。
「だから、猫村さんにはすでに何度か話しているのだけど……私からひとつ、みなさんに提案があります」
再び俺へと視線を戻した先輩は、偽物の関係を結んだあの日を思い出す柔らかい笑みを浮かべていた。
◇◆◇
来客が去ると、未だ両親の帰らない家は静寂に包まれた。
まるで、さっきまでの騒がしさが夢だったかのよう。
しかしたしかに、さまざまなことが起こった一日だった。
有耶無耶になってしまった琥珀との練習。
美少女3人の突然の来訪。
帰り際に為された、先輩の提案。
この騒がしさは今日だけでは終わらないと、不思議と確信もって予感する。
そう思うと、自然に笑みが浮かんだ。
————ピンポーン。
「ん……?」
不意にインターホンが鳴る。
新たな客人か、それとも誰か忘れ物でもしたのだろうか。
「はいはーい」
玄関の戸を開けると、オレンジに照らされる彼女が、その夕日よりも眩しく笑んで立っていた。
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