第20話 ユウとアイと
「それで?話ってなに?」
「うん・・・」
今、私達は私の部屋に集まっている。
あの計画を話して協力してもらうために。
部屋にいるのは私とアイ。ノエラとリリーの4人。
正直、アイのことは認めたくない。
でもアイのことを否定するのは私自身を否定することに繋がってしまう。
しかも今、アイは従妹であって妹ではない。
私は今も前世も妹。
両親も二人の婚約を認めてしまった。
状況は私に不利。
ならば正直に話して協力してもらうしかないのだ。
「ふぅ…。正直に言うわ。協力してほしいの」
「協力?ウチに?」
「ええ。アイだけじゃなくノエラとリリーも」
「私達もですか?」
「リリーも?」
「ええ、貴方達も」
こうなれば戸惑ってはいられない。
このまま何もせずアイとお兄ちゃんの結婚を黙って認めるわけにはいかない。
本当はもっと時間を掛けてじっくりやるつもりだったけど事態は急変してしまった。
「アイ、あなたがお兄ちゃんを好きなのは知ってる。婚約も悔しいけど認める。お父さん達も認めてしまったし、反対するには理由がない。でも諦めることは出来ない」
「「ユウ様…」」
「それで?どうするの?」
「私は、お兄ちゃんが好き。大好き。だからあなたに独り占めさせるわけにはいかないの。あなたが私と同じだったなら尚更」
アイは真剣に私の話を聞いてくれている。
ノエラとリリーは「同じ?」と首を傾けている。
悪いけど前世の事等は話せない。
「アイ、あなたとお兄ちゃんは婚約はしたけど、お兄ちゃんはまだあの事が引っ掛かってる。それはあなたも解ってるんでしょう?」
「まあね」
「私がお兄ちゃんに結婚してと言ってもきっと同じ。お兄ちゃんはすぐに『うん』とは言わないわ」
「でしょうね」
「えええ!ユウ様はジュン様と結婚するつもりなんですか!?」
「ええ、そうよ」
「リリー、お控えなさい」
「で、でもノエラ先輩。兄妹でなんて…」
いくら国が認めてるといってもやはりリリーのような反応が普通なんでしょうね。
「いいの、ノエラ。リリーもごめんなさい。今は最後まで私の話を聞いて」
「はい、ユウ様」
「は、はいですぅ…」
私は再びアイと目を合わせて話を再開する。
「アイ、確かにこのままなら時間を掛ければあなたとお兄ちゃんは結婚できるかもしれない。でも時間は掛かる。お兄ちゃんが引っ掛かってる事をなんとかしないとね」
「そうかもしれないね」
「もし、その間にお兄ちゃんに好きな人ができたら?その人が結婚するにあたって何の問題もない人なら婚約を破棄してその人と結婚するかもしれない」
「…」
アイは目では『そんなことはない』と言いたそうな目をしていたけど
言わずに堪えたみたい。
絶対なんてことはないのだし。
「だから協力してほしいの。お兄ちゃんが妹と結婚してもいいって、ううん、したいって思うように。そうなればあなたとの結婚にも問題は無くなるはずだわ」
「具体的にはどうするつもりなの?」
「ハーレムを作るわ」
「「え」」
やっぱり驚くわよね…。
ノエラはなんだか感心したような顔だけど。
「幸いにしてこの国では一夫多妻が認められているわ。そして、そこまでやればお兄ちゃんの倫理観も変わるはずだわ。妹との結婚にも寛容になるはず」
「ウチにはあまりメリットがないんじゃない?」
「そうかもしれないわ。でも時間を掛けるのがいいことだとは思わない。私も時間はあると思ってた。でも今となっては悠長にしてられないわ。それにお兄ちゃんはこの国の魔王子。もしかしたら政略結婚なんてこともあるかもしれない。私にもあるかもしれないけど、私はお兄ちゃんじゃないと嫌。お兄ちゃんじゃないとダメなの。だからお願い、協力して」
「…」
アイは悩んでいるようだけどまだ納得はできないって感じかな…。
無理もない、私だって逆の立場なら納得できないと思う。
それでも…
「あの~もしかしてリリー達に協力してほしい事って…」
「ええ、そうよ。ノエラとリリーもハーレムメンバーになってほしいのよ」
「えええ」
「畏まりました。ユウ様」
「て、ノエラ先輩、決断早すぎますぅ。もっと悩みましょうよぅ!」
リリーの言う通り驚きの決断の速さ。
正直、嫌がられると思ったんだけど…
「いいの?ノエラ」
「はい、ユウ様。私はジュン様とユウ様に仕えるメイド。ジュン様に求められればいつでも応じるのがメイドというもの。それにジュン様ほどの方のハーレムに加われる等、望みこそすれ、断る等あり得ません」
「そ、そう。良かった。ありがとう」
ノエラの考えるメイドの在り方ってかなりアレな方向に歪んでるような気がするけど誰のせいなのかしら。
「う、ううう、リリーは、リリーはぁ…」
「リリー、悩むという事はまんざらでもないんでしょ?お願い」
「ううう、でもでもぉ」
「リリー、あなたがジュン様を意識してるのは私もユウ様も知っていますよ」
「えええええ!なんでですか!」
その通り。
だからこそリリーを選んだんだし。
もちろんリリーがいい子だというのが一番だけど。
「見ていればわかります。ジュン様に耳としっぽを触られた時からですね。知っていますかユウ様?獣人にとって異性に耳としっぽを触らせるというのは将来を誓った人にのみだそうですよ」
それは知らなかった。
それで顔を真っ赤にしてたのね。
ちなみにその後、私も触らせてもらった。
「あ!あああああ!ひどいですぅノエラ先輩!知ってたなら止めてくださいよぅ!」
「メイドたるものいついかなる時も主の求めに応じるのが当然です」
「う、うううう~!」
確かにちょっとひどいように思うけど
ここはノエラに乗らせてもらう。
「お願いリリー。ね?」
「うう、リリーはリリーは・・・」
リリーが悩んでいると突然部屋がノックされる。
ノエラが応対し入って来たのは意外な人だった。
「こんにちは。ごめんなさい御話し中に」
「シャンゼ様、どうして・・・」
「アイさんに御話しがあって。探していたの。そしたら興味深い話が聞こえてきてつい立ち聞きしてしまったの。ごめんなさい」
「聞いてたんですか!?」
「ええ、ごめんなさい。アイさんとの御話しとも無関係ではなかったから」
「なんですか?ウチに話って」
今の話と関係するアイとの話?
まさか…
「実はね、私もジュン君と婚約させてもらえないかなって。きゃ」
「「「えええええ!」」」」
流石にこれは予想外だわ…。
みんなも驚いてる。
ノエラは声はあげなかったけど表情は驚き顔だし。
「ど、どういうことですか!」
「まあ驚くわよね。説明するわ。実は私って魔王になったばかりでまだ婚約者がいないの」
「は、はい、それが?」
「それでねフレメリーラの魔王の婚約者ともなるとね。それなりの相手じゃないとダメで、誰もが納得する相手じゃないとね。そこでジュン君よ!彼なら問題ないわ!」
「えええ…」
「それに実は私もサキュバスなの。同じサキュバスであるアリーゼ様をあそこまで骨抜きにするなんて流石エリザ様の息子さんだと思ったわ」
アリーゼ伯母様、いえアリーゼお姉ちゃんも同じこと言ってたけどお母さんてそんなにすごいのかしら。なんだか魔王であるお父さんより一目置かれているような…。
「それでね、これ以上ライバルが増える前にアイさんに了承してもらって婚約してしまおうと決めたのよ。あの場にいた女性達、何人かはジュン君を熱い目で見てたわよ」
「あの失礼ですけど、シャンゼ様は御幾つなのですか?」
「ん?二十歳よ。少し年上だけど数百年を生きる私達からすれば大した差じゃないわ」
確かに大した差じゃない。
それに前世からの記憶が残ってる私達からすればシャンゼ様は実は年下。
問題にすらならない…。
むしろ妹じゃない分、シャンゼ様には問題がない…まずい…。
「それでどうかしらアイさん。できればあなたとは仲良くしたいと思ってるの。フレムリーラの魔王という立場は変えれないから政略結婚の意味合いも出てくるように思うかもしれないけど、私は純粋にジュン君が気に入ったわ。認めてほしいのだけど」
「う…」
「アイ…」
これはまずい。
シャンゼ様まで加わってはハーレム計画が…
「ああ、それとハーレムを作る計画ね。私は賛成よ」
「「「え」」」
「私、そのあたりは寛容なつもりよ。私とジュン君が結婚してもエルムバーンとフレムリーラが一つにはなれないし。そうなるとお互い常に一緒にいるわけにはいかないわ。まあ国民の前で挨拶くらいはしてもらわないとダメでしょうけど、私の傍で縛るわけにもいかないしできないの。ならいっそハーレムを認めて側室が増えたってかまわないわ」
なんというか…シャンゼ様は真面目そうでハーレムなんて嫌がりそうに見えるのに
ハーレム賛成とは思わなかった…
「アイ、その…」
「わかった、わかりました!ハーレム計画を進めましょう」
「ありがとう、アイ!」
「ありがとう、アイさん」
「仕方ないわ。ユウの言った通り政略結婚の話が出てしまったもの。こんなに早くくるとは思いもしなかったけど。それにねユウ、あなたがよければジュンにはあなたとも結婚するように言うつもりだったの」
「え、そうなの? なぜ?」
「ユウの気持ちは知ってたしね。それにユウとも仲良くしたいと思ってた。妹になる子と仲良くできないなんて嫌だもの」
「ありがとう…アイ」
「いいの。ウチのためでもあるし。それで、ノエラさんとリリーさんだっけ。二人もOK?ハーレム計画に参加ってことで」
「はい、アイ様。私どもの事は呼び捨てになさってください」
「リリーは…リリーは…」
「リリー、悩んでるなら答えは今すぐじゃなくてもいいわ。でもいずれは答えを出して聞かせて」
「はいですぅ…」
「でもハーレムってことはこれからも増やすつもりだよね。メンバーはウチらで決めるの?」
「お兄ちゃんの気持ちが最優先ではあるけど…この五人は認めてもらうわ。それから増えるかどうかはお兄ちゃん次第。誰でもいいってわけにはいかないし私達で精査しましょう」
「OK。まぁ五人で十分ハーレムと言えると思うけど。それと何人増えようがジュンの一番は譲る気はないから。ユウにもシャンゼ様にも」
「私だってそうよ。お兄ちゃんの一番は私だわ」
「私はそこはあまりこだわらないけど…一番のほうが嬉しいのは確かね。そこは競争にしましょ。ね?」
「「はい」」
「私はメイドですので。分は弁えております」
「うう、リリーはリリーはぁ…」
こうして悩むリリーを余所にお兄ちゃんの意識改革のためのハーレム計画は始まることになった。
ハーレムは作ってもお兄ちゃんの一番は譲らない…絶対!
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