第4話
「それにさ、亜美と一緒にいると楽しいことが次々起こるもんね」
「そ、そう?」
それに関してはまったく自覚がなくて首をかしげる。
「そうだよ、覚えてないの?」
そういって里香が説明し始めたのは小学校5年生の頃の出来事だった。
『亜美、一緒に帰ろう!』
その頃から仲がよかったあたしたちは2人で通学路を歩いていた。
ちょうど梅雨の時期で、その日も大雨だ。
前日にも雨は沢山降っていて、ジメジメとしてパッとしない日が続いていた。
そのときだった。
あたしはなにか嫌な予感がしてその場に立ち止まっていた。
通学路の横には広い用水路が流れていて、転落防止のためにガードレールが設置されている。
『どうしたの亜美?』
『なんか、この辺がモヤモヤする』
あたしはそう言って胸のあたりを指差した。
なにか予感があるとき、あたしの胸は言いようのないモヤに包まれたようになるのだ。
あのときも、そして今回もそうだった。
『病気なの?』
里香が心配そうにあたしの顔を覗き込んできたとき、あたしは走り出していた。
自分でもどうして走っているのかよくわからない。
だけどこっちになにかがあると、強く感じるのだ。
後ろから里香が追いかけてくる。
雨は勢いを増していて、走るたびに水溜りを跳ね上げてしまう。
しかしそんなことも気にせずに走った。
そしてたどり着いたのは用水路のガードレールが途切れた場所だった。
以前車がここのガードレールに突っ込んだことがあり、それからまだ直されていない場所だ。
『ちょっと亜美、どうしたの?』
そう聞く里香がなにかに気がつき、最後の方の言葉は消えていってしまった。
そして2人して用水路を覗き込む。
そこには犬が一匹おぼれていたのだ。
濁流に飲まれながらも、ゴミに引っかかって流されずにいる。
『大変だ!』
あたしと里香は同時に言い、近所の家に助けを求めた。
当時のことを思い出し、あたしは苦笑いを浮かべた。
確かにそんなこともあった。
「それにさ、中学にあがってからもそういうことがあったんでしょう?」
聞かれてあたしはうなづいた。
あれは中学1年生の頃だった。
まだ入学して間もない4月下旬のこと。
すべての授業が終わり、ホームルームもあと少しで終わるという時間帯。
不意にあたしの衝撃が走ったのだ。
モヤなんて生易しいものじゃない。
命の危険を知らせるようなシグナルだ。
あたしは咄嗟に立ち上がり『みんな机の下に隠れて!』と、叫んでいた。
どうして『逃げて!』と言わなかったのか、今でも不思議だ。
あたしの絶叫に驚いた生徒も先生も一瞬硬直してしまっていた。
しかし、あたしが最初に机の下に隠れたことで、みんなも同様に隠れてくれた。
きっとみんななにがなんだかわからないままだったと思う。
だけどその直後だ。
体に感じるほどの地震が起こったのだ。
ロッカーの上で買っていた金魚鉢の水がゆらゆらとゆれて、生徒たちの中からは悲鳴も聞こえてきた。
あとで確認したらその自身は震度4だったが、けが人は一人も出なかったのだった。
それ以来、あたしのことを預言者扱いする生徒も出てきた。
でも、あたしが感じているのは違和感で、予言ができるわけじゃないから、その噂もすぐに消えていった。
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