第14話
☆☆☆
「江藤君って妹さんがいたんだ!? 誕生会? いいよ、行く!」
「江藤の妹? え、入院中なんだ? そっかー。うん、もちろん行くよ」
みんな江藤君に妹がいるということに驚きながらも、賛同してくれる。
休憩時間になると誕生日パーティーの飾り付けを作るグループまで出てきていた。
そんな光景を見て江藤君は唖然とした表情を浮かべた。
「これ全部、真央のために……?」
折り紙で作ったわっかのチェーンに触れて呟く。
「そうだよ。料理部に入ってる子たちは昼休憩中にケーキを焼くって言ってた」
「なんで? だって俺、真央のことひとこともみんなに話してないのに」
「話してなくたってみんな一緒にお祝いした気持ちがあったんだよ」
江藤君は遠慮してみんなに言わなかったことだけど、みんなはこんなにすんなりと受け入れてくれる。
それを知ってか、江藤君の目には涙が浮かんでいた。
「ちょっと亜美、すごいじゃん!」
元気よく声をかけてきたのは里香だった。
里香にはすでに世界がループしていること、1度目でわかったことを説明していた。
そして今はもちろん、誕生会の準備を手伝ってくれている。
「あたしがすごいんじゃなくて、みんなが真央ちゃんに早く会いたいんだと思うよ」
それを証明するように、みんなの表情はとても生き生きとしている。
院内だから騒げないけど、見た目だけでもかなり華やかになりそうだ。
「でも、ひとつ不安だなぁ」
里香が不意に腕組みをして呟いた。
「え、なにが?」
「だって、個室って言っても30人全員は入れないよね? どうするの?」
「大丈夫だよ。5人ずつ順番でお祝いしてあげるの。ひとグループ5分くらいにすれば1時間で終わるし、途中で真央ちゃんが疲れちゃったら、休憩を挟むし」
ちゃんと、真央ちゃんや病院側への配慮も考えている。
「そうそう。飾りつけの準備は10分くらいでパパッと終わらせるつもりだけど、その間は江藤君が真央ちゃんを散歩に連れ出してよね?」
「え、俺が?」
突然話題をふられた江藤君が後方で驚いている。
「お兄ちゃんなんだから当然でしょう?」
「あ、あぁ。そうだな」
ぎこちないながらも頷いてくれる。
そして放課後。
すべての準備が整い、2年A組のクラス30人は同じバスに乗り込んでいた。
普段はここまで込むことのないバスの運転手は何事かと目を丸くしていた。
病院に到着してからはまず江藤君の番だった。
先に1人で真央ちゃんの病室に行き、散歩をしようと声をかけて外へ出る。
その連絡を受けたあたしたちが真央ちゃんの病室へ向かって飾り付けをした。
簡素だった病室の風景が色とりどりの折り紙で彩られている。
真央ちゃんの担当だという看護師さんも手伝ってくれて、ものの10分ほどで飾りつけは終了した。
「いいわねぇ真央ちゃんは、こんなに沢山の友達に囲まれて」
看護師さんは目に涙を浮かべて呟いた。
それは今まで真央ちゃんの近くにいたせいか、それとも真央ちゃんの死が近いと知っているからか、あたしにはわからなかった。
《亜美:準備終わったよ!》
外にいる江藤君へメッセージを送り、5人だけ病室に残って帰りを待った。
そして病室のドアが開いた瞬間あたしと里香、それに3人のクラスメートたちが同時に「真央ちゃん誕生日おめでとう!」と声をかけた。
突然のことに理解がついていかないのか、車椅子に乗った真央ちゃんは目を見開き、絶句してしまった。
「俺の友達だよ」
車椅子を病室内へと移動させながら江藤君が説明する。
「あ、えっと……」
真央ちゃんはそれでも驚きを隠せない様子で、病室の飾り付けに目をやった。
ベッドから一番見やすい場所に真央ちゃん誕生日おめでとう!と書いた横断幕が掲げられている。
それを見た真央ちゃんの頬が見る見るうちに赤らんできた。
「あ、ありがとう!」
感極まった様子で、口に手を当てて言う。
その目にはすでに涙が浮かんできていた。
「ベッドに移動しよう」
江藤君が真央ちゃんに声をかけ、華奢な体を支えながらベッドへと移る。
その間も真央ちゃんは病室の飾り付けに視線を向けて喜んでいた。
「まずは自己紹介しようか」
一番端に立っていた里香が言い、真央ちゃんの誕生会は始まったのだった。
時間は予定通り、1時間くらいで終わることになった。
その間に真央ちゃんの病室には次々と誕生日プレゼントが積みあがり、テーブルの上には料理部の生徒たちが作ったホールのケーキが乗っていた。
「一度でいいから、沢山の友達を呼んで誕生日会をしたかったの」
ベッドの上で横になった真央ちゃんが呟く。
その頬はまだ興奮冷めやらぬ様子で、赤くなったままだ。
5人ずつで病室を訪れたクラスメートたちはプレゼントを渡すだけじゃなく、マジックを見せたり、小さな声で歌を歌ったりと、それぞれに出し物まで用意してくれていた。
それを見ているときの真央ちゃんは終始笑顔で、今日ここに来てよかったと心から思えた。
「入院してからはそういうのできなかったもんな」
江藤君が真央ちゃんの手を握って言う。
「うん。だから、こんな風にお祝いされるなんて本当に夢みたいだった」
残っている飾り付けを見て真央ちゃんは微笑む。
でも、これもすぐに外さないといけない。
いつでも、お祭りの後は静けさが残るものだ。
「あら、この横断幕はまだ残しておけばいいのに」
そう言ったのはドア付近で様子を見ていた看護師さんだった。
「え、いいんですか?」
江藤君が驚いて声を上げる。
「もちろん。こんなに素敵な飾りつけだもの。すぐに取るなんてもったいないわよ」
病院中央まで歩いてきて横断幕を見つめる看護師さん。
その表情はとても優しかった。
「よかったな真央」
江藤君の言葉に真央ちゃんは大きく頷いたのだった。
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