第13話

目を覚ますと自分の部屋のベッドの上にいて、スマホで日時を確認すると2月3日だった。



上半身を起こし、まだ少しめまいを感じる頭を振る。



あたしはついさっきまで2月8日にいて、朝のホームルームで江藤君が死んだことを伝えられたところだった。



「ダメだったか……」



呟いてベッドをおりる。



でも、1度ループしたことで江藤君の気持ちや悩みを知ることができた。



本番はこれからだ。



同時に疑問が浮かんできた。



真央ちゃんが死ぬのは2月6日、今日ではないということ。



それなのに2月3日に戻ってくるということは、この日にもなにかがあるということだ。



とにかく、今日も早めに学校へ行って江藤君と話しをしてみなくちゃ!


☆☆☆


そして学校。



自分の席に座って江藤君が登校してくるのを今か今かと待ち構える。



ホームルームが始まる15分前、江藤君がイヤホンを耳につけて教室に入ってきた。



あたしはすぐに立ち上がり、江藤君へと近づいた。



目の前に立つあたしに驚いた江藤君は少し目を見開き、イヤホンを外した。



「なに?」



怪訝そうな表情で聞いてくる。



「江藤君。ループしてない?」



「は?」



怪訝そうな表情がいっそう深まる。



やっぱり本人はまだ気がついていないみたいだ。



「じゃあ質問を変えるね。真央ちゃんは元気?」



真央ちゃんの名前を出した瞬間、江藤君はポカンと口を開いて立ち尽くしてしまった。



「な。なんで真央のこと知ってんだよ」



「あたし1度お見舞いに行ってるの」



「お見舞い? まさかもともと真央の友達とか?」



あたしはその質問に左右に首を振った。



「じゃあ、なんで知ってるんだよ」



「それは話すと長くなるの。それよりさ、今日ってなにかあるの?」



ろくに説明もせずに話を進める。



江藤君は眉間にシワを寄せたまま「なにかって……真央の誕生日だけど」と、返事をした。



その言葉にあたしは息を飲んでいた。



2月3日は真央ちゃんの誕生日だったんだ!



「そっか。それでこの日に戻ってきちゃうんだ」



ぶつぶつと独り言を言っていると江藤君は自分の席へと歩き始めた。



慌ててその後を追いかける。



「誕生日ってことは、お祝いするの?」



椅子に座る江藤君に尚も話しかける。



「そりゃまぁ、少しは」



歯切れの悪い答え方にあたしは首をかしげた。



1度ループしたとき江藤君は真央ちゃんの誕生日を祝ってはいないはずだ。



あのときはあたしと里香が一緒にいたから間違いない。



「なにか悩みでもあるの?」



「なんか、今日の緑川さんは質問攻めだな」



江藤君は鞄から教科書やノートを取り出し、引き出しの中に入れていく。



「ごめんね。だけどどうしても聞きたくて」



ループの原因を突き止めないと前に進めないのだから仕方ない。



ループに気がついていなければ平気かもしれないが、1度気がついてしまうと平常心ではいられなくなる。



一刻も早くこの毎日から抜け出したいのだ。



「誕生日を祝ってやりたい気持ちはあるんだ。でもあいつ、ずっと入院してて友達が少ないだろ? それに院内だからあまり騒げないし。そんな中途半端なことをするくらいなら、家族の間だけで祝ってやるのがいいのかなって思ったりしてさ」



その言葉にようやく江藤君の気持ちが理解できた。



前回あたしと里香に真央ちゃんの誕生日だと伝えなかった理由も、ここにある。



「江藤君は、真央ちゃんの誕生日会をしてあげたいんだよね?」



「そりゃあ、可愛い妹だし」



そう言うときの江藤君の頬がほのかに赤らむ。



誕生日会をしてあげたい。



だけどできなかった。



これは江藤君の心残りなんじゃないだろうか?



「それなら、みんなでやろうよ! 院内でも、騒がなかったらいいんだよね?」



あたしの提案に江藤君は目を丸くしている。



「みんなでってなんだよ? 真央の友達は少ないって言っただろ?」



「だからさ、このクラスのみんなでって意味だよ!」



「は……」



江藤君は鳩が豆鉄砲でもくらったような顔になってしまった。



でも、あたしは本気だった。



真央ちゃんの命があと数日しかないと知っていたし、江藤君の心の残りもわかった。



それならやってあげるしか選択しはないと思う。



「さっそくみんなを誘ってくるから、江藤君は待っててね!」



あたしは張り切って席を立つ。



クラスメート総勢30名全員を誘うなら、早く行動しなきゃいけない。



「おい、ちょっと!」



江藤君があたしを呼び止める声も聞こえなくて、あたしはクラスメートに話しかけ始めたのだった。

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