第一話 回復草とグリーンペッカーの共生
あたりにはジメッとした空気が流れている。周りを見渡すが目に入るのは一面の自然だ。大樹が所狭しと生えていて、地面にはほとんど光が届いていない。光のあまり届かない地面は若干湿っており、そこには数多くの種類の草が生い茂っていた。
草の高さはどれもくるぶしより少し高いぐらいで、ときおり吹き抜ける風でゆらゆら葉を揺らしていた。
その草の中でも木の根元を占有している種類があった。その草の名前を”回復草”という。回復草は他の草より葉が少し肉厚で、草と言うよりは多肉植物のように見える。例えるならば棘がなくツルンとした見た目のアロエだろうか? その他の特徴は葉の緑の下に薄っすらと赤色が見え葉の中が赤いのだと予想がつく。
葉の特徴に気を取られていたが、よく見ると葉の根元から一本の茎が伸びておりその先には赤く小さな実が鈴なりに
そのルビーのようなきれいな実を観察していると鳥の鳴き声が聞こえてきた。その声の主はグリーンペッカーという片手に乗るほどの小さの鳥だ。羽の色は深緑色で周囲の木の葉の色に酷似している。
その鳥は実の香りに釣られるように回復草の前に降りたった。そしてすぐに回復草の赤い実をついばみ始める。どうやらその実は鳥の好物らしく腹がパンパンに膨れるのを気にせず一株分の実を食べ尽くした。
少しフォルムが丸くなった鳥は一生懸命羽ばたき重そうな体をなんとか木の枝の上まで運んだ。グリーンペッカーは枝から周囲を見回す。木々の葉で見通しが悪くこの深緑色の鳥が隠れるにはとても良い環境のようだ。
周囲を見終えた鳥は枝から体を乗り出し下を覗き見た。木の根元には鈴なりに実をつけた回復草が何株もあるのを見つける。しばらく同じ木の枝をつたい、あちこち大樹の様子を見て回った。
日が落ちる頃に鳥はこの場所が安全かつ食べ物も豊富だと確認し終えたようだ。警戒心を解くと木の幹に近い枝の太いところで眠り始めた。
グリーンペッカーが眠っているその体内ではあることが起こっている。それは回復草の実の消化だ。グリーンペッカーの消化能力で回復草の実は栄養へと変えられていく。しかしその消化に耐える物があった。それは回復草の種である。消化を逃れた種は鳥の消化器官をめぐり排出物として体外に出される。
眠っていたグリーンペッカーは寝ぼけながらお尻を木の枝からせり出すと糞をした。その着地場所は回復草の生育に適した大樹の根本である。糞には発芽後に必要な栄養と少量のマナが含まれていて回復草の狙い通りに事が運んだのであった。これで次の世代の回復草の繁栄が約束されたのである。
共生関係ににより深い森の奥でひっそりと生命のバトンが繋がれたのであった。
大樹の森はその姿をほとんど変えず月日は流れていく。変わらず湿った空気が流れあたりは薄暗い。変わった事といえば回復草が茂る大樹にグリーンペッカーが巣を作ったことぐらいだろう。
回復草の繁栄に力を貸した彼らは次は自分たちの番だと主張するように
腹を空かせた小鳥たちは激しく騒ぎ餌を要求する。親鳥は泣き止ませるために必死で餌を集める。季節は過ぎ回復草の実はなくなったが、代わりの餌が出始める。
時期を同じく虫たちも羽化する季節になったのだ。回復草の葉に産み付けられた卵から芋虫が羽化し始め、その芋虫はすぐに回復草の葉をかじり始める。その成長速度は驚異的で葉を食べた量と同じだけ体積がましていく。驚異的な成長速度で食欲も増し回復草の葉の食害は一気に進んでいく。
芋虫から食害を受けた回復草は実と同じ匂いの成分を振り撒き始めた。あたりにほのかに甘い香りが放たれる。するとすぐにグリーンペッカーが反応し葉の近くに降り立った。鳥は葉に近づくとすぐに芋虫を見つける。その芋虫をくちばしでつまみ上げると巣まで飛び捕まえたばかりの芋虫を騒いでいる雛の口へと放り込んだ。
雛は静かになり回復草は匂いを出すことをやめた。ここでも回復草とグリーンペッカーの共生関係は続いているようだ。
芋虫が排除されてしばらくすると食害を受けた葉から赤い汁がにじみ出てきて食べられた部分を一気に修復していく。これが回復ポーションの主成分になる
その事に人類が気が付くのはかなり早かった。今では手放せないほど人類の生活に馴染み、
人間を味方につけた回復草の繁栄は止まることはないだろう。いつの日か外敵に全く触れぬ薬草園という楽園へと招待され大いに子孫を増やしていく事になるであろう。
季節はめぐり雛鳥が巣立つ季節がやってきた。それは回復草がたわわに実る時期であった。雛は親から教わった美味い回復草の実をたらふく食べ出発準備を整えていた。
旅支度を終えた雛は勢いよく羽ばたき空へと昇って行く。大樹の木の葉の層を飛び出しグリーンペッカーが普段行かない高度まで高く飛んでゆく。
ここまで上がると大樹の森が一望できる。周囲を確認した雛鳥、いや新たな成鳥は自分が育った環境と似た場所を探し羽ばたき出した!
こうしてグリーンペッカーは勢力範囲を拡大していくのであった。そして腹には回復草の種をいっぱい溜め込んで……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます