ガチやん……。球技大会にガチな人いるやん……。

 俺たちは、2回戦、3回戦、4回戦と順調に勝ち進み、準決勝進出を決めた。


 トーナメントで行われるは、お昼休憩を取れるように、午前中はAリーグ、午後はBリーグ、そしてその後に準決勝となっている。そのため、午後から少しの間暇な俺たちは、学食で昼食をとった後、クラスメイトの応援に体育館来ていた。


 体育館内は超満員。一階のフロアのみならず、二階のギャラリーいっぱいに人が並んでいる。掃き出し窓から大窓まで全て開けられているが、それでも尚、熱気が凄い。ボールの弾く音、シューズのキュッキュッと鳴る音、歓声や掛け声が響いていて、鼓膜まで熱さが届いてくるように思える。


「おっ、今からBリーグが始まるみたいだな。ってことは、バスケとバレーボールか」


 二階ギャラリー、手すりにもたれながら、池がそう言った。


 うちのクラスのBリーグは、体育館でするバスケとバレー。バスケには七海さんが出るので、少し楽しみでもある。


 そういや七海さん、最初に遊んだゲーセンでバスケのゲームしてたし、得意なのかもしれない。


 そんなことを思いながらぼーっと眺めていると、コートに人が集まってきた。クラスメイトと……あ、相手のチームに美鶴がいる。


「くっ、相手のチームに葵美鶴がいるじゃないか。俺はどっちを応援すればいいんだ!?」


「どっちでもいいんじゃない?」


 変なことに悩む川合に俺は冷めたことを言った。すると、海原に咎められる。


「それはいけないよ高梨くん。男なら、ハッキリさせるべきだよ」


「ええ……たかが球技大会の応援じゃん」


「いんや、されど球技大会だよ。そろそろハッキリさせるべきだよ、君は七海なのか葵さんなのか」


 あとの二人も乗ってるくる。


「そうだ、どっちと付き合いてーんだよ」


「どっちもは通らないぞ、高梨」


 あー面倒くさいことになった。七海さんと美鶴、どっちともと友達になりたいが答えだ。でも、そんなことを言っても、こいつらは追求をやめないだろう。


 仕方なく、誰と付き合いたいか、を考える。美鶴と見た河川敷の光景が目に浮かぶし、七海さんの歌声も頭の中で鳴る。さらには、先輩の髪の感触も蘇ってきて、顔が熱くなってきた……ってあ、この場を巻くのに先輩の名前を借りよう。


「屋敷先輩と付き合いたいかなあ」


 そう言うと、尊敬の眼差しを向けられる。


「高梨、やばいな。七海と葵美鶴だけでは飽き足らず、学校1の美人に目を向けるとは」


「欲望の塊か?」


「性欲の権化かい?」


 俺は3人の意識を別方向に向けるため、整列しているクラスメイトたちを指差す。


「ほら、試合始まるよ」


「うわっマジじゃん、がんば〜!」


 池が応援して、海原と川合も続いた。俺も、ざわざわとした歓声に紛れ込ませるように言った。すると、こっちに気づいたのか、七海さんと美鶴、二人が手を振ってきた。そして七海さんと美鶴は、互いに見合って、こっちに目を向けて、また見合った。


 なんだろう、遠くからでも空気の悪さが伝わる。互いのチームメイトはそそくさと二人から離れてるし。


 そういやこの二人、仲が悪いんだっけか。


 笛が吹かれ、なんやかんや中央に残った二人のジャンプボールから試合が始まった。


 先にボールに手が届いたのは、美鶴より背の高い七海さん。味方に渡ったボールは、ドリブルでフロントコートへ運ばれたのち、素早いパスで、中に入った七海さんの手に戻る。そして、振り向きざまにシュートが放たれる。シュートフォームは後ろに崩れていたが、ボールはバックボードに当たったのち、リングに入った。


 え、すご。


 普通の人から見れば『ガチやん……。球技大会にガチな人いるやん……』と思うくらいに、七海さんのプレーは凄かった。


 七海さんが戻りながらこっちを見てVサインをしてきたので、色々と尊敬を込めて、拍手をしておいた。


 そんな間にもボールは動く。バックコートに運ばれたボールは美鶴へ。ダムダムと数回地面につかれたのち、左から右への切り返しで一人躱し、カバーが間に合わないほど速いドリブルでゴール前まで運び、最後にはレイアップでネットを揺らした。


 え、すご。


 普通の人から見れば『ガチやん……。球技大会にガチな人いるやん……』と思うくらいに、美鶴のプレーは凄かった。


 美鶴のVサインにも、色々と尊敬を込めて、拍手をしておいた。


 スティールしたり、レイアップシュートをはたき落としたり、とそれからも七海さんと美鶴とのバッチバチのやり合いが続く。


 何だか息苦しくなった俺は、隣のバレーボールのコートを見た。ちょうど点が入ったところで、集まってハイタッチを交わしていた。そしてそれを、コート内にいるのに、一人遠巻きに見ている下北がいた。


 あれ?


 バレーボールに出ているチームは下北のグループ。なのに、どうして他人行儀なんだ?


 そんな疑問を覚えた時、肩を叩かれた。驚いて振り向くと、そこには屋敷先輩がいて、再び驚いた。


「え、屋敷先輩?」


「探したよ、高梨くん」


 疲れた顔の屋敷先輩に尋ねる。


「どうしてですか?」


「ソフトボールがようやく終わってね。君の試合を見ようとしたんだけど、グラウンドにいなかったから。どう、もう負けた?」


「いや、勝ってますよ。次は多分、二時間後くらいですかね」


「そうかありがとう。それじゃあ、その時間にまた見にいくよ」


「え、もう行っちゃうんですか?」


「私が人混みに耐えられると思う?」


 俺は「そうですね」と言って、屋敷先輩を見送った。


「おい、高梨」


 先輩の後ろ姿が見えなくなると、池からお声がかかった。


 何を聞かれるのか予想できたので、「今は応援に集中しよう」と言って、バスケのコートに目を戻す。棒立ちになっている七海さんと美鶴の姿があったので、目のやり場を探した。

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