第16話
家に戻ってからあたしはスマホとにらめっこをしていた。
江藤君に連絡しようかどうしようか悩んでいるのだ。
前回と同じ様子なら今日真央ちゃんは死んだはずだ。
それを確認したい気持ちと、確認するのが怖い気持ちが交互に襲い掛かってくる。
そして時間ばかりが過ぎていっていたときだった。
「亜美! 今学校の連絡網が回ってきたけど!」
という声が1階から聞こえてきて、あたしはハッとして顔をあげた。
学校からの連絡網?
確か前回まではそんなもの回ってこなかったはずだ。
なにかが変化していることに感づき、慌てて1階へと駆け下りる。
リビングのドアを開けるとお母さんが神妙な顔つきで待っていた。
「連絡網ってなに?」
「同じクラスの江藤君っているでしょう? 妹さんが亡くなったんだって」
まさかその事実をお母さんの口から聞くとは思わなくて、あたしは目を見開いた。
「それが連絡網で回ってきたの?」
「そうよ。みなさんも葬儀に参加してくださいって」
「それって、2月7日?」
「えぇ。亜美、あなた知ってたの?」
聞かれて慌てて左右に首を振った。
2年A組の連絡網で葬儀の参加が回ってくるなんて思ってもいなかった。
あたしはスマホを取り出して江藤君に連絡を入れた。
《亜美:今連絡網が回ってきたよ》
その後続ける言葉が思い浮かんでこなくて、結局それだけを送ることにした。
しばらく待つと江藤君から返事が届いた。
《江藤君:そっか。連絡網のとおり、今日真央が死んだんだ》
その文面に喉がキュッと狭まる感じがした。
同時に目の奥が熱くなって涙が出そうになる。
《亜美:もしかして、放課後慌てて帰って行ったのって?》
《江藤君:家族から連絡があったから。最後に真央と会話ができてよかったと思ってる》
え……?
前回、江藤君はそんなこと言っていなかった。
もしかして、これも前回から変わっているのかもしれない。
《亜美:そっか。日曜日、必ず行くね》
☆☆☆
2月7日の日曜日。
前回同様、朝からとてもいい天気だった。
あたしは制服を着て里香と一緒に学校へ向かった。
前回は2人だけだったからバスで葬儀場へ行ったけれど、今回は2年A組の全員が参加することになった。
だから学校に集合して、学校が用意してくれたバスを使うのだ。
2年A組が全員集合しているというのに、バスの中はとても静かだった。
時折すすり泣きの声が聞こえてきて、気分はどんどん沈んでいく。
重たい雰囲気を抱えたまま、バスは葬儀場へと到着した。
「里香、あんまり泣いてちゃダメだよ」
これから江藤君や江藤君の家族と顔を合わせるのだ。
隣でずっと泣いていた里香にハンカチを渡した。
「だ、だって……真央ちゃんまだ1年生だったし、学校だってほとんどこれてなかったのに」
里香の涙は止まらない。
あたしまでもらい泣きしてしまいそうになり、グッと涙をこらえた。
前回はほとんど大人たちで埋まっていた葬儀場が、今は真央ちゃんと同い年くらいの生徒たちであふれている。
その中に紛れ込むようにして江藤君の姿を見つけた。
江藤君は同級生たちに肩を抱かれて泣きじゃくっているのだ。
それを見てあたしは驚いてしまった。
前回の葬儀では江藤君はあそこまで泣いてはいなかった。
きっとあれも我慢していたのだろう。
周りは大人ばかりだし、妹への気持ちも押し殺していたし、本当の自分をさらけ出す場所がなかったのかもしれない。
それからあたしたちはお焼香を済ませて、バスへと戻ってきていた。
バスの外では江藤君と家族の人たちがお礼に頭を下げている。
親族の人たちはこれから火葬場へ向かう予定だ。
「江藤君大丈夫かな……」
明日は2月8日。
江藤君が死ぬ日。
あたしは頭を下げている江藤君を見て、胸にチクリとした痛みを感じたのだった。
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