第21話
☆☆☆
どうしてつかれた体に鞭打って掃除なんてしなきゃいけないの。
あたしは教室で掃き掃除をしながらブツブツと口の中で文句を言った。
他の子たちもみんなだらけた掃除の仕方をしている。
特に雑巾を使って床掃除をしている子たちはほとんど動いていなかった。
「なんでモップがないんだよ」
と、やっぱり文句を言っている。
持久走の後の雑巾がけは拷問に近い。
心の中でご愁傷様と呟いて、あたしはまた自分の掃除に専念したのだった。
そして、何事もなく終わりのホームルームの時間がやってきた。
その頃にはみんなグッタリと机に突っ伏している。
担任の先生が教室に入ってきても姿勢を正そうとしなかったが、先生も事情を知っているだけに苦笑いを漏らしただけだった。
これから真っ直ぐ帰る生徒はまだいい。
中には運動部に向かう生徒だっている。
どこからそんな元気が出てくるのか、同い年のあたしにも理解できない存在だった。
先生が明日の予定や、最近不審者が出ているという注意を説明している間、あたしはチラリと江藤くんへ視線を向けていた。
これも、今までの癖のせいだった。
また見ちゃった!
そう思ってすぐに視線をそらそうとしたのだが、江藤くんがサッと青ざめた気がして視線をそらせなくなってしまった。
どうしたんだろう?
持久走で気分でも悪くなったのかな?
あまりに顔色が悪いので声をかけようとした、その瞬間だった。
グニャリと空間がゆがんで見えた。
先生の声もゆがみ、気分の悪さに机に突っ伏す。
これは1度経験したことのあることだった。
また、なの?
そう思った次の瞬間、あたしは机に座っていた。
先生が教卓に立っていて、「持久走がんばれよ!」と声をかけている。
え?
一瞬なにが起こったのかわからず戸惑い、教室内を見回した。
さっきまでとなにも変わらない風景に見えた。
でも明らかに違う部分がある。
窓の外の明るさだ。
朝に戻ってる……?
そんな疑問を感じて時計に視線を向けると、朝のホームルームの時間になっていることに気がついた。
「なんで!?」
思わず声を上げて立ち上がっていた。
ついさっき放課後になっていたはずだ。
あれだけきつい思いをして持久走をしたのだから間違いない。
「どうした緑川」
先生が眉を寄せて聞いてくる。
「え、あ……なんでもありません」
小さな声で答えて椅子に座ると、クラスメートたちから笑われてしまった。
寝ぼけていると思われたかもしれない。
実際そんな気分だった。
でもどうして?
確かにあたしは放課後にいたはずなのに……まさか、またループ!?
あたしは隣の席の江藤くんへ視線を向ける。
江藤くんは不思議そうな表情でこちらを見ていた。
朝のホームルームが終わると同時にあたしはそんな江藤くんに話しかけた。
右手にイヤホンを持っていた江藤くんは驚いた様子で動きを止める。
「江藤くん、今日なにかあったでしょう?」
勢いよく効くと、江藤くんはキョトンとした表情になった。
「今日って、まだ始まったばかりだけど」
と、時計を見て言う。
そういえばそうだった。
あたしにとっては2度目の朝のホームルームだったけれど、みんなからすれば1度目になるんだ。
そう気がついて腕組みをした。
前回ループに巻き込まれてからあたしの敏感さは増しているのか、今回のループにはすぐに気がつくことができた。
それはいいのだけれど、江藤くん本人は全く気がついていないみたいだ。
「わかった! じゃあ、困ったこととか起こったらすぐにあたしに言ってね?」
「あ、あぁ。わかったよ」
江藤くんはとまどいながらもうなづいてくれたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます