第8話

☆☆☆


それからも江藤君観察は続いた。



休憩時間になると音楽を聴いていた江藤君だけど、時々あたしと会話してくれるようになった。



どれも他愛のないものばかりであまり収穫はなかったけれど、一応は進歩したと言っていいかもしれない。



そして江藤君は毎日放課後になると真央ちゃんのお見舞いに行っていることもわかった。



相当妹思いなんだろう。



でも、決定的なものは何もつかめないまま、3日が過ぎていた。



「2月5日か……」



朝目が覚めて、スマホで日時を確認して呟く。



あたしたちがループするまであと3日しかない。



しかも今日は金曜日。



明日と明後日は学校が休みで江藤君と会えないときている。



あたしは両手で頭を抱えてう~んとうなり声を上げた。



このままじゃループをとめることはできない。



かといってこれ以上どうすればいいのかもわからない。



「わからないから、学校に行くしかないか」



そう呟き、のろのろとベッドから起きだしたのだった。


☆☆☆


2年A組の教室は相変わらずだった。



みんな騒々しくおしゃべりにいそしんでいるし、ロッカーの上の亀吉はご飯を食べている。



そしてあたしも、里香も、江藤君もいつも通り登校してきていた。



「なにかつかめた?」



席に座った瞬間江藤君にそう質問されて、あたしは左右に首を振った。



「そっか。俺だって自分がループしてるなんて思ってないもんなぁ」



そう言って頭の後ろに腕を回す。



「もしかして、あたしの言葉を信じてない?」



「そりゃあ……」



そこまで言って江藤君はチラリとこちらへ視線を向けた。



「信じたいけど、わかんねぇ」



答えて、天井を見上げる。



江藤君の言いたいことは理解できた。



信じたいけど信じられない。



その狭間にいるんだと思う。



あと3日でまた2月3日に戻ってしまうと伝えたって、ピンとこないと思う。



「でもまぁ、緑川さんががんばってなにかしようとしてるから、俺も協力したいと思うよ」



肩肘をついてそう言われ、なんとなくドキッとしてしまう。



何気ない仕草なのに江藤君が大人に近づいていっているのを垣間見たような気がした。



あたしは江藤君から視線をそらせて「あ、ありがとう」と、ぎこちなく呟いたのだった。


☆☆☆


2月5日も何事もなく過ぎて行った。



江藤君も変わった様子はない。



「今日も終わっちゃったねぇ」



ホームルーム前の掃除時間に、里香がため息とともにそう言った。



「そうだね」



「ねぇ、こんなんでいいの?」



「それは……」



正直、あまりよくないかもしれない。



けれど江藤君は今もクラスメートたちと遊びながら掃除をしているし、他に変わった様子も見られない。



ループの原因が江藤君にあるのかどうかも、自信がなくなってきてしまった。



そうこうしている間に掃除時間は終わり、終わりのホームルームの時間が来たのだった。



このまま帰って、寝て、そしたら2月6日になっていて、そしてまたなにもわからないまま時間だけが過ぎていって……。



そんなよくない考えが頭の中をめぐり始めたので、あたしは強く左右に首を振った。



そんなことない!



きっと明日にはなにかヒントがつかめるはずだ。



須賀君が死んだ理由になるものとか、なにかが。



「じゃあ、気をつけて帰れよー」



先生の言葉を合図にして生徒たちがいっせいに席を立つ。



のろのろと鞄に教科書をつめていたとき、隣の江藤君がスマホを確認して表情を硬くしたのがわかった。



その豹変ぶりに驚いて視線を向ける。



江藤君は素早くスマホ画面に目を通すと、鞄を乱暴に掴んで走って教室を出て行ったのだ。



あたしはその後ろ姿をポカンとして見つめる。



「江藤君どうしたんだろうね? 急いでたみたいだけど」



里香に声をかけられてハッと我に返った。



なにかあったんだ!



あたしは大慌てで鞄に教科書を詰め込んで、里香と一緒に廊下へと走った。



しかし、そこに江藤君の姿はすでになかった。

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