第10話 選ばれない女

RRRRRR ♪


「!」


突然携帯が鳴った。涙を拭いながら画面を確認すると三好さんからだった。


(そういえば後で電話かけ直すって言ってたっけ)


そんなことを思い出しながらスライドする。


「…もしもし」

『あ、美佳ちゃん?今、いい?』

「……うん」

『…どうしたの』

「え」

『鼻声、泣いていたの?』

「え…いや、泣いてないっ」

『嘘。泣いていたよね、どうしたの』


(もう…なんでこういうところは鋭いのよ!)


「…ドラマ、観ていたの」

『ドラマ?ということは今、家なの?』

「うん」

『そっか…あ、明日のことなんだけど夜…8時くらいからなら逢えるんだけど』

「はぁ?そんな遅くから?!」


(そんなの平日と変わりないじゃない)


『ごめん、ちょっと今、家から遠い処にいて』

「遠いって…何処にいる──」


そう私が訊こうとした瞬間


『たっくーん、なにしてんのぉー』


(?!)


たっくん?!


(今…たっくんとかって言った?!)



電話口から遠く聞こえた若い女の子らしき呼び声に再びどす黒い感情が湧き上がった。


『あ、ちょっと待ってて──あ、あのね、美佳ちゃん』

「──いい」

『え?』

「もう…いい!三好さんなんて知らない!」

『え、知らないって何』

「もう別れる!バイバイ!」

『え、ちょ──』


三好さんの言葉を訊きたくなくて私は速攻通話を終了した。


「はぁはぁ……言った…言ってやった」


携帯を握り締めながらドキドキと高鳴る胸を抱えしばらくするとまたポロポロと涙が零れた。


「う゛~うぅ~」


三好さんの背後で聞こえた声によって若い女の子と一緒に居ることを知り、私の我慢の堤防はとうとう決壊してしまった。


しかも『たっくん』なんて呼ぶくらいの親しさだ。


(三好さんには私以外に付き合っている人がいたんだ!)


皮肉にもこの件で私はずっと割勘だった訳や休みの日に逢えない理由が分かった気がした。


(それは私が本命じゃないからだ)


三好さんがどういうつもりで私と付き合っていたのか知らないけれど、確実に私は選ばれない方の女なのだということだけは分かった。


「うぅ…嫌だぁ…三好さぁん~~」


自分から別れると決意して切り出したくせにもう盛大に後悔している。


「私ばっかり好きで…悔しいぃぃ~~」


今まで別れた男なんて沢山いた。勿論相手から言われても自分から言っても別れというものは辛かったけれど、だけど今回ばかりはそのどれにも匹敵しないほどに辛いという気持ちは深く大きかった。


「も……死にたい……」


失恋がこんなにも痛くて辛いものだと初めて知った私。その後何度か携帯から着信音が聞こえたけれど私は一切無視したのだった。


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