異世界社会科見学

タハノア

第一章 回復ポーション

ようこそ製品歴史館へ。


「当歴史館のご利用ありがとうございます」


丁寧な挨拶が聞こえたかと思うと、真っ暗な空間にどこからともなく一筋の光が降り目がくらむ。明るさに目がなれてくると目の前には男が一人立っていた。

 その男はかっちりとスーツを着込んでいるがネクタイはしていない。代わりに首から社員証のようなものをぶら下げていた。服装はよく見慣れたものだったが、その他は変わっていた。

 肌は浅黒で髪はワインのように赤く前髪の下からは2本の角が生えていた。その角は動物などとは違い金属のような質感と光沢をしていた。視線を下に移すと瞳は金色で瞳孔は人と違い縦アーモンド型だ。瞳孔の色は色とは呼べないほどの漆黒でまるで穴が空いているかのような錯覚を覚えた。


「おや? ご利用者様かと思いましたが迷人でしたか」


彼はそう言うと困った様子で顎に手を当てる。その仕草で彼が白い手袋をしていることに気がついた。どうやら私は迷い人というやつらしい。この場所に来た経緯や理由が全く思い浮かばないのできっとそうなのだろうと納得した。


「迷人でしたら、そのうち担当の者が迎えに来てお帰りなれるでしょう」


普段であれば慌てふためいたりしそうだが、私はその言葉がスッと心に染み込み謎の安堵感を得た。


「お待ちいただいている間は、お暇でしょうから当館をご利用になってはいかがでしょうか?」


彼は手袋をはめた手でしなやかに横を示すと、いつの間にか腰の高さほどの小さな丸テーブルが現れていた。そのテーブルの上には赤い液体が入った瓶がポツンと置かれている。それは金属製のキャップではなくコルクで栓をしてある事から随分と古いものに見えた。知らない物だが、なぜか見慣れている感覚のある不思議な物だった。


「これはごく一般的な回復ポーションです。当館はこのような製品の原料から加工を経て使用されるまでをたどる製品歴史館となっております」


私はポーションと聞いた途端に先程の既視感の謎が解けた。ゲームやアニメで何度も見た傷を治す薬だ。私はその原料や加工法などがものすごく気になり是非見てみたいと思った。


「ご利用ありがとうございます。では早速このポーションのご案内をいたします」


そう言うと彼は手袋をしているにも関わらず指をパチンと鳴らす。その音を聞いた瞬間に私はふわりと浮かぶような感覚を得る。すると周りの景色が急速に変化していった。


私はいつの間にか座り心地の良い椅子に腰掛けていた。そして周囲の景色が森になっていることに気が付き驚愕した。


『おや驚かれてしまいましたか、申し訳ありません。ここは……そうですね360°見渡せる映画館のようなものだと思ってください。こちらからも、あちらからも干渉することは出来ませんので、危険を感じる必要はございません』


先程の男性の声があたりに響くがその姿は見えなくなっていた。何もかも不思議な出来事だが私はVRの映画のようなものだろうと思い心を落ち着かせた。


『では案内をさせていただきます。まずは回復ポーションの原料である植物のご案内です』


私はこの不思議な世界に没頭し始めた。

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