第3話
☆☆☆
まずは江藤君を知ることが大切だ。
幸いにも江藤君は同じクラスだし、隣の席。
話かけるには絶好のポジションだ。
「ねぇ江藤君。今日は節分だね。豆まきするの?」
休憩時間に入るとあたしはさっそく江藤君に話かけた。
しかし返事がない。
よくよく見てみると耳にイヤホンがつけられている。
あたしは顔をしかめてそれを見た。
もしかして江藤君って休憩時間のたびに音楽を聴くのかな?
だとしたらイヤホンをはずしてもらわないといけないけど、節分をするのかどうかなんて話、音楽鑑賞を邪魔してまでする話じゃないよなぁ……。
なんて悩んでいると15分休憩なんてあっという間に終わってしまう。
次の授業の先生が教室に入ってきて、慌てて授業の準備をした。
よ、よし。
次こそがんばろう!
数学の授業を終えてあたしはそっと隣に視線を向けた。
よし、江藤君はまだ耳にイヤホンをつけていない!
このタイミングで話かければいいんだ!
そう思って「あのっ」と声に出した直後「江藤~、数学の教科書貸してくれねぇ?」と、教室前方のドアから声がした。
江藤君がそちらへ向くのであたしもつられて視線を向ける。
立っていたのは炉なりのクラスの男子だ。
「あぁ、あるよ」
江藤君は数学の教科書を持ってドアへと近づいていく。
その様子をいじらしい気分で待つあたし。
これじゃまるで、片思いの相手に話しかけるタイミングを探しているみたいだ。
そう思って強く左右に首を振った。
「そ、そんなんじゃないから」
ループから脱出するためだし!
と思ってつい声に出したとき「そんなんじゃないってなにが?」と、声をかけられた。
突然のことで驚いて椅子ごとひっくり返ってしまいそうになる。
いつの間にか里香が立っていたのだ。
「な、なんでもない」
あたしが苦笑いを浮かべている間に江藤君は自分の席に戻り、そしてイヤホンを耳につけてしまったのだった。
☆☆☆
う~ん。
江藤君に話かけたいだけなのに、どうしてこんなに難しいんだろう。
昼休憩時間、里香と机を引っ付けてお弁当を食べていると、ついため息が出てしまった。
このままじゃあたしは永遠に2月3日から2月8日を繰り返すことになってしまう。
「なに難しい顔してるの?」
一足先にお弁当を食べ終えた里香が不思議そうな表情で聞いてきた。
「ちょっとね……」
まさかループをとめたいなんて説明できるわけもなく、あたしはウインナーを口に運ぶ。
あ、中にチーズが入ってるタイプのウインナーだ。
大好きなおかずなのにちゃんと味わうこともなく飲み込んだ。
「悩みがあるなら聞くよ?」
言いながら里香はあたしのお弁当箱から卵焼きをひとつつまんで口に入れている。
「ちょっと、卵焼きも大好物なんだからね」
もうとられまいとお弁当箱を抱きしめるようにしてガードする。
「ごめんごめん。でも本当に元気ないじゃん? どうしたの?」
心配してくれているのは本心からみたいだ。
あたしは大きく息を吐き出した。
説明したって信じてくれないことはわかりきっている。
でも、話をすることで少し気が楽になるかもしれない。
「実はね……」
あたしはボソボソと呟くような声で、ループしていることを里香に説明した。
里香は難しい表情で腕組みをして、何度もうんうんとうなづいてみせる。
一応話しはちゃんと聞いてくれているみたいだけれど、本気にしているかどうかはわからない態度だ。
「つまり、亜美は2月8日までを経験して、それで戻ってきたってこと?」
「まぁ、そういうことかな?」
少し違う気はすぐけれどうなづく。
空になったお弁当箱を包んでいると不意に里香があたしの手を握り締めてきた。
驚いて顔を上げるとキラキラと光る里香の目と視線がぶつかった。
「な、なに?」
「それ、とっっっっても面白いね!!」
好奇心を顔中にひっつけたような笑顔で言う。
「お、面白い?」
「うん! だってさ、ループなんてしたことないもん!」
「そ、そうかもしれないけど、でも実際今してるんだけど……」
説明のしかたがわからなくて、あたしはただ里香の勢いに圧倒されてしまっている。
「ループの原因を見つけるっていうの、あたしも手伝いたい!」
里香はそう言って元気用句右手を上げて挙手した。
あたしは目を見開いて里香を見つめる。
「ほ、本気で言ってるの?」
「当たり前でしょ!? そんな面白いこと二度と経験できないじゃん!?」
そうなのなか?
江藤君から原因を聞きださない限り続くと思うんだけど。
と、思ったけれどそこは言わないでおいた。
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