第3話
(*'ω'*)
その日の夜、昼のうちに沢山仮眠を取った俺は、いつものようにテントの中に入り、寝袋に収まった。寝ているふりをしていると――テントの入り口の布がめくられた。
「へへ!」
笑い声が聞こえたと思うと、小さな影は俺を寝袋ごと抱きかかえ、ヤマネコのような、とんでもない速さで森の中を走った。そして、あの家の前に着くと、ゆっくり歩きだし、俺を中に入れ、そっと地面に置いた。
「今晩も頼むぜ。坊ちゃん」
「立て」
俺は主の男の命令通りに、寝袋から抜け出し、立ち上がった。そして、夢の中で言ったように言った。
「すぐに仕事にかかれ。箒を取って、くまなく部屋の掃除……」
――俺はしゃがみこみ、隠し持ってたナイフを男の足に投げつけた。
「え?」
男が足を確認した。ナイフが刺さっている。一秒。俺は小人を捕まえた。
「うわあ!!」
「げっ!?」
二秒。男は悲鳴をあげ続ける。小人を殴った。
「あああ!」
「へぶっ!」
三秒。窓から師匠と先生が侵入した。男が足を押さえ、俺は小人を投げた。
「あああ!」
「ぎゃ!」
四秒。男が椅子から倒れ、俺は縄を取り出し、ルビィが男の首に剣を向け、レッドが首根っこを掴んだ小人と目を合わせた。
五秒。俺は男の両手を拘束した。小人が青い顔になった。
「ルンペルシュティルツヒェン。弟子が世話になったな」
「よお! 兄弟!」
青い顔のまま小人が開き直り、レッドに手を振った。
「元気そうじゃねえか!」
「そこにいる男をたぶらかしたものはどれだ?」
「へっ! 誰が教える……」
「仕方ない。それならキッド陛下に直接お前を差し出すしかない」
「そこのランプ!」
レッドがランプを持った。
「今からこれは俺のものだ。どんな効果がある?」
「へっ! 誰が教える……」
「テリー・ベックス」
「火を灯せば俺が何でも言うこと聞きます!」
「お前はどれだけ暇なんだ」
「邪な人間を見るのが好きなんだよ。お前ならわかってるじゃねえか」
レッドがランプに火を灯すと、青い光が部屋を照らした。ランプを俺に差し出した。
「持ってろ」
「はい」
「この男はお前に何を命じた?」
「仕事サボってたら兵士を解雇されたんだとさ。それで、仕返しがしたいから、観光に来てたお姫様をさらって、王を困らせてやろうって」
「弟子を家に連れてきたのは?」
「それはその坊ちゃんが陛下様々の息子だからだよ。調査に来てるって連絡を受けて、だったら出し抜いてやろうって俺様に命令したのさ。へへっ! 悪い奴だぜ。俺様が好きなタイプだ」
「名前は?」
「イーピン・トレンブレイ」
「それって……!」
思わず俺は声をあげた。
「第二騎士団から解雇された騎士……!」
「「あ」」
「しょっちゅう任務をサボって街中で女連れて酒を飲んで歩いてたっていう……」
俺はゆっくりと振り返り、拘束されながらも俺を睨んでくる男を見下ろした。
「羨ましい……」
「お前の親父が俺を解雇にしなきゃ……俺は今頃……!」
「黙れ!!!」
俺の声に、男が怯んだ。
「第二騎士団にいた分際で、任務をさぼって解雇なんて、当たり前だろ!!」
「それは……」
「俺がどれだけ修行して入団試験受けたと思ってるんだ!!」
「それは知らな……」
「お前らみたいな女好きがいるから、俺は正式な騎士団に入団出来ないんだ!」
「それは才能……」
「才能がないだと!?」
「言ってな……」
「俺に才能がないって言ったか!? お前! よくも……」
ルビィが家から抜け出し、レッドが小人を連れて早急に家から脱出した。
「よくもーーーーーーーーー!!!!!!」
男の悲鳴が響いた。小人が唖然とした。家がすさまじい音を立てて崩壊していく。レッドがその光景を眺めながら、横目で小人を見た。
「弟子を怒らせるな。こうなるから」
「……あの坊ちゃん……テリー・ベックスの息子だったな」
「性格はテリーさんに似ているが、力量はクレア様だな」
「厄介な奴が産まれたな……」
「四人兄妹の中で一番誠実で、一番ひねくれている。あの男は運がない。あれは物理的に強くなったテリーさんを相手にしているようなものだ」
小人が哀れみの目で崩壊されていく家を見た。
「どうする?」
「やめだ。やめ! 手を引くよ! そろそろ離れようとは思ってたんだ!」
「ああ。それがいい」
レッドが小人から手を離すと、一つの部屋を除いて、屋根まで崩壊した。その中から現れた男の顔はボコボコに腫れており、俺はまだまだ足りず、剣を握りしめた。
「首を掻っ切ってやる……。俺の中に溜まった妬み嫉み僻み恨み憎しみを全てこのクソ野郎にぶつけてやる……!」
「ストップ。そこまで」
ルビィが俺の襟を掴んだ。
「テディ、相手を見ろ。絶望して泣いてるじゃないか」
「泣いてるからなんです……? 解雇されたのは努力を怠ったからじゃないですか……。至極当然のことですよ……? 第二騎士団になれた分際で……町で……酒を飲み……両手に女……? 楽しそう……。羨ましい……。俺は寝る時間割いて修行してるのに……騎士団に入団出来たこともないのに……こんな奴が……元第二騎士団……俺は……入団出来たこともないのに……」
「はいはい。残された部屋の捜査しようなー」
「羨ましい……憎たらしい……羨ましい……羨ましい……」
ルビィが俺を引きずり、残された部屋のドアを開けた。そこにいたのは――泥で汚れたドレスを身に着けた――とても豊満な令嬢がいた。
一瞬、ルビィが拍子抜けたような顔をすると、令嬢が涙ぐんだ。
「あら! 騒がしいと思ったら! 助けに来てくださったのね!」
令嬢が飛びついてきたので、慌ててルビィが避け、俺が受け止めた。
「セレナ嬉しい!」
(うん?)
俺は令嬢の顔を覗き、首を傾げた。
「失礼。貴女はセレナというお名前なのですか?」
「ええ! わたし、北の国から観光で来ていたところ、誘拐されてしまったセレナ姫です!」
「おや? ひょっとして……以前秋の舞踏会でお会いしませんでしたか?」
「え?」
「申し遅れました。この国の第一王子のテディと申します」
「あら! やだ……テディ殿下!? そんな泥まみれだったから……気づきませんでした……! 失礼致しました!」
「いいえ、大丈夫ですよ」
セレナの髪の毛を撫でる。
「お怪我は?」
「……ありません……♡」
「そうですか。それは良かった」
俺は部屋を見回し、セレナ以外いないことを確認する。
「お訊きしたいのですが……ここに誘拐されたのは貴女だけですか?」
「ええ。そうだと思います。……人質だと言われたから大人しくご飯だけ食べていたのに、あの男ったら、夜這いもしにきやしない。何の度胸もないへったくれの男です!」
ルビィが思った。つまり、姫君を誘拐して搾取しようと思ったが、あまりの食欲旺盛さに搾取される側になっていたのか。
「お父様たちもきっと心配してますわ」
「共に帰りましょう。もう大丈夫ですよ」
「はい……♡ テディ殿下……♡」
「お前」
ルビィが男を見て、呟いた。
「まじで……運がなかったな」
騎士団を解雇され、誘拐した姫は食欲旺盛で、捜しに来た騎士はテリーとキッドの息子。顔はボコボコにされ、小人には裏切られ、待っているのは牢屋生活。
「クライン姫はいない。お兄ちゃん、テディ! 戻ろう!」
ルビィの言葉に、俺とセレナが振り返った。
(*’ω’*)
「なぜ、テディを、入団させないか?」
レッドとルビィが訊いた時、クレアが鼻で笑った。
「お前達が一番わかるだろ?」
「わかってます」
「あいつは優秀だ」
「優秀すぎます」
「そう。優秀すぎる。任務を任せれば必ず遂行し、成功率は99%。流石は我が息子。あたくしは嬉しい。こんなにも強くなってくれるとは! だから……わかるだろ?」
クレアは相変わらずにやついている。
「騎士団に入れちゃったら、全員のプライドが丸潰れ。なおかつ、あいつ、絶対に調子に乗る。自惚れに繋がる。テリーもそうだろ?」
自分が一番と思わせたらいけない。
「だから別チームを作る。お前達もそっちに行って、テディの自惚れプライドをへし折ってくれ」
「クレア、いくら何でもやりすぎじゃねえか? あいつ、そのせいで自己肯定感低くなってるぞ」
「自分で自己肯定感を上げることも、あいつへの課題だ。でないと、あたくしを越える国王になど、なれはしない」
クレアが窓の景色を眺め、笑った。
「一番期待しているぞ。我が息子よ」
妬み嫉み僻みを源に、泣きながら剣を振る息子を見て、胸を高鳴らせる。
(*’ω’*)
「おお! セレナ! 捜していたんだぞ!」
「お父様!」
「会いたかったぞ! 我が娘……なんか大きくなった?」
「好きなだけ食べて良いと言われたので! 特に、救出される前、二日間の食事がとても美味しかったですわ!」
北の国の国王と娘が感動の再会を果たし、セレナがテディにお辞儀をした。
「それでは……また舞踏会で……。テディ様……♡」
「ええ。セレナ様」
俺は笑みを浮かべる。
「また舞踏会で」
セレナが笑みを浮かべ、父親と共に馬車に乗った。それを見送りながら――俺は思った。
(ああいうタイプは自分の国でいい男を見つけて結婚するんだろうな。ああ、なんで俺はモテないんだ。なんでもっと女の子は俺に近づいてくれないんだ。本でよくあるじゃん。可愛い女の子達が一斉に主人公の男好きになるじゃん。ハーレムになるじゃん。俺も色んな女の子からきゃーきゃー言われたい。かっこいいって言われたい。素敵な男性、って、色目使われたい)
「ハニー、今日も可愛いね♡」
「ダーリン、今日もかっこいい♡」
「カップル発見! 公共の場でイチャイチャしてる罪で斬ってやる!」
「「こら」」
レッドとルビィに腕を掴まれ、引きずられる。
「クライン姫を捜しに行くぞ」
「手掛かりもない無謀な任務なんか、第一騎士団に任せればいい!」
「わかった。テディ、お前の好きなプディングを買ってやる。それで機嫌直せ」
「なんでカップルなんて存在するんですか!? なんであの男もその男も彼女いるんですか!? 俺も彼女欲しいのになんで俺はモテないんですか!? なんで!? 本の主人公の男は、なんかすごいスキル持ってて、無意識のうちにハーレム作ってよりどりみどりなのに、なんで俺は違うの!? なんで!?」
「お兄ちゃん、こうなったら情報が鍵だ。目撃情報がないか、手分けして探してみる?」
「だったら……」
レッドが俺に振り返った。
「テディ、ドロシーは犯罪事件について鼻が鋭い。何か見てないか、連絡してくれないか?」
「ああ……確かに森に入ってて誰にも連絡出来てませんでしたね」
確かにドロシーなら何か知ってるかもしれない。俺はGPSの電源を入れ、ドロシーに着信してみた。
(そういえば、頭に響く悲鳴の件、どうなったんだ? ついでに聞いてみるか。心配だし……)
着信音が鳴り続く。
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