第16話 手紙?

「ん……?」


 最愛や立花先輩との一件からまた数日が経った平日の朝。

 登校を済ませて下駄箱を開けると、ひらりと何かが舞い落ちた。


「なんだこれ。ピンクの……手紙?」


 なるほどこれは……L・O・V・Eなレターだ!


 首を高速回転させて即座に周囲の様子を窺う。


 敵影、なし。

 隠れて俺の反応を見ているような人間の存在は確認できなかった。


 興味なさげに、名前も知らない生徒たちが幾人か通り過ぎてゆく。


「よ、よし……」


 破かないように丁寧に手紙の中身を取り出す。


「どれどれ……どんな可愛い子ちゃんが俺に愛を伝えてくれるのかな…………んん?」


 それを読んで、まずは首を傾げた。


「ほんとにラブレターか? これ」


 手紙に書かれていたのは、たった一言。



 ————放課後、校舎裏にて待つ。



 ラブな甘さというよりは、むしろ鬼気迫る果し状のような雰囲気を感じる。


 ま、まぁ分かってたけどね。

 ラブレターなんて生まれてこの方もらったことないし。

 俺がもらえるのなんて毎日えっちをせがんでくる甘えたがりなアイちゃんからのメッセージくらいだからね。はい、迷惑メールですね。


 それにしてもこの手紙、本当に一言のみしか書かれておらず差出人すらも不明だ。


 一体誰がこんなことを……?


「あ、天川くんおはよ〜!」

「あ……? お、おおおおう姫咲!? お、おはよう!?」


 クラスメイトにして友人の姫咲がやって来ると、俺は慌てて手紙を背中へ隠した。


 なんで隠したんだろ……俺にはべつにやましいこともないのに。


「ん〜? どうかした? 天川くん?」

「え? い、いやなんでもない。姫咲が今日も可愛いから驚いただけさー、は、ははは」


「え〜? 天川くんがそういうこと言ってくれるの珍しい〜。えへへ〜。嬉しいな〜。ドキドキ〜」


 姫咲萌香の好感度が10上がった!


 ってなんだよそれ!?


 容姿を褒めただけで惚れてくれるのはエロゲチョロインだけです。肝に銘じるように。


「えへへ〜、それじゃあ早く教室いこ〜?」

「お、おう……そうだな」


 とりあえず、姫咲は差出人候補から除外かな。

 表裏のない彼女がもし手紙の主だったとしたら、もっと会話にぎこちなさが生まれているだろう。


 姫咲と2人、教室へ向かった。



◇◆◇



「なぁシュン」

「なにかな?」

最愛奏さいあいかなでって知ってるか?」


 休み時間。

 連れ立ってトイレへ向かった先で、俺はシュンにそう切り出した。


 あれがラブレターではなく、果し状やそれ以外の意味を持つものだとしたら、それは俺に恨みのある人間である可能性が考えられる。


 そしてそれが当てはまる、直近で思いついた名前が最愛奏。

 ひとつ年下の後輩にして、初対面の俺と出会って5分で合体しようとしたビッチである。


「最愛さん? そりゃあ知ってるよ。一年生の小悪魔、だね」

「やっぱりか……」


 一年生の天使、猫村琥珀と対をなすような存在、一年生の小悪魔。

 やはりそれは最愛奏のことだったらしい。


 この2人、めっちゃ仲悪そう!


「なになに? 彼女がどうかした? もしかして、童貞捨てられるって期待してる?」

「は? いやいや……」

「やめときなよ〜。童貞ってのも意外と大切なもんだよ。やっぱ最初は好きな人とが良いよねぇ」

「やめろ。おまえとそんな気持ちの悪い話をする気はない。そして俺は童貞じゃない」

「へ…………? す、スズメ? 今、なんて……?」


 シュンの表情が驚愕に染まる。


 この下り、もうやったので省略したいんですが。


 そんなに俺は童貞顔ですか?

 ぶん殴るぞイケメンめ。


「だ、誰!? 誰とやったのさ!? いや、もしかしてカノジョできた————ってそんなわけないよね……まさか、ついに春を買ったの……?」


 見損なったとでも言いたげに見つめるシュン。


 友人からの信頼が薄すぎて辛い。


「やめろよ後ろめたいことなんて何もねえから!?」

「じゃあ誰と!?」

「それは……ひ、秘密だ! プライバシーだ!」

「やっぱり……行ったんだね、夜の街へ……」

「だからそれはちげええええ!!!!」


 結局、最愛の情報はあまり得られなかった。


 しかしあの媚び王、最愛奏ならこんなに飾り気のない手紙は寄越さないような気がする。


 暗殺目的だったとしたらそれこそ、もっとラブレター然としたモノを用意して俺をぬか喜びさせ、騙すのではないだろうか。


 さすが小悪魔ビッチ。

 陰湿だ。やることが違う。



 

 

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