第23話 ————待って。
「あ〜! 負けちゃった〜かいちょー強すぎるよ〜!」
最愛と戯れていると、まもなく姫咲と立花先輩の試合が終わったらしい。
結果は、先輩の圧勝。
「いや先輩、マジで上手いですね」
「そうかしら?」
「マジマジ」
先輩がゲームできる人だなんて、ますます好きなっちゃうけどいいですか?
カノジョになったら暇な休日、隣り合って一緒の布団を掛け合いながらゲームできたりするんだろうか。
お家デート。
憧れてしまう、趣味の合うカノジョ。
「わたし何もできなかったよ〜」
「私なんてもう立花先輩が何やってるのか分からないんですけど。ちーと、というやつなのでは?」
「初心者が滅多なことを言うんじゃねえよ……」
「ぶー」
最愛が口を尖らせる。
だから銀髪令嬢な顔でそれ、やめません?
最近よくある転生者なんじゃなかろうか。
転生したら銀髪美少女だった件。中身はおっさんか……萎え。
「弟が、いるのよ」
先輩が呟く。
「え? 弟さん?」
「ええ。よく一緒にゲームしていたから」
「へぇ。そうなんですね」
先輩に弟がいるなんて初耳だ。
先輩に隠れて弟さまを懐柔するべきか、先輩と一つ屋根の下で暮らす超絶ラッキーボーイとして処刑するべきが。迷うところだ。
「まぁ……今はもうまったく、私とは遊んでくれないんだけど……。昔一緒にやってたゲームならどうかなって……ひとりで特訓していたから上手くなってしまったのかしらね……」
「ええ……ちょ、先輩……?」
「うぅ……最近なんてまともにお話もしてくれないの……」
どんよりと哀愁が漂い、先輩が悲しそうに重たい空気を纏い始める。
なんだよ、俺が弟だったら先輩から1秒たりとも離れないのに。
毎日必ず一緒にお風呂に入って一緒のベッドで……うぇへへへへ……。
先輩にこんな顔をさせる弟はやはり人知れず海の藻屑にでもしてしまおう。
「あ、立花先輩弱ってますね。今のうちにやりましょう」
小狡いビッチが対戦をスタートさせる。
「ぎゃー!?」
「わ〜!?」
直後、最愛と姫咲の悲鳴が響いた。
落ち込んでいても強さは変わらないらしい。
「このままじゃ立花先輩の圧勝ですよー。つまんなーい」
「え〜? わたしはみんなとゲームできて楽しいよ〜?」
「勝てなきゃ意味はないんですよ!」
「そうかな〜?」
俺としては先輩が勝ってくれれば何でもいいけれど、確かにこのままでは面白味に欠けるというのは分からなくもない。
一瞬でケリを付けると宣言した先輩が手を抜くようなこともないだろう。
最愛の言う通り、先輩の勝利は確実だ。
姫咲は楽しんでいるようだが、最愛はつまらないままお帰りになってしまう。
ん? べつに何の問題もないな。
「よし、そろそろ本試合といくか。先輩、決めちまってください!」
「……そうね。早く始めちゃいましょうか」
先輩がコントローラーを操作する。
「えー、待ってくださいよー。そうです、何かハンデとか————」
いや、オマエはハンデでどうにかなるレベルじゃない。
コントローラーのボタンの位置をまずは覚えようね? ってレベル。
そんな心の中のツッコミも束の間……
「————待って」
突如、リビングに新たな人影が現れた。
「話は聞いてた。その勝負、ワタシもやる」
「え、琥珀……?」
一体どこに潜んでいたのだろう。
短い黒髪を揺らし、琥珀はこちらへ歩いてくる。
そしてコントローラーを一つ手に取ると、先程まで最愛がいた俺の股の間へすっぽりと収まった。
なぜそこに座る……?
しかし、なんだかすごくしっくりくるフィット感。
ほどよい体温が身体全体を弛緩させ、安心感を与える。
小さいから頭の位置も低くて俺の視界を邪魔しないし、撫でやすそう。
「立花会長は、ワタシが倒すから」
静かな闘志を燃やすように、琥珀は呟いた。
もはや羞恥が吹っ切れて、怒りのボルテージが120%と言ったところですね。
とりあえず、手頃な頭を撫でる。
「なに」
「いや、べつに」
なんかいいなぁ、これ。ペットみたいで。
「あの」
最愛が不満気に琥珀へ顔を寄せる。
「そこ、私の場所なんですけど」
「……は?」
「だから、そこは……」
「……は?」
ヤダ、うちのペットったら睨みきかせすぎて怖い。
でもビッチからご主人様を守ってくれるなんて偉い。
もっとわしゃわしゃしてあげよう。
「何この子……もしかしたらとは思ってましたけど、やっぱり学校と全然違うんですね……」
最愛は怪訝そうに眉をひそめる。
媚びることについてはあちらもプロフェッショナル。
琥珀の猫被りにはある程度気づいていたのかもしれない。
「なぁ、いいのか?」
「なにが」
「めっちゃ素」
「モーマンタイ。萌香さん以外、生きて返さないから」
「こええよ」
「スズメも一回、イッとく?」
「どこへ!? そんなぶらり旅行気分でどこにイくの俺!?」
イライラのついでに俺までお空の彼方へ入ってらっしゃいなんてそんなことはきっとない。シンジテル。
「あらあら。猫村さんは私が勝つのを待ってくれればいいだけだったのに」
「情けはいらない」
「そう。ふふ」
先輩がどこか楽しそうに笑う。
「ふーんだ。どうせ立花先輩には敵いませんもん。やっちゃえ立花先輩ー!」
「おまえはどういうポジションだ……」
「猫ちゃんはいけ好かないのでとりあえず負けて欲しいのです」
直球。にっこり笑顔。
……女、怖いよぉ。
「次からは琥珀ちゃんも参加するんだね〜。嬉しいな〜」
「わ、ワタシも、萌香しゃんと一緒に遊べて嬉しいでちゅ!」
「わ〜ほんとに〜?」
「はい!」
「でもわたしも負けないよ〜?」
「は、はい! ……ワタシも、負けませんっ」
女の闇の直後に、微笑ましい会話を始めるんじゃありません。この読モファンめ。
「今日のスズメは……ワタシのだから」
聞き取れないほどの小さな呟きと共に、4人の最終決戦が始まる。
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