第6話

☆☆☆


今日1日江藤君を見てわかったこと。



音楽が好きなこと。



友達が多いこと。



運動神経がいいこと。



「たったこれだけかぁ……」



終わりのホームルームが始まる前、メモ帳に書き出してため息を吐き出す。



1日で入手できた情報が少なすぎる。



この中にループする原因があるのは思えなかったし、なにより2月8日に江藤君は死んでしまうのだ。



どうして江藤君が死んでしまうのか。



それもわからないままだ。



1人で頭を抱えていると人影が見えて里香だと思った。



「里香、全然ダメだよ。江藤君のこと、全然わかんない」



「そっか、わからないんだ」



「うん。このままじゃまた繰り返しちゃうよ」



「どうして俺のことを調べてんの?」



「どうしてってそんなの――」



そこまで返事をしてハッと息を飲んで顔を上げた。



江藤君が椅子を近づけてあたしのメモ帳を覗き込んでいるのだ!



「え、江藤君なんで!?」



慌ててメモ帳を隠すけれどもう遅い。



完全に見られててしまっている。



てっきり今もイヤホンで音楽を聴いていると思ったのに、なんで!?



「今日はなんか視線を感じるなぁと思ってたけど、緑川さんだったんだね」



江藤君がクスクス笑ってあたしを見つめる。



途端に頬がカッと熱くなるのを感じた。



「ち、違うの! これには深い事情があって、それでっ!」



慌てるあたしに江藤君はうんうんとうなづく。



「わかってるよ。今朝言ってたループがどうのこうのっていう話だろ?」



「うっ……うん……」



気が付かれているなら、うなづくしなかい。



「本当にこの世界がループしてるとして、どうして原因が俺だって思うの?」



「それは……」



この質問には答えられなかった。



2月8日に江藤君は死ぬ。



それを伝えられた直後にループしているだなんて。



黙り込んでしまったあたしを見て江藤君は首をかしげた。



「まぁいいや。俺のこと調べたいなら、調べればいいし。俺についてきたければくればいいよ?」



「い、いいの!?」



あたしは目を見開いて江藤君を見た。



江藤君は嫌な顔ひとつせずにうなづいている。



「それで緑川さんが抱えている悩みがはれるならね」



え、それってどういう意味だろう?



ポカンとしてしまったとき担任の先生が教室に入ってきて、肝心な部分を質問することはできなかったのだった。


☆☆☆


とにかく江藤君からじきじきの許可が下りたあたしは放課後になると里香と共に、教室を出て江藤君と並んで歩いていた。



「江藤君は部活はしてないの?」



里香からの質問に江藤君は「してないよ」と、簡潔に答える。



「あんなに運動神経がいいのに、もったいないね」



あたしが言うと、江藤君が一瞬驚いた表情をこちらへ向けた。



「あ、今日の体育、男女合同だったでしょ? それで偶然見ただけだからね」



あたしは慌てて言い訳を口にする。



すると江藤君は納得したように表情をゆるめた。



なんだかあたし、さっきから江藤君のストーカーみたいで気持ち悪いかも。



そんなことを考えて落ち込んでいると、「放課後はどうしてもはずせない予定があるんだ」と、江藤君が言った。



「外せない用事?」



里香が首をかしげて聞く。



「ついてくるといいよ。ちょっと慣れない場所だとは思うけど、友達がいたほうがあいつも喜ぶと思うし」



江藤君の言葉にあたしと里香は目を見交わせた。



慣れない場所?



あいつ?



なんのことを言ってるんだろう?



質問するよりも江藤君についていった方が早そうだ。



早足で歩く江藤君の後をおいかけて、あたしたちはバスに乗り込むことになったのだった。

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