第18話

☆☆☆


学校前に行く場所。



それは江藤君の家だった。



『明日、話がしたいんだ』



そう言われたのは昨日の放課後のことだった。



『話ってなに?』



『学校じゃ話せない。登校前に時間をくれないか?』



真剣な表情でそう言う江藤君は、NOと言わせぬ雰囲気を持っていた。



いったいなんの話があるのか検討もつかなかったけれど、2月9日になったということが嬉しくて、あたしは鼻歌交じりに江藤君の家を訪れた。



すると江藤君は道に出て待っていてくれた。



「こんな時間に呼び出してごめん」



「ううん、大丈夫だよ。それより話ってなに?」



聞くと、江藤君に促されて家の中へとお邪魔することになった。



通されたリビングには真央ちゃんの遺骨箱と遺影が飾られている。



その祭壇の前に江藤君は座った。



あたしは半歩後ろに座る。



「俺、真央が死んだら一緒に死のうと思ってたんだ」



それは衝撃的な告白だった。



あたしは江藤君の背中をジッと見つめる。



学校で見るよりもなんだか小さく見えた。



「真央の病気が発祥して、治る可能性が低いってわかってから、決めてたことだった」



「そうなんだ……」



やっぱり、江藤君は自殺だったんだ。



その事実に息が詰まる。



こういうとき、なんて声をかければいいのかわからない。



「でも、生きてる」



江藤君はそう言い、振り向いた。



その顔は泣きそうな顔で笑っていた。



「死ぬのが怖くなったんだ」



「え?」



「緑川のおかげで真央にちゃんと気持ちを伝えられたし、真央がやりたがっていた誕生会もできた。すごく幸せだったんだ」



江藤君の目から涙がこぼれ落ちた。



「真央を最後に会話したときに言われたんだ。『お兄ちゃんはお兄ちゃんだから、ちゃんと自分の人生を歩かないとダメなんだから』って。きっと、気がついてたんだと思う。真央が死んだ後、俺がどうするか」



あたしはただ頷いた。



そうだったんだ。



あたしがループに気がつく前までは、江藤君は真央ちゃんと会話ができないままだったんだろう。



それが少し変化して、最後の会話ができた。



だから江藤君は思いとどまったのだ。



あたしはなにも言えず、泣きじゃくる江藤君を見つめた。



「俺はこれから先も生きていていいと思うか?」



その質問はあたしには重たすぎた。



だけど答えはひとつしかない。



「そんなの当たり前じゃん」



あたしも江藤君と同じような泣き笑いの顔になって、そう答えたのだった……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る