第16話 夏祭り(2)
炭屋敷から神社まではそう遠くない。というより大昔にミツブセの家が主体となって建てた神社なのだそうで、当然といえば当然なのかも知れない。
神社の周りは戦後すぐまでの時代には貨物の集積場に使われていた開けた場所になっていたが、お祭りの日、そこは夜店でいっぱいだった。町の人もたくさん集まっている。僕と同じくらいの年頃の若い人もいればお年を召された方もたくさん集まってお祭りを楽しんでいた。
暑さも夕暮れと共に収まってきてはいたけれど、僕らはアイスクリンを買って食べながら歩いていた。輪投げや金魚すくいなどの店もあって、そこで楽しんでいる子供たちを見ながら歩く。
真希お姉さんが、歩く速度に合わせてゆっくりJITTERIN'JINNを口ずさむ。元の曲とはちょっとペースが違うけれど、ゆっくり歌うお姉さんも機嫌が良さそうだ。手を後ろに回して巾着袋がゆらゆら揺れている。
電球の明かりの下に羽虫が少し集まっている。どういうわけだかこの町には蚊のような虫が少なくて、半袖で外を歩いていても刺されることが少ない。ふと真希お姉さんの方を見ると、片手で巾着袋を持って片手でアイスクリンを食べていた。
アイスクリンを食べ終わったお姉さんが僕の方に片手を差し出してきた。
「ねえ、手をつなごう」
手をつなぐ、ただそれだけなのに、こんなにたくさんの人前でそうするのは、まだ少し恥ずかしい。差し出されたお姉さんの手は柔らかくて少し汗ばんでいた。
お姉さんと手をつないで人混みの中を歩いていると、広場から太鼓の音が響き始めてきた。伝統の踊りが始まるらしい。人々の笑い声が響いてくる。
広場では犬の仮面をつけた人たちが楽しそうな踊りを踊っていた。こうしてみんなで楽しく笑って騒ぐのが、この町のお祭りであるらしい。踊っている人も見て笑っている人たちも、とても楽しそうだ。
僕らは遠巻きにその踊りを眺めながら神社の方へと向かった。お賽銭を投げ入れて柏手を打ってお祈りする。お姉さんは真剣な表情で何かを祈っていた。横顔が電球の柔らかな明かりに照らされてとても色っぽい。
お姉さんが僕の手を引いて歩き出した。神社の裏手の方へと進んでいく。薄明かりの下の真希お姉さんの横顔もとても綺麗だ。みんな広場の踊りを見て楽しんでいるので神社の方にはほとんど人が居ない。お姉さんはあたりの様子をうかがっていた。
「どうしたんですか?」
「あのね、貴文くん……秘密の場所があるの」
そう言って真希お姉さんは神社の本殿の下の方へ向かうと、床下に入り始めた。けっこう高さがあって楽に入っていける感じだ。
「ここから中に入れるの。内緒よ」
そう言って真希お姉さんは本殿の中に入っていくので、仕方なく、という感じで僕もついて行った。
「大丈夫なんですか?」
「表は鍵がかかってるし、お祭りの間は人も来ないから大丈夫よ。でも、静かにね」
本殿の中、畳敷きの3畳くらいの空間は電球の明かりで照らされていた。正面にご神体が飾られている。ご神体は犬の仮面だった。供物が盛られていて清潔な感じだ。熟した果実の匂いがたちこめている。
「この匂い……」
「かみさまのお供えにシシ汁もあるから」
供物に獣の肉が入った料理があるのも変な感じがするが、このあたりの文化は独特だとも聞いていたし、そういうものなのかなと納得した。でも、熟した果実のようなこの匂いは何故か僕に不思議な高揚感を感じさせる。
「どうしてここに?」
「貴文くん……キスしたくならなかった?」
「……それは、まあ……したく感じましたけど」
「外は暗いから……私は明るい方が好きだから」
真希お姉さんは畳の上に座って目を細めて唇を突き出してキスをねだってきたので、僕も畳の上に座りお姉さんに近づいて唇を重ねた。柔らかなお姉さんの唇の感触がとても気持ちが良い。真希お姉さんが僕の手を自分の胸の方へと導いた。
「触って……優しくね」
お姉さんの大きな胸の感触はとても柔らかで……でも、この感触は?
「ふふふ。実はね、浴衣の下は何も着てないの」
お姉さんが浴衣をはだけると、白い胸の谷間が見えた。ふっくらふくらんだ乳首も確かにちょっと見えて、浴衣の下に下着を着けていないのが分かる。お姉さんがさらに着崩して、浴衣の間から大きな桃のようなおっぱいがまろびでて来た。
僕は電灯に吸い寄せられる虫のようにお姉さんの胸に顔を近づけて、そして、柔らかく大きな胸に顔を埋めていった。お姉さんの胸はとても良い匂いがした。夢のように気持ちが良い。あまりに気持ちが良くてずっと顔を埋めていたものだから息が苦しくなって、あわてて顔を離して深呼吸した。
一瞬、我に返ってしまう。
「……お姉さん……でも、ここ、かみさまの前ですよね……罰が当たったりしませんか?」
「大丈夫よ!ここのかみさまの御利益知ってる?」
「知らないですけど」
「夫婦円満恋愛成就子孫繁栄……そして、ここのかみさまは楽しいことが大好きで、特に、エッチなことが大好きなの」
真希お姉さんはそう言うと、帯をほどいて浴衣の前を開けた。相変わらず不思議なまでに真っ白な体……本当に浴衣の下は何も着ていなくて裸だった。
「下着も着けずに歩いてきたから、ドキドキしちゃった」
青い浴衣から白いお姉さんの体が出てくるその眺めは、まるで大きな花が咲いたように美しくて官能的だった。甘い匂いがさらに強くなってきたように感じられて、僕の理性がゆっくりと溶けていく。
ここのかみさまがエッチなことが好きなかみさまだというのは知らなかったけど、古い神話の神様には多くの神様がいて、変わった神様もいるのは何となく知っていたし、そういう神様がいてもおかしくはないなと思った。
以前、真希お姉さんが「自分の中にエッチなかみさまがいる」というようなことを言っていたのも、もしかしたらそれを踏まえた言葉だったのかも知れない。
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