第21話 勝った人だけが。

「お茶淹れるんで、そっちのソファにどうぞ」


 3人をリビングに通し、俺は1人、リビングから繋がるキッチンへ移動する。


「さて、どうしたもんかなぁ」


 大雑把に考えれば、すでに琥珀とあはーんなことをしようとしていたということはバレずに済んだ(約一名を除いて)のだから、あとは素直に遊んでしまえばいい。


 まぁ、その一名が問題なのだが……


「あはっ♡」


 リビングへ視線を移すと、なぜか瞬間目が合った最愛が銀髪を揺らしてウィンクする。


 うげぇ……。


「ぶー」


 露骨に嫌な顔をしてやったら口を尖らせて不満顔を返された。


 なんなんその顔。恵まれた美しき顔面でそういう顔しないでくれる?


 麦茶を人数分注ぎ終えると、お盆に乗せてリビングへ運ぶ。


 ひとまずは、最愛の行動を監視しつつ、美少女に囲まれるこの状況を楽しんでもバチは当たるまい。


 未だにどこかの部屋で隠れている琥珀は不憫としか言いようがないが、致し方ない。


 隙を見てツナ缶でも持っていき、ご機嫌を取ろう。


「どぞ」

「ありがと、スズメくん」

「いえいえ」


 順番にお茶を配り終え、やっと一息。


 俺も腰を落ち着けると、麦茶を飲んだ。


「……やっぱり、お邪魔よね」

「え? 先輩?」


 麦茶を一口飲み下すと、立花先輩が黒髪をさらりと揺らしながら、開口一番そう切り出した。


「猫村さんも顔を出してくれないし、私たちがいたらやっぱり悪いわ。お茶を頂いたら、お暇しましょう?」

「えーなんでですかー。ぶーぶー」


 子供のように抗議する最愛を宥めながら、先輩は俺の方へ向き直る。


「スズメくん。今日はこの前先延ばしにしたアレをと思って来たのだけれど……」


「え゛…………?」


 この前。先延ばし。アレ。


 アレ……?


『あ、先輩。そういえば太ももは————』

『それはまた今度よ』

『先輩太もも』

『今度』

『はい……』


 脳裏をよぎるのは、先輩と偽物の関係を結んだあの日の記憶。


 そうだ、太もも……!

 

「ごめんなさい。また今度になるわね」


 な・ん・で・す・と・ぉ・!?


「ま、ままま待って! 待って待ってお願い先輩帰らないでえええええ!?!!?」

「えっ、ちょっとスズメくん!?」


 俺は縋り付くように先輩へなだれかかる。


 あ、なんかドサクサに紛れてボディタッチしてるぞ俺。

 先輩の身体、めっちゃ柔らかいしいい匂いがする……。

 これがラッキースケベか……!(故意)


「ワガママ言わないの!」

「そこをなんとかぁ……!」

「めっ!」

「ぐぬぅ……」


 まずい。このままでは本当に先輩は帰ってしまうだろう。

 なんとか引き止める方法は……それでいて他の琥珀含む御三方にはお引き取り願える方法を編み出さなければ……!


 考えろ。考えるんだ。


 と、俺が今生最大級に脳をフル回転させていた、その時だった。


「あー! ゲームあるー!」


 マイペースに麦茶を飲んでいた姫咲が突如、テレビの方を指差して叫んだ。


 正確には、テレビの周りに配置された最新のテレビゲーム機だ。


「ねえねえ天川くん〜! わたし、ゲームやってみた〜い!」

「え、いや、姫咲……悪いが今はそれどころじゃなくて……」

「ええ〜……ダメなのぉ……? ウルウル」


 だから……なんだよウルウルって!

 あざとすぎる!

 美少女だから許されるって何度言えばいいんですか。


「いいじゃないですかぁ。やりましょう。ゲーム♪」


 最愛がここぞとばかりに便乗する。


 一体また何を企んでいるというのか。


「ね〜、奏ちゃんもやりたいよね〜」

「はい姫咲先輩。ぜひやりましょう。でも————ただゲームをやるだけというのも面白くないですよねぇ♪」


 ほらきた。どうせ碌なことじゃない。


 ニヤリと、小悪魔スマイル全開の最愛は告げる。


「だから……勝った人だけが、せんぱいを独り占めできるというのはどうでしょう?」


「わ〜、面白そう〜。勝ったら天川くんと2人で遊べるんだね〜」


「その通りです♪」


 得意そうな最愛を、姫咲はパチパチと手叩いて讃える。


 俺イズ景品。……なぜ? 俺はカップラーメンを作ることしかできない男ぞ。


「おいおいちょっと待て。それじゃあ琥珀はどうなる」


 一応の義理立てとして、口を挟む。


 今日の先約はあくまで我が幼馴染だ。

 しかし今、ここにはいない。ゲームに参加も出来ないだろう。


「逃げ出した臆病者の猫ちゃんは知りませーん。不戦敗ー。勝負が終わったら自動的にお帰り願いまーす」

「ええ……せ、先輩、どうしますー?」


 最後の砦、先輩に助けを求める。


 すると先輩はふぅっとひとつため息を吐いて立ち上がった。


「仕方ないわね。やるなら早くやりましょう。私が勝ったら、私たち3人は解散。一瞬でケリをつけてあげる」


 強キャラ感マシマシで微笑む先輩。


 いかにもな紫色のオーラが煌々と先輩から溢れ出す(イメージ)。


 でも先輩、ゲームなんて出来るんだろうか。


 いや、今はそんなことどうでもいい。


「え、どうして……!? 勝っても先輩帰っちゃうの!? 勝ったらウチにいていいんですよ!? ぜひ俺を独り占めにして!」

「だーめ。猫村さんと、ちゃんとお勉強しなさい」

「えー!? 琥珀のことなんてどうでもいいんですよぉ!?」

「あなた、さっきは猫村さんの心配してたわよね……」


 俺の必死すぎる様相に先輩はたじろぎ、苦笑いを浮かべる。


「その時の俺はお亡くなりになりました」


 欲望が最優先。

 

 両手を合わせて頼み込む。


 太もも! 太ももー!! 

 触りたい撫でたい挟まれたい埋まりたい!


「はぁ……わかった。わかりました」


 先輩はため息をつくと微笑んで、俺の頭を撫でる。


「じゃあ、琥珀さんとのお勉強が終わって、時間があったらね。そしたら、連絡してくれる?」


「先輩……ありがとうございます! 絶対します!」


 やったぜ!

 これで俺は安心して先輩を応援することができる。

 次点で姫咲。勝ってくれたらふつうに嬉しい。

 最愛は……よし、勝てないように俺が全力で邪魔してやる。覚悟しろ。


「ぶー……なーんかせんぱい、立花先輩にだけ態度違くないですかー?」


「えへへ……ゲーム楽しみだなぁ〜。わくわく〜わくわく〜」


 悪の美少女は納得いかなそうに俺へジト目を送り、善の美少女は気合充分でコントローラーを握りながらキラキラの笑顔を咲かせていた。


 さあ、一般高校生俺を賭けた血で血を洗う女の闘いが今、始まる————!


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