朝起きたらマインスイーパー


 深夜一時、ベッドの上で微睡ながら、スマートフォンを操作してtwwitterを開く。ぽつぽつ、とタップし、検索欄にmitsuruと打ち込んだ。フォロワー数10万越えのイラストレーター、mitsuruこと美鶴のアイコンとヘッダーが現れる。スワイプして出てきた一番上のツイートは、今日見た絵で、更新されたばかり。いいねとリツイートがリアルタイムで増えていく。


 タップしてリプ欄を見る。『エモい』『ノスタルジーに浸る』『アオハル!』そんな感想が書かれていた。


 やっぱり、そういう類のものだよな。


 結局あの後、どうしても俺を送ってあげたい、という美鶴の気持ちと、女の子を一人返すわけにはいかない、という俺の気持ちの折衷案として、俺の家に寄ってから美鶴を送る、ということになった。そして帰宅したわけだけど、それまでの間、ずっとどこかそわついていた。


 何故胸が妙に疼くのだろう、と帰宅して考えていたけれど、その答えがリプ欄なのだと思う。


 でもどうなのだろう。


 俺は友達になりたくて、嬉しいことに美鶴は俺の彼女になりたい。でも俺たちはどちらでもない、友達でもないし、彼氏彼女の仲でもない歪な関係。青春ってやつが持つキラキラで爽やかなイメージとはちょっと違う気がする。いやでも、傍目から見たらそうなのか?


 わからない。わからないけれど、自分の気持ちだけはわかっている。


 今は美鶴と友達になれる自分になりたい。だから美鶴と友達になって証明したい。その気持ちの強さは間違いなく大きい。


 だったら、俺のとるべき行動は明確だ。


 俺は美鶴と連絡が取れるようDMを送る。


『夜遅くに失礼します。寝てたらごめん、高梨高良です。連絡が取れるように、とDMを送りました。お休みなさい』


 10分くらい文面を考え込んでいたせいで、変なメッセージになってしまった。けれど、送れた。一歩前進。


 俺は満足感に包まれながら、眠りについた。



 ***


 先輩、悩みがあるんですけど


 どうしたの? また悩み?


 はい美鶴のことで


 その相談、受けたくないな


 え、どうしてですか、ってどこいくんですか!


「屋敷先輩!」


 ばっと飛び起きる。あぁ、夢か。


 欠伸を一つして、伸びをする。


「おはよう、高良」


「ああ、おはよ……」


 声を失う。ベッドの横には制服姿で立つ美鶴の姿があった。もちろん、目は闇。


「ゆめかぁ」


 悪い夢。夢の中で眠ればどんな夢が見れるのだろう。


「高良」


「はい」


 朝起きたらマインスイーパーが始まっていて、現実逃避しようとしたけど許されなかった。


 考えろ、何を言えば地雷を踏まずに済む。


「ど、どうして美鶴はここに?」


 完璧な回答。最も自然な疑問を投げかけ、先輩の名前を呼んだことは有耶無耶にする。


「高良、twwitter開いて?」


 美鶴に机の上に置いてあったスマホを渡される。言われるがままに開くと、メッセージがきていた。


『えへへ。高良、メッセージありがとう、今大丈夫? 今日ってもう昨日かな、あんなことがあったから眠れないんだ』


 午前二時。


『こーらー。きづけー。めっせーじきてるぞー』


 午前三時。


『お〜い、ちょっと傷ついちゃうな〜』


 午前四時。


『ねえ、意地悪してる?』


 午前四時半。


『( ; ; )』


 午前五時


『家いくよ?』


 午前五時半


『ほんっとうに行くからね?』


 午前六時


『もう行くしかないけど、いいんだね?』


 そこからは5分おきに、家に行くという趣旨の念押しメッセージが送られてきていた。


 脳内に爆発音が鳴り響く。


 うん、失敗。ゲームオーバー。


「あの、ごめん、寝ちゃって」


「そうだよね。スヤスヤだったもんね。昨日あんなことがあったから私は眠れなかったというのに、高良はスヤスヤだったもんね」


 2ゲーム目もゲームオーバー。脳内に爆発音が鳴り響く。


「えっと、その、あの」


 ごめん、と謝るのも違う気がして、何をしていいかあたふたしてしまう。すると、美鶴は笑った。


「いいよ。勝手に押しかけて、たまたま聞いた寝言を問い詰めるってヤバい女じゃん。私、誰かさんみたいにヤバい女になりたくないし」


 勝手に押しかけて寝ている人間のそばに立っている、それだけで少々ヤバいのではなかろうか。そう思ったけど、3ゲーム目までゲームオーバーになりたくないので、ただ「ありがとう」と言っておいた。


 でもそれにしても驚いた。メッセージで何回も念を押されていたとはいえ、本当に家まで来ているとは。


「あ。ばあちゃんは?」


 今の俺はばあちゃんとの二人暮らし。まさか勝手に家に入ってきてはいないだろうし、ばあちゃんが家にあげたのかな。


「下で朝ごはん食べてるよ。高良も顔洗ったら食べにきなって」


 頷くと、美鶴は部屋を出て行った。

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