第5話
青空が反射して映る海は今日も青く遠くまで広がっている。大きな船から人々が下りてきた。ボクはクラインと共に地面へ下り、フランチェスカは馬から下りた。
「フランチェスカ、急いでメニーおば様を捜そう」
「ご安心を。これだけの人がいようが、あの方の魅力的なオーラは隠せません。フランにお任せあれ。これでも私、メイドですから」
フランチェスカが走り出し、人々の中へ走っていく。ボクとクラインもじっとしているわけにはいかない。手を繋いで、歩いてくる人の間に潜っていく。
「安心して。クライン。メニーおば様はね、本当にとても優しい人なんだ。それにとっても綺麗で、メニーおば様に出会った男の人は老若男女関係なく目をハートにさせてしまう。それくらい美しい人なんだけど、なぜかメニーおば様は全ての縁談や求婚を断り、ずっとママの側に居る、慈悲深い人なんだよ。幸せになってほしいと、ボクは何度も願ってる。でもメニーおば様はこう答えるんだ。『今が人生で一番幸せなの』って」
「素敵な出会いがあるといいわね」
「本当にね。いつまでもママの側にいるなんて、メニーおば様が可哀想だよ」
肩を叩かれた。
「はい?」
振り返ると、魚の頭を被った人間が、ボクたちを見下ろしていた。そして――クラインに抱き着いてきたのだ!
「きゃー!」
クラインが悲鳴をあげると同時に、ボクは魚の頭を被った奴を全力で杖を振り回して殴りつけた。魚の頭を被った人間は衝撃に耐えきれずその場で倒れる。それに気づいた人々が振り返ると、一人、また一人と人の間から魚の頭を被った人間が出てきた。不穏な空気を感じた人々が見回すと、やはり大量の魚の頭を被った人間が立っている。ボクが倒した魚の頭を被った人間が、肘を回し、肩を回し、足をくるくる回して、骨の位置を元に戻してから、ゆっくりと立ち上がり、最後に首を一回転させて、元に戻った。それを見た夫人が悲鳴をあげた。人々が走り出した。ボクはクラインを抱き、いち早く空へ逃げた。我先に逃げようと人々がもみくちゃになる。
「フランチェスカ!」
その時、大きく飛び込んできた男がクラインを肩に抱えて、人の中へと消えていった。クラインの悲鳴だけが響き渡る。
「ドロシー!」
「しまった! クライン!」
ボクは空から大声を出す。
「集合!」
人の中から鎖と鎌が飛んできて、ボクの箒に絡まった。地面からフランチェスカが飛んできて、ボクの背後に座る。
「クラインが捕まった。捜してる間、援護を頼めるかい?」
「あの役立たず! 御意!」
(ボクの魔力、クラインを捜し出せるかい?)
ボクの魔力が眼球に流れてきた。魔力の源がクラインを捜し当てる。それと同時に、魚の頭を被ったからくり人形達が飛んできたので、フランチェスカが鎌を投げ飛ばし、一人のからくり人形に刺した。そしてその鎖を掴み、ぐるんぐるんと回したら、あっという間に飛んできたからくり人形達が巻き込まれ、その状態のまま、フランチェスカが杖を蹴飛ばし、高く飛んだ空から、腕を大きく振り上げ、巻き込んだからくり人形を地面に叩き落とした。からくり人形による一本道の出来上がり。その上にフランチェスカが華麗に着地した。
「ドロシー様に手を出そうとする者は、野ネズミ一匹たりとも逃しません」
緑の瞳が破壊された資源を見る。
「全部処します。これでも私、メイドですから」
「太陽登れば花は起床、月が登れば皆睡眠。カエルも一緒。眠れゲコゲコ。深く深く眠り給え」
デクの杖をくるんと回すと、魔力が人の中へ飛んでいく。地面に落ちたボクをフランチェスカが腕に受け止めた。
遠くでヒキガエルが呻くような声が聞こえ、振り返ると、逃げていった人の中から、追手の上に座り込むクラインがいた。
「ああ! クライン! 無事かい!?」
「ありがとう! ドロシー! どうなることかと思ったわ!」
クラインの手を取り、振り返る。
「フランチェスカ! 早くメニーおば様を見つけ……」
「ドロシー様!」
クラインとボクが振り返ると、からくり人形達に囲まれていることに気付いた。フランチェスカが走り出す。ボクは呪文を唱えようと口を動かす。駄目だ。間に合わないのがわかった。からくり人形の手が、クラインの首に伸びた――。
「姪に、何してるのかな?」
――船乗り場が、炎に包まれた。
人々が悲鳴をあげた。それは大火事までに発展した。何かが燃えている。しかし、何が燃えているかはわからない。大量の何かが燃えている。
それを――丘の上で――メニーおば様が頬に手を当てて、眺める。
「わぁ、大変。港が大火事。テリーが知ったら倒れそう」
フランチェスカが背筋を伸ばして立ち、クラインが眉をひそめ、ボクは――輝く目でメニーおば様を見つめた。
「メニーおば様! 本当に助かったよ! まさか、マッチを持ってるなんて、ナイスタイミング!」
「アロマに使おうと思ってポケットに入れてたの。でも、他に有効活用できることがあって良かった」
港は変わらず燃えている。
「実は、かくかくしかじかで、このクラインが大変なんだ! 元凶は既にパパの側にいる。メニーおば様、どうか一緒についてきてもらえないかな?」
「ついていくのはいいけど……」
メニーおば様が一瞬クラインを見て、再びボクを見た。
「大丈夫?」
「お願いします!」
「……うん。じゃあ馬車に乗っていこうね」
「ありがとう! メニーおば様!」
ボクはクラインと手を取り合った。
「これで事件解決だ! クライン! 絶対に君の国を守るんだ!」
「ええ! 守ってみせるわ!」
意気込むボクとクラインを見て――メニーおば様は可愛らしく首を傾げた。
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