第17話 まだ好きな子がいないのなら。

 さらに時間は流れ、昼休み。

 生徒会室を目指して歩いていると、途中の渡り廊下にて目的の人物と遭遇した。


「あ、先輩。どもっす」

「スズメくん。こんにちは」


 美浜学園生徒会長にして俺のカノジョ(真にしたい偽)の、立花瑠璃たちばなるり先輩だ。


 何やら重そうなプリントの束を抱えている。


「私に何か用事?」

「ああ、えっと……とりあえず、持ちますよ」

「あら」


 なんてスマートなイケメンスタイル。

 俺だったら惚れちゃうね。

 俺はエロゲ並のチョロインだからね。


 少し優しくされたらもう、こいつ俺のこと好きなんじゃね? ってなる。


「生徒会室までですか?」

「ええ。ありがとう」


 2人並んで、生徒会室を目指す。


 その間にと、俺は雑談ついでに口を開く。


「先輩は、俺がラブレターもらったって言ったらどうします?」

「ラブレター? もらったの?」

「いえいえ、仮に、という話で」


 初手の反応としては白、だ。

 しかし先輩は姫咲と違ってポーカーフェイスが上手そうだし、もう少し掘り下げてみよう。


「どうします? 俺、本物のカノジョできちゃうかも」

「そんなの、べつにどうもしないわ」

「え〜? ほんとに〜?」

「ほんとよ。私はあなたの本物のカノジョというわけではないもの」


 あくまで自分には関係がないという姿勢を貫く先輩。


 少しくらい嫉妬してくれてもいいのに。


「私と恋人のフリをするのは母に対してだけだから、他の誰かに言う必要もない。だから、その、もし……」


「もし?」


 先輩は少し言いにくそうにしながらも、口を開く。


「もし、ラブレターに限らず、あなたに本当に好きな人ができたのなら、私には構わなくていいわ。偽物の関係はすぐに解消。いいわね?」


「は、はぁ……そう、ですか」


 ドライだ。

 渇きすぎてミイラになりそう。

 涙が枯れ果てそう。

 いや、プリントを汚しちゃうので気合で押し留めます。


「なに悲しそうな顔してるのよ」

「い゛え゛……べづに゛……」


 やっぱり俺なんかには立花先輩は高嶺の花というやつなのだろうか。

 そりゃそうだろうな。

 今までカレシがいなかったということは、今に至るまで彼女のパートナーに見合う逸材が現れなかったということでもある。


 生徒会活動を1人でこなすくらいの彼女には、本来カレシなんて必要ないのかもしれない。


「もう……仕方のない子ね」


 先輩はふわりと俺の髪を撫でると、黒髪を揺らして俺の前に立つ。


「あなたに、まだ好きな子がいないのなら。デートの時くらいは、ちゃんと私だけを見ていなさい?」

「え? 先輩……?」

「私も、あなたをちゃんと……見ているから。ね?」


 先輩はそう言うと、直後に何やら顔を赤くして、バタバタと取り繕うように人差し指を立てる。


「ほ、ほら。それくらいはしないと、母を騙せないからっ」


 そう付け足して、すぐ近くに見えてきた生徒会室へ向かって駆け出した。


「せんぱぁい……」


 やっぱり先輩は俺の女神だ。


 俺には表層だけの化け猫天使などいらないのだ。


「俺はいつでも先輩だけを見ています!」

「だからデートの時だけにしなさい!」


 そのまま、昼休みは立花先輩と生徒会室で過ごした。



 ・


 ・


 ・



「天川く〜〜〜〜ん!!!!」

「うお、姫咲!?」

 

 教室に戻ると、姫咲が泣きついてきた。


 だから、また、おっぱいが!

 押し付けられているんですがっ!


「どこ行ってたの〜〜!? すぐ戻って来るって言ったのに〜〜〜!! 寂しかったよぉ〜〜!!」


 どうやら、昼休みをボッチにされたことで拗ねているらしい。


「あはは。僕はずっといたけどねぇ。一言も会話してくれなかったねぇ」


 近くの席に座るシュンが苦笑いする。

 この役立たずめ。

 イケメンのくせに美少女を懐柔できなくて、なんの価値があるというのか。


「すまん。すまんって。だからちょっと離れよ? ね?」


「イヤ〜〜〜っ」


 イヤイヤと俺の胸に顔を押し付けて擦り付ける姫咲。


 だだっ子姫咲である。


 クラスメイトの目も気にせず、姫咲は抱きつく手を緩めなかった。


「わ、わかったっ。お詫びにアイス! 今度アイス奢るから!」

「え? アイス?」


 途端に顔を上げる姫咲。

 やば近っ。

 人気読モの顔は整いすぎていて心臓が破裂してもおかしくない。


「お、おおおおう。アイス、なんでもいいぞ」

「ハーゲンダッチのストロベリー?」

「もちろん」

「やった〜。天川くん好き好き好き〜!」

 

 再度のスリスリ。


「いや、だから、とりあえず離れよ? な?」

「アイス一緒に食べようね〜! わくわく〜」


 アイス一個で機嫌については直ったらしい。

 安いぞ、人気読モ。


「仲良いねぇふたり。嫉妬しちゃうよ」

「するな。傍観者め」


 嫉妬して欲しいのは先輩だったんだよぉ!


 結局、授業が始まる直前まで姫咲は俺から離れなかった。


 押し付けられたお胸の感触を思い出しながら、緩やかに、放課後は近づいていく。


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