第11話

翌日の2月6日は土曜日で学校は休みの日だった。



それでも江藤君の様子が気になって、昼を過ぎるのを待ってから電話をしてみていた。



数コール目の呼び出し音で、最近聞きなれてきた江藤君の声が聞こえてきた。



こうして電話で会話することは始めてだから、なんだか緊張してしまう。



「あ、あの。大丈夫かなって思って……」



しどろもどろになりながら言うと、電話の向こうで江藤君が軽く息を吐き出すのがわかった。



後方からは人が行き来するあわただしい音が聞こえてくる。



『まぁ、なんだとか大丈夫だよ』



そう返事をする江藤君の声は低く沈んでいて、とても大丈夫そうには感じられなかった。



胸の奥がギュッと締め付けられるような痛みを感じる。



ひょんなことから江藤君と仲良くなることになったあたしだけれど、今では江藤君のことをすごく気にしていた。



「真央ちゃんの葬儀っていつになるの? よかったら、あたしも顔を出したいんだけど」



勇気を出してそう聞くと、明日だと教えてくれた。



あたしは里香と2人で行くと伝えて電話を切った。



最後まで、江藤君の声は沈んだままだった。


☆☆☆


2月5日。



ループしてから5日目の朝だった。



朝の10時頃、あたしと里香は制服姿で家を出た。



式場の場所は昨日江藤君から聞いていて、2人でバスで行ける距離だとわかっていた。



両親が車を出すと申し出てくれたけれど、里香と2人で話したいこともあったから、断ったのだ。



「明日の朝になって、またループするかどうかだね」



バスに揺られながら里香が真剣な表情で言う。



「うん。江藤君の心残りがなくなっていればループしないはずだけど、わからない」



あたしはそう返事をして左右に首を振った。



この5日間でどうにか江藤君と普通に会話できるくらいにはなったけれど、その実なにかが変わったようにも感じられなかった。



今まで経験してきた2月3日から2月7日までをなぞっただけ。



「もし、もし、だよ?」



里香が前置きをしてあたしを見つめる。



「江藤君の心残りが妹さんの死にあったら、どうなるの?」



「それは……」



あたしは返事に困って口ごもってしまった。



その可能性はとても高いと思う。



だけど、人の生死なんて操ることはできない。



事故や事件ならまだしも、真央ちゃんは病死だ。



余計に操ることのできない命だった。



「また、ループしちゃうのかな」



里香は窓の外に視線を移動させて、小さな声で呟いたのだった。


☆☆☆


葬儀場には大人の人たちばかりが集まってきていて、あたしと里香は一瞬場所を間違えたのではないかとたじろいだ。



「来てくれてありがとう」



行き場をなくして立ち尽くしていたところに江藤君が声をかけてきてくれたので、救われた。



あたしと里香は香典を渡してから江藤君と向き合った。



「大人ばっかりだからビックリしただろ」



江藤君の言葉にあたしは左右に首を振る。



「そ、そんなことないよ」



「前にも言ったけど、真央は学校に行っていなかったんだ。だから友達は少ない」



そう言って江藤君が視線をやった先を見ると、3人の女の子が立っているのがわかった。



みんな同じ中学校の制服を着ている。



「あの子たちは小学校時代から仲がよかった子たちだ」



説明されて、あたしはあいまいに頷いた。



こういう話をするときどういう反応をすればいいのかわからない。



「ちょっと、向こうへ行こうか。話がしたいんだ」



江藤君は沈んだ声でそう言い、葬儀場の外へと歩き出したのだった。


☆☆☆


外は風が冷たくて肌に突き刺さるようだった。



それでも日差しは降り注いでいて外のベンチに座ることができた。



江藤君は口元に手を当てて思い悩むように険しい表情をしている。



まだ、真央ちゃんの死を受け入れられていないのかもしれない。



「俺と真央、似てないだろ?」



不意にそう言われ、あたしは「あ、えっと」と答えに詰まった。



初めて真央ちゃんを見たとき、病室でつい口走ってしまった言葉だ。



言わないほうがよかったと、いまさらながら後悔してしまう。



「真央は義理の妹なんだ。お父さんの連れ子だったから、血はつながってない」



江藤君からの説明にあたしと里香は目を見交わせて驚いた。



世の中にちょっと複雑な家族がいることは知っていた。



でも、こんなに近くにいるなんて思ってもいなかった。



「俺の本当のお父さんは、小学校3年生の頃事故で死んだ。それから2年後に再婚したんだ」



江藤君は淡々と経緯を説明する。



あたしと里香はなにも言えずにただ話を聞いているだけだった。

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