第4話 割り勘

ふたりして馴染みのお店にやって来た。其処は有機野菜をメインに扱っている野菜専門のご飯屋さんだった。


「おぉ、この春キャベツ滅茶苦茶瑞々しい」

「うん、アスパラガスもシャキシャキしていて美味しい」


私が三好さんを好ましいと思うところのひとつにこの食の好みの合致もあった。お互い野菜が好きで、特に旬の野菜はご馳走に匹敵するという考えが同じなのだ。


肉や魚より野菜が好きだなんて男の人には珍しい。それを知った時益々運命の人だと思ったものだ。


好きなものが一緒で、他愛無い会話をしながら食べるご飯は本当に美味しいし愉しかった。そういった意味でも私は三好さんの事が好きだと思ったし、結婚するなら彼しかいないと──そう思うのだけれど。



「3000円だから1500円ずつね」

「……うん」


最後のこれがどうしても私が今一歩三好さんにどっぷり甘えられない原因だった。


(今日も割り勘かぁ)


一体三好さんはどういうつもりでこの付き合いを続けているのだろう。いわゆる釣った魚にはエサは与えないという思考の持ち主なのだろうか?


(っていうか、最初っから与えてもらっていない!)


決してお金を払うことに文句がある訳じゃない。私だって働いているんだから自分が食べた分くらい払うという常識はある。


(でも…でもでもそういう事じゃなくて~~)


「美佳ちゃん?」

「…え」

「どうしたの?大丈夫」

「あ…うん」


気が付けば真剣に考え事の沼にハマってしまっていた。お店を出て数メートル歩いた記憶が無い。


「まだ時間、いい?」

「……」


三好さんがそう訊く時は『ホテルに行こう』変換だ。


(ホテルも割り勘なんだろうな)


薄っすらとそんなことを考えるとハタッと閃いた事があった。


「私、三好さんの家に行きたい」

「──え」


(そうよ、そうだよ!)


どうして今まで気が付かなかったのだろう。付き合ってから一年も経つのに私は三好さんの家に行ったことが無いということに。


「私、三好さんの家に一度も行ったことないじゃない?確か会社近くのマンションにひとり暮らしだって言っていたよね」

「…あぁ」

「此処から近いんでしょう?いい?」

「……」

「…三好さん?」


(あれ?なんか様子が)


「──ごめん、急用思い出した」

「へ?」

「本当ごめん、じゃあね」

「え…あ、ちょっと三好さん?!」


何故か急に三好さんは慌ててその場からいなくなった。


「………ぇ」


え?


え…えぇ…えぇぇぇぇぇ──?!


(何よ、この絵に描いたような展開は──!!)


家に行きたいと言っただけであの変貌ぶり。実に怪しさ1000%である。


これには流石の私にも我慢の限界が来た!──と思ったのだった。



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