第23話
「江藤くん!」
ホームルームが終わって先生が教室から出て行くと、あたしはすぐに江藤くんに声をかけた。
「な、なに?」
突然大きな声で呼ばれて江藤くんは目を見開いた。
「今日、なにかあったら、すぐにあたしに言って!」
「う、うん……?」
「それから、今日1日また江藤くんのことを観察させてもうらから!」
「え? それってまさか」
「そのまさかなの。江藤くん、またループしてるから!」
その言葉にギョッと目を見開く江藤くん。
「まじで……?」
あたしは大きくうなづいたのだった。
☆☆☆
それからあたしは里香にももう1度説明をして、江藤くんを観察させてもらうことになった。
江藤くんは視線がぶつかるたび気まずそうな表情を浮かべている。
だけどそんなこと気にしている場合ではなかった。
今回であたしは3度目の持久走を経験しないといけないのだ。
これ以上あんなキツイ思いをするのは嫌だった。
「持久走3回目かぁ」
休憩時間中、江藤くんと後について廊下を歩いていたとき、里香がそう粒やいてプッと笑った。
「笑い事じゃないよ!?」
あたしは里香を睨みつけて言う。
こんなことずっと繰り返していたら、頭がおかしくなってしまいそうだ。
「本当にもう、どうしてループなんてしてるんだろう」
ブツブツと文句を言いながら江藤くんの背中を追いかけて歩いていると、突然立ち止まられてぶつかってしまった。
「痛っ!」
鼻をぶつけてしまって江藤くんに睨みつける。
「ごめん。でも、トイレだから」
振り向いた江藤くんは気まずそうに言う。
考え事をしていて、つい男子トイレの中までついて入ってしまうところだったのだ。
あたしは慌てて足を止めて「どうぞ」と、そっぽを向いたのだった。
「江藤くんって時々生徒手帳を確認してるね」
何度目かの休憩時間中、教室内であたしはポツリと呟いた。
「そういわれればそうかも」
一緒になって江藤くんを観察していた里香が言う。
江藤くんは今もブレザーの胸ポケットから藍色の生徒手帳を取り出して確認している。
「なにを確認してるんだろう?」
あたしは呟いて自分の生徒手帳を取り出した。
生徒手帳には自分の顔写真、住所、名前、学年。
それに学校の規則が書かれている。
後ろの方はメモ帳になっているけれど、大して使うことのないものだった。
江藤くんへ視線を戻すと、すでに生徒手帳はしまわれていた。
なにかをメモしていたのかもしれない。
そう思い、あたしは大して気にしなかったのだった。
☆☆☆
「また、持久走かぁ……」
更衣室であたしは盛大なため息を吐き出して言った。
みんなからすれば最初の持久走。
そしてこれが終わればまた来年まで持久走はない。
でもあたしにとってははや3度目の持久走になる。
「早いとこループの原因を見つけないとね」
隣で着替えながら里香が言う。
「わかってるけど、今回は本当に手がかりがないんだもん」
そう言って泣きそうになってしまう。
体操着へ着替える手も自然と止まってしまった。
もう走りたくないと全身が訴えてきているみたいだ。
「あたしはなんとなくわかった気がするなぁ」
天井を見上げながら里香がそんなことを言うので、あたしは目を見開いた。
「何がわかったの!?」
思わず里香の両腕を掴んで問いただす。
里香は痛そうに顔をしかめてあたしから手を離した。
「江藤くん、休憩時間のたびに生徒手帳を開いてたよ」
「え、そうだっけ?」
「そうだよ。あれだけ観察してたのに、気がつかなかったの?」
呆れたように言われて、言葉を失ってしまった。
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