第2話
「えっ」
と思わず口走った。
目をこすって何度確認してみても、その日時に変化はない。
あたしはついさっきまで2月8日のホームルームをしていなかったっけ?
記憶を掘り起こしてみると、それはすぐに出てきてくれた。
教室内で感じた違和感。
その正体をつかめずにいたこと。
そして先生から聞いた衝撃的な事実。
それらを克明に覚えている。
それだけじゃない。
2月3日から2月8日の朝までの記憶をちゃんと持っているのだ。
けれど、何度確認してみても今日の日付は2月3日。
それは疑いようのない事実みたいだ。
「戻った?」
ベッドの上に座り込み、あたしは呟いた。
2月8日の朝、先生から江藤君が死んだと聞いたときも感じたきしかん。
それは今まで何度も同じことを繰り返していたから起きたものだった。
あたしは何度この時間を経験してるんだろう?
思い出せる限りでは先生は5回は同じホームルームをやっているように感じる。
あたしは敏感だからこうして気がつくことができたけれど、他の子たちは違う。
自分たちが繰り返していることにも気がつかずに、また新しい朝が来たと思ってすごしているのだ。
「こうしちゃいられない!」
あたしはそう呟き、慌ててベッドから降りたのだった。
☆☆☆
家の新聞で確認しても、行きがけコンビニによってレシートを確認しても、やっぱり今日の日付は2月3日の水曜日で間違いないようだった。
でもあたしはもう、1度節分を経験している。
学校から帰ったらお母さんが恵方まきと豆を買ってきてくれていて、お父さんが鬼の面をつけて、あたしは中学生にもなってこんなことしないよ、なんて文句を言いながらも結構楽しんだんだ。
早足で2年A組に向かい、教室のドアを大きく開く。
「あ、亜美おはよー」
先に登校してきていた里香が手を上げて挨拶してくる。
「おはよう」
あたしは返事をしながら教室内を見回した。
みんななんの違和感も覚えていないみたいで、いつもどおりの風景がそこにあった。
だけどそこにはいるはずのない人がいた。
昨日の2月8日に先生から死んだと聞かされていた人……。
そう、江藤君だ。
江藤君はあたしの隣の席に座り、耳にイヤホンをつけてスマホで音楽を聴いている。
あたしはスッと息を吸い込んで江藤君に近づいた。
自分の席にかばんを置き、体を江藤君の方へ向けて椅子に座る。
「ねぇ、江藤君」
話かけるが江藤君は反応しない。
あたしはコンコンと机の上をノックして、江藤君に気づいてもらった。
「なに?」
肩耳だけイヤホンをはずした江藤君が聞いてくる。
「あのさ、江藤君のせいでループしてない?」
単刀直入に聞いた。
先生から江藤君が死んだと聞いた後ループしたのだ。
江藤君がなにか関係していることは間違いないと思っていた。
「ループ?」
江藤君は目を丸くし、そして瞬きをしてあたしを見る。
「そうだよ。2月8日から2月3日に戻してるよね?」
あたしは他の生徒たちに聞こえないよう、できるだけ小さな声で言った。
「2月8日って? 今日はまだ2月3日だろ?」
江藤君はそう言っておかしそうに笑う。
「だから、江藤君が時間を戻してるんでしょう?」
食い下がって同じ質問をすると、今度は戸惑った表情を浮かべた。
「ごめん、時間を戻すって何? 漫画の話?」
首をかしげている江藤君が嘘をついているようには見えなかった。
「まさか江藤君、自分で気がついてないの?」
「気がついてないってなにが?」
江藤君に質問すればするほど、本人は困り顔になる。
江藤君は本当になにも気がついてないんだ!
そう理解してあたしは呆れたため息を吐き出した。
時間をループさせている本人が、時間のループに気がついていないなんて!
まるでギャグみたいな話につい笑ってしまいそうになる。
でも同時に気がついた。
本人が気がついていないということが、ループする原因がわからないということだ。
サーッと音を立てて血の気が引いていく。
ループする原因がわからないということは、いつまでも、永遠に同じループを繰り返すということ!
なにも感づかない人なら平気かもしれないけれど、あたしは気がついてしまった。
一刻も早くこのループから抜け出さないと永遠にこのまま……。
そんなのダメ!!
あたしは強く左右に首を振って悪い考えをかき消した。
江藤君がループの原因になっているとわかっているんだから、その原因だってきっと突き止めることができるはず!
あたしひとりだって、やってみせる!
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