第5話
「みんなを助けたんだから、すごいよね」
里香はまだ目を輝かせている。
普段から好奇心旺盛で、変わったことに首を突っ込みたがる性格だからだ。
「そんな大げさなことじゃないよ」
あたしは苦笑して答えた。
「で、今度はループする世界からみんなを救う! みたいな? いいなぁ亜美はそんな能力があって」
里香は本当にうらやましそうな視線を向けてくる。
敏感すぎてめんどくさいだけだよ。
と、思ったけれどなにも言わないでおいた。
それよりも、今は江藤君のことだ。
「とにかく、このループには江藤君が関係してると思うの。でも、なかなか話すタイミングがつかめなくてさ」
「江藤君、ずっと音楽聴いてるもんねぇ」
里香は頬杖をついて答える。
「そうなんだよね」
「よし、話かけられないなら尾行しよう!」
妙案がひらめいたとでもいう様子でポンッと手を叩く里香。
あたしは呆れて亜美を見つめた。
「尾行なんてそんなことできるわけないじゃん」
「なんで?」
「なんでって……」
そう聞かれると返事ができない。
うまくいきっこないと思う反面、うまくいけばループの原因がつかめると思っている自分がいる。
う~んと返事に悩んでいると里香が勢いよく立ち上がった。
「膳は急げ! 行くよ!」
「ちょっと、待ってよ!」
元気よく教室を出て行く里香に、あたしは慌ててついて行ったのだった。
☆☆☆
生まれてきて14年。
誰かを尾行するなんて初めての経験だった。
あたしと里香はトイレから出てきた江藤君を尾行していた。
江藤君はそのまま教室に戻り、窓際で友達3人とおしゃべりを始めた。
あたしと里香は窓から外を見てるふりをして、4人の会話に耳をそばだてる。
会話はとても他愛のないものばかりで、昨日のテレビ番組とか、部活の様子などだった。
ループしている原因といえる会話は聞くことができなかった。
「相手はなかなか尻尾を出さないね」
体操着に着替えているとき、里香が難しそうな顔で言った。
「相手って、江藤君のこと?」
「当たり前でしょ?」
「そんな容疑者みたいな言い方しなくても」
あたしは苦笑いを浮かべる。
それに、尾行を始めてまだ1時間しかたっていない。
そのうち45分は授業時間だったから、なんの収穫もない。
今日は次の体育の授業で終わってしまうし、明日がんばったほうがよさそうだ。
「今日は男女混合の体育だし、絶対になにかつかまなきゃね!」
あたしの考えていることとは裏腹に、里香はやる気いっぱいでそう言ったのだった。
☆☆☆
男女混合の体育といっても、男子は体育館のステージ側。
女子は体育倉庫側を使ってそれぞれバレーをする授業だった。
運動があまり得意でないあたしは、朝からずっと体育の授業があるのが憂鬱な気分だった。
「江藤君って結構運動できるんだね」
一緒に得点係りをしていた里香がそう言うので、あたしは振り向いて男子のコートへ視線を向けた。
江藤君はコートに入っていてバレーボールを華麗に打ち返している。
「本当だ。意外だなぁ」
江藤君の存在を意識し始めてまだ少ししか経っていないけれど、ずっと音楽を聴いていて運動できるイメージはなかったのだ。
「江藤君って部活動やってるのかな?」
「さぁ、わからない」
里香の質問にあたしは首をかしげる。
でも、あれだけ運動神経がよければなにかしていそうだ。
そういうことも調べていくうちに大切になってくるだろう。
「はい、じゃあ得点係りと交代!」
体育の先生の合図にギョッとして視線を戻る。
見れば練習は終わっていて次はあたしがコートに入る番だった。
一気に気分が落ち込んでいく。
「ほら、行くよ!」
あたしの気持ちなんて少しも気がつくことはなく、里香は元気いっぱいにコートへ向かって歩き出したのだった。
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