第8話 好き好き好き〜!
校門付近では、すでに生徒たちの人だかりができていた。
クラス替えの結果が張り出されているのだ。
しかし、しばらく待たないとまともに確認できそうにもない。
「わ〜、わ〜。緊張するね〜クラス替え〜!」
「そういうもんか?」
隣の姫咲(相変わらず近い)がハラハラと手に汗握っている。
「するよ〜緊張! だって天川くんと違うクラスになっちゃうかもしれないんだよ~!?」
「あー、まぁ、そうか」
「反応うすーい! ぷんぷん!」
は? なに? ぷんぷんって。
可愛いから許されると知れ。
俺がやったら全人類がコロしにくるぞ。
ぷんぷん!
「天川くんは、わたしと離れ離れでもいいの? わたしは……イヤ……だよぉ……?」
「いや……こればっかりは俺たちにはどうしようもないしなぁ」
「うぅ……冷たい〜。ヒエヒエだよぉ……ぶるぶる」
ションボリと不貞腐れて俯く姫咲。
うぐっ……すぐそういう顔するのやめません?
俺だってまぁ、一緒だったらいいなぁと思うけど。
ここでイケメンチックに「大丈夫、絶対一緒だよ!」とか無責任なこと言っても、もしクラス違ったら余計気まずくなるでしょ?
リアルイケメン様ならそこからまた挽回の手があるのかもしれないけれど……。
「べつに、同じクラスじゃなくてもいいだろ」
「え……」
「…………ズッ友って言ったのは姫咲だろ。もう連絡先だって交換したんだし、教室が違っても何も変わらないって」
あー小っ恥ずかしい。
新学期から何を言わされてるんだ俺は。
「あ、天川くぅん……好き〜!」
「うおっ!? なんだよ抱きつくな!?」
「好き好き好き〜! わたし〜、天川くんに出会えてほんとに良かったよ〜!」
俺の腕に抱きついてぴょんぴょんと跳ねる姫咲は、まるで全身で喜びを表現する子どものようだ。
とか思ったけれど決して子供っぽくない危ないところがむにゅむにゅと触れる。
だからなんでリア充ってやつはそうなんですかね。
女子は男子と気軽に触れ合わない。世界の常識ですよ。勘違いしちゃうじゃないですか。
「わたし〜、もうひとりぼっちにならないね〜」
姫咲が、ふつうに人生エンジョイしているだけのリア充なら良かったのに。
まぁ、もしそうだったら俺とは何の関わりも生まれず、話すこともなかったのだろうけれど。
————数分後。
「あ、あった! わたしAクラス! 天川くんは…………えっとえっと〜〜……あっ〜〜〜〜!」
「A、だな」
「やった〜〜〜〜! やったよ〜〜〜〜!」
どうやら今年一年、また姫咲と同じクラスのようだ。
さっきの会話をするために要した俺の勇気返して?
羞恥心がビッグバンだったよ?
これはもっとおぱーいを味合わせてもらわないと割りに合わない。
「ふぅ……」
姫咲の喜びようを見ていたら自然と脱力してしまう。
まるでここだけ大学入試の合格発表だ。
しかもカップルで見に来た痛いやつ。不合格者全員に呪われろ、みたいな。
「いえ〜い! ハイタッチ!」
「いえ〜い」
ハイタッチを求められて、手を差し出す。
もうなるようになれ。
姫咲と一緒にいる時点で周りの注目は避けられないんだよ! 去年から知ってる!
いぇいいぇーい!
俺とおっぱ————姫咲はズッ友だよ!
非常にご機嫌な姫咲と2人で、2年Aクラスの教室へ向かう。
「にやにや。にやにや〜♪」
琥珀と違ってわかりやすくて可愛いなぁもう!
もしクラスが違ってたら職員室に殴り込んでたわ。
この笑顔を見た後ならそれくらいの覚悟を持てそうだった。
「あ、そういえばなんだけど〜、天川くん」
「なんだ?」
「天川くん、ちょっと変わったね〜。髪もちゃんとしてるし〜、なんか堂々としてるかも〜!」
「そうかな」
心の中では十分にきょどってましたけどね。
それでも去年よりは幾分マシということか。
「うんうん〜! とってもいいと思う〜!」
姫咲は天真爛漫に笑顔を輝かせる。
————スズメって……顔はまぁ、悪くないんだから。もっとちゃんとしなよ。
春休み中、琥珀にそんなことを言われた覚えがある。
それは完全にブーメランじゃないですかね、とか思いつつも、俺は琥珀に言われるままイメチェンを施された。
あまり本気にしてなかったけれど……
「もしかして俺、格好いい?」
「うーん……75点!」
「おう……びみょいな……」
でもかなり高くね?
天真爛漫な姫咲は思ったことをそのまま言ってくれるし、お洒落な読モなのだからこの評価はかなりの信憑性がある。
これで立花先輩の発言にはお世辞が含まれていたことが確定したけどねっ!
……泣いてないやい!
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