球技大会
青空の下、お立ち台に立った体操服姿の男子が、グラウンドに整列する全校生徒に向けて、片手をあげ叫んだ。
「今から一発ギャグをします!!」
おお、とヤジが飛んだが、それをお立ち台の男子は無視した。
「さ、盛り上がりましたところで、開会宣言をいたします!」
今度は、ふざけんな、やれよ、とヤジが飛ぶ。
それから長々と冗談を交えた演説ののち、ついに宣誓は始まる。
「せんせーい! 私たちは日頃の鬱憤をはらすため、スポーツマンシップに則ることなく仲間を蹴落とし、ウザい先輩や、生意気な後輩にわからせることを誓います!」
そんなよくある、寒いのに不思議と笑えてしまう宣言と笑い声で球技大会は幕を開けた。
校庭に集まっていた学生が、体育館だったり、野球場だったり、そのままグラウンドだったり、ぞろぞろと歩いて向かう。
騒がしく蠢く学生達を目にしながら、立ちぼうける。
ついにこの日を迎えてしまった。
たかが球技大会だけど、昨日優勝した後のことを考えたせいで、緊張してしまう。一週間練習しただけで優勝するなんて、可能性の薄い話。そんなことはわかっているけれど、負けたらどうしよう、と考えてしまう。
「おい! なーに、ぼーっとしてんだよ!」
いきなり肩を叩かれて、びくりとする。振り向けば、池、川合、海原がいた。
「俺たちの試合は最初だ! 早くいくぞ!」
「高梨くん、しっかりしてよ! 僕のハーレム伝説の幕開けなんだから!」
いつもと変わらないノリに緊張が解ける。
優勝したらとか、負けたらとか、今は考えなくていい。ただこいつらとサッカーを馬鹿を楽しめばいいんだ。
***
石灰でライン引きがされている、フットサルと同じくらいの広さのコート。そこのセンターラインを前にして、両チームの選手が並ぶ。
一回戦の相手は、3年生の先輩方。池が言うには、サッカー部の人はいないらしいが、見た目からして体育会系の人たちが揃っている。
「それでは始めます」
体育委員の審判の人に促され、池がジャンケンをする。結果、勝った俺たちのボールから始まることに決まった。
池と川合がセンターラインでボールを囲み、俺と海原が配置につくと、10分間の試合開始を告げる笛がなる。
審判の声から少し遅れて、池が川合にちょんとボールを出した。すると、敵の選手がプレスをかけて来たので、川合はバックパスし、俺にボールが渡る。
川合にプレスをかけてきた人がそのまま俺に向かってくる。
慌てるな、周囲をよく見ろ。川合、池は付かれている。海原だって、マークされている。だけど、海原はボールを欲しがっているように見える。鳥籠で散々見た動き、おそらく前に出てマークを躱すだろう。
俺は先輩を十分に引きつけてから、海原の前へスルーパスを出した。
「ナイパス!」
無事海原にボールが渡って、2対3の人数有利。トライアングルを形成した俺以外の3人は、素早いパス回しでプレスをかけてくる先輩を躱し、最後フリーでボールをもらった川合がシュートを打った。
「いよっし!」
ゴールネットが揺れて、川合が声をあげた。戻ってくる川合に「ナイシュー!」と全員で声をかけ、ハイタッチをした後、ポジションにつく。
再び笛が吹かれ、相手ボールから始まる。
相手は一度バックパスを出し、それから二人がワイドに開き、もう一人が俺の前にきて、菱形のようになった。
一番前の川合がプレスをかけると、相手は右サイドにパスを出す。そこを池が詰め、一対一。だけど、池はボールを取りに行く動きを見せず、パスコースを切るような動きをした。
俺にカットしろってことだろうな。
俺はあえて、前にいる先輩と距離を開け、パスを促す。するとすぐに、相手がパスを出す体勢になったので、俺は急いで前に出て、出されたパスを奪った。そしてその直後、既に前へ走っていた池にパスを出した。
ボールを受け取った池は、ドリブルで一人躱して、シュートを決める。
これで、二点目。あっさりと、リードしているけれど、別に相手が弱いわけじゃない。見る限り、ボールタッチだったり、パスだったり、俺よりも上手いと思う。だけど、それでも勝てているのは、3人の技術の方が上であるということ、それと、連携がとれていることだ。
練習の成果が出ている。それは3人だけでなく、俺もだ。海原がパスを欲しがっていることも、池がコースを絞ったのも練習しなければわからないことだった。それに、引きつけてもパスをひっかけないこと、相手のパスを奪うこと、技術的にも練習の成果が出ている。
本当に優勝できるかもしれない。
それから、俺たちは二点追加して、一回戦を勝利した。
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