第19話
江藤君のループが終わって2月10日が来ていた。
こうして毎日日付が変わっていくことが嬉しくて、あたしは朝起きてすぐにスマホで日時を確認するようになっていた。
「よし、今日も進んでる!」
ベッドの中でスマホを確認し、ガッツポーズを作る。
前回のループからの脱却に一役買ったことを、自分なりに誇らしく感じている。
もちろん、他の人に説明したって信じてもらえないから言わないけど。
「今日はどんな一日になるかなぁ」
新しい朝が来たことが嬉しくて鼻歌交じりに呟き、ベッドからおきだしたのだった。
☆☆☆
2月の空気はまだ冷たい。
あたしは緑のチェック柄のマフラーを巻いて学校への道のりを歩いていた。
学校へ近づくにつれて生徒たちの姿が増えていく。
みんな寒さから逃げるように足早に校舎の中に吸い込まれていく。
2年A組のドアを明けたとき、暖かな空気がフワリと包み込んできた。
教室中央に置かれているストーブが赤々と火をつけている。
「おはよ亜美」
いつもの調子で声をかけてきたのは里香だ。
しかし、里香の表情はどこか暗い。
「どうしたの?」
自分の席へ向かいながら聞くと、里香は黒板横に掲示されている時間割を指差した。
「今日の6時間目の体育が憂鬱でさぁ」
時間割を確認すると、確かに今日の6時間目は体育の授業になっている。
最後の授業が体育になっていることが面倒なんだろうか。
着替えをしたあと、すぐ掃除をしなきゃいけないし。
そんなことを考えていると、「持久走だって言ってたじゃん」と、里香が嘆く。
そういえば、前回の体育のときに先生がそんなことを言っていた気がする。
20分間でグラウンドを何週できるかタイムを計るという。
江藤くんのループを止めることに頭がいっぱいでつい忘れてしまっていたけれど、20分もグラウンドを走るという事実にめまいがした。
「そういえばそうだっけ……」
あたしは肩を落として呟く。
「そうだよぉ! あたし走るの苦手なのに」
里香はくしゅくしゅに顔を歪めてないてしまいそうだ。
あたしだって走るのは苦手だ。
できれば暖かな教室で授業を受けていたい。
しかし6時間目に持久走なんて最悪だ。
疲れきった体で掃除をして、休む暇もほとんどなく終わりのホームルームを聞いて、そのまま帰宅することになる。
体は汗まみれで、想像しただけで疲れ果ててしまう。
「2人とも変な顔してどうしたんだよ」
時間割の前で立ち止まっていたあたしたちに、江藤くんが声をかけてきた。
ループする原因になった本人だ。
「江藤くんは確か体育得意なんだっけ?」
あたしはバレーの練習で大きな活躍をしていたことを思い出して聞く。
江藤くんを知るために観察をしていたから、知っている。
「あぁ。あ、そうか今日は持久走か」
江藤くんもあたしたちと同じように時間割を見て言った。
「みんな朝から変な顔してると思ったら、そういうことかぁ」
江藤くんはのんびりとした口調で言い、自分の席へと向かったのだった。
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