第22話 せんぱいのバカっ。

「あっ♡ そこ、ダメッ、せんぱい……っ、ああんっ♡」

「ダメじゃない。次はここだ」

「あんんっ、んんっ……そこ、弱いからぁ……♡」

「ふん。じゃあ今度は……」

「い、ひ、んんっ♡ もうらめ、らめぇ、せんぱっ、わた、わたひ、もう……あっあっあっあっ……♡」

「ああ、もうダメだな……そのままイけ……ッ」

「そんな……せんぱい、あッ————イ、くぅぅっっっっ♡♡♡」


 艶かしい喘ぎ声と同時、最愛の操っていたキャラクターがド派手なエフェクトと共に画面外へと吹っ飛んでいく。


 You Lose...!!!!


「ふぅ……やっと逝ったか……」


 最愛の敗北を見届けて、俺はソファの背もたれに脱力した。


「ぶー。せんぱい全然ちゃんとアドバイスしてくれなーい」

「オマエが変な声出すからだろうが!!」


 俺の股の間に座っている最愛に向かって叫ぶ。


「えー、せんぱい興奮してくれてたくせにー♡ さっきからお尻の方がすごくあったかいんですよねー♡」

「やめろ身体を押し付けるな股間に手を伸ばすな」

「きゃ、おっきぃ♪」

「きゃ、じゃねえええ!! どけ!」

「きゃぁっ!? ちょ、今度は本気のきゃぁっなんですけど!?」


 俺はむりやり最愛を押し退けて立ち上がり、しばしの間、席を外すことにした。


 鎮まれ……鎮まるのじゃ……我が分身よ……。


 悔しい。ビッチ相手でも身体は反応しちゃうんです。


 その後、ついでに琥珀の様子を見に行くことに。


「あれ、いないな」


 しかしめぼしい部屋を探って見ても琥珀の姿は見当たらなかった。

 もしかしたら、ひとりで帰ってしまったのかもしれない。


 数分後、リビングに戻ると再びゲームが開始されていた。


 プレイしているのは大人気格闘ゲームであり定番中の定番「大激闘スマッシュシスターズ」。


 通称、スマシス。

 簡単な操作性でガチ勢からエンジョイ勢、初心者まで気軽に楽しめる、世間の認知度もピカイチの名作ゲームだ。

 立花先輩と姫咲はプレイ経験があるということで、とりあえずはこのスマシスを勝負に使うことにした。


 そしてまずは本番前の練習ということで、ウォーミングアップ代わりに数戦やってみようという流れに。


「あーまた負けましたー」


 さっそく最愛のキャラクターが画面から退場してしまう。


 試合開始1分にして、闘いは姫咲と先輩の一騎打ちだ。


「オマエほんっとに下手だな」


 適当にソファへ腰掛けつつ、負けて手持ち無沙汰であろう最愛へ声をかける。


「仕方ないじゃないですかぁ。ゲームなんて生まれてこの方やったことありませんもん」

「それでなんでこの勝負を提案したんですかねこの子……」


 最愛だけは、このスマシスは愚かゲームをやった経験が皆無であるらしい。


 その設定だけはお嬢様っぽい顔に似合っているな。


 と思った矢先、清楚フェイスに相応しくないドヤ顔でむふんと最愛は貧しめの胸を張る。


「だって世界は私を中心に廻ってるじゃないですか。つまり何をしても私の思い通り。ゲームだって初見で圧勝のはずなんですよぉ」

「なにそれ厨二?」

「何を言いますか。私は厨二とえっちで出来ているような人間ですよ。実際、私は特別な人間なのです」

「はぁ。そうっすか」


 深堀はやめておこ。

 少し同情心が湧いたのでこれから先、俺は最愛に対してちょっぴり優しくなれるかもしれない。


 まだ……そういうお年頃なんだね……。わかるよ、うん。


「はぁ……こんなことならえっちの実技勝負にしておくべきでした……」

「アホか」


 先輩と姫咲にそんなことをさせられるはずがない。


「えーでもー、それなら私が勝つってせんぱいも思いますよね?」

「はぁ?」

「だってぇ、せんぱいこの前すっごく気持ち良さそうでしたもん。またしてあげましょうか? 今ならみなさんゲームに熱中してて気付きませんよ?」

「ざっけんなビッチ」

「でへへぇ……♪」


 断固拒否すると、なぜか最愛は嬉しそうに笑みを強める。


「ねーえーせんぱぁい、私にもっとゲーム、教えてくださいよぉ。せんぱいが望んでくれるなら、後でなんでもしてあげますからぁ」

「バッ、オマエ近づいてくんなっ」


 最愛は頰を染めて発情しながら艶やかな銀髪を揺らし、再び股の間へ入ろうとしてくる。

 俺は両手を使って全力で抵抗し、引き剥がした。


 やっぱりこんなビッチに優しくなんてなれないわ。


「もーせんぱいのイケズー。ちょっとくらいいいじゃないですかぁ」

「うるさい。むり。オマエ、クソ雑魚。勝つ可能性ゼロ。希望なし」


 最愛の要求には甘い言葉とは裏腹に「自分に協力してくれないと琥珀とのことをバラすぞ」という意味が込められている。

 そのため、さっきまでは致し方なしに操作方法を教え、面倒を見ていた。


 しかし今度はキッパリ断らせてもらおう。


 だって君、俺が教えても勝てそうにないもの……小悪魔ビッチ改めクソ雑魚ビッチさん。


「ぐにゅにゅにゅにゅぅ……」


 それが自分でも分かっているらしく、最愛は悔しそうにギリギリと歯軋りすると、


「せんぱいのバカっ」


 そう言って、わざとらしく頬を膨らませた。


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