第22話
「今回も絶対に江藤くんが原因だと思うんだよね!」
昼休憩中、机をくっつけて里香と一緒にお弁当を食べながらあたしは言った。
「どうして?」
里香はウインナーを口に運びながら聞いてくる。
「だってさ、ループ能力のある人がそんなに大勢いるとは思えないもん! そんなことになったら、みんなループしまくって、めちゃくちゃになっちゃうでしょ?」
「それもそうかぁ」
里香はのんびりとした口調で答える。
それに、終わりのホームルームの時に江藤くんが青ざめたことも気になっていた。
ループしたのはその直後だったし。
「だけど江藤くん、特に変わったところはないみただけど?」
里香に連れられて教室後方へ視線を向けると、江藤くんが友達と遊んでいるのが見えた。
お弁当のおかずを取り合っているみたいだ。
妹さんの死が原因で自殺しようとしていたとは思えないくらいだ。
「本当だね……」
あの元気はただの空元気なのかもしれない。
なにしろ妹さんが亡くなってからまだ数日しか経過していないのだから。
「そういえば亜美は持久走2度目になるんだね?」
「え?」
「もう1度やったんでしょう?」
里香に言われてあたしはスーッと血の気が引いていくのを感じた。
そうだった。
ループしてしまったということは、もう1度あの持久走を経験するということなんだ!
一瞬にして肺の痛みや呼吸の苦しさを思い出す。
「亜美? 顔色が悪いけど大丈夫?」
「だ、大丈夫だよ……」
あたしは引きつった笑顔でそう返事をしたのだった。
☆☆☆
そしてまた6時間目が来ていた。
持久走のつかれはリセットされていると言っても、やっぱりキツイものはキツイ。
走りながらもう二度とこんなことはしたくないと思っている。
そのためには早く江藤くんのル-プを止める必要があった。
時々男子の持久走を気にして視線を向けるが、とても江藤くんを探している余裕なんてなかった。
む、無理だ……!
やがて先生から「後1分!」の掛け声が聞こえてくる。
後1分。
後1分。
って、この1分がキツイんだよなぁー!!
☆☆☆
どうにか地獄の持久走を終えたあたしは着替えて教室へ戻ってきていた。
体はずっしりと重たくて、ホウキを持つ手にも力が入らない。
「亜美、大丈夫?」
ゲッソリとしてしまっているあたしに里香が心配そうな表情で声をかけてくる。
「一応ね……」
返事をしてため息を吐き出す。
教室内で江藤くんを探すけれど、他の掃除場所にいるようで姿はなかった。
結局今日1日繰り返してもなにもわからなかった気がする。
江藤くんもなにも相談してこなかったし、どうしてループしたんだろう?
あたしはただただ首をかしげるばかりだった。
☆☆☆
そして掃除時間も終わり、終わりのホームルームの時間がやってきた。
江藤くんはごく普通に先生の話を聞いている。
このまま1日が終わっていくんじゃないかと思われたその瞬間だった。
江藤くんがサッと青ざめたのだ。
こちらへ視線を向けて何か言おうとしている。
「どうしたの?」
江藤くんに身を寄せて子尾声でそう質問をしたときだった。
グニャリと景色がゆがんだ。
先生の声も、江藤くんの声も。
いけない!
そう思っても、元には戻らない。
江藤くんは確かになにかに気がついていた。
でも、それをあたしに伝える時間はなかったのだ。
「あー……」
黒板の上に設置された時計を見て、あたしは思わず声を出しながらため息をついていた。
時刻は8時半。
もちろん、朝の、だ。
教卓の前には先生が立っていて、持久走の話をしている。
また戻ってきてしまった。
悔しくて江藤くんへ視線を向ける。
江藤くんは頬杖をついて先生の話を聞いていた。
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