第34話

今回江藤くんのループに巻き込まれてわかったのは、後悔しないことだった。



1日1日を、1秒すら無駄にせずに全力で生きていくこと。



難しいかもしれないけれど、そうすることでループは最小限に抑えられる気がする。



「亜美、こっちー!」



川原で私服姿の里香が手を振っている。



あたしは手を振りかえしながら階段を駆け下りた。



3月下旬。



花粉は少し落ち着いてきて、今日は涙も鼻水も出ていなかった。



そして今日は江藤くんに誘われた練習試合の日でもあった。



「どうして1人で来なかったの?」



ジーンズにパーカー姿の里香が呆れ顔で聞いてくる。



「だって、いきなり1人で来る勇気なんてなかったんだもん」



江藤くんが誘ってくれたのはあたしだったけれど、どうしても1人で見学する勇気はなくて、里香にもついてきてもらったのだ。



「全く。後悔しないことが大切だってわかったはずなのに、これじゃ前途多難だね」



肩をすくめる里香は、すでにあたしの気持ちに感づいているようだ。



「おーい、2人ともー!」



川原のグランドからユニフォーム姿の江藤くんが手をふる。



「がんばってねー!」



里香が大きく手を振りかえして声をあげる。



あたしは江藤くんのユニフォーム姿だけでドキドキしてしまい、うつむいてしまった。



「ほら亜美。江藤くんが手をふってるよ」



「う、うん」



おずおずと顔を上げると、江藤くんの笑顔と視線がぶつかった。



胸がキュンッと音を立てる。



あたしはゆっくりと右手をあげた。



後悔しないこと。



それがループをしないコツだ。



「が、がんばってね江藤くん!!」



あたしは羞恥心を押し込めて、大きな声で声援を送ったのだった。



END

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江藤くんはループしがち 西羽咲 花月 @katsuki03

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