第18話 アイ・ダルムダット 2

「本当に愛なのか?

 

「うん。ウチだよ」

 

 驚きのあまりされるがままに愛に抱き着かれていた。

 ハッ 殺気!

 

「て、うわぁ!」

 

「チッ。躱しやがったか!」

 

 突然、ガウル様がボクの頭目掛けて拳を振り下ろしてくる。

 すんでのとこで躱すことができた。

 

「いきなりなにをするんですか!」

 

「お前こそ、いきなり父親の目の前で娘と抱き合うとか。いい度胸じゃねえか。アアン?」

 

 そんな…中身はともかく見た目は二人とも十歳にも満たない子供。

 子供同士が抱き合ったくらいで殴ろうとせんでもよかやないですか。


「やめてパパ!」

 

「やめろガウル。お前こそ父親の前で息子を殴ろうとするはどういうつもりだ」

 

「そうよぅ。子供同士が抱き合ったくらいで。少し大袈裟じゃない?」

 

「大袈裟なものか。アスラッド、お前だって娘が目の前で突然男と抱き合えば同じことをするだろう!」

 

 チラッとユウを見て考える父アスラッド。

 ユウはなぜか不機嫌な顔をして愛をいや、アイをジっとみてる。

 

「…そうだな。仕方ない、いまのは不問にしてやろう」

 

 納得しないでパパ上!

 息子の危機だよ!もっと粘って!


「そうだろう。というわけで一発…」


「やめてってばパパ」


「落ち着けガウル」

 

 ガゴン と後頭部をアリーゼお姉ちゃんに殴られて悶絶するガウル様。

 実に痛そうだ。

 アリーゼお姉ちゃんがジッとボクを見てアイに尋ねる。

 

「ふむ。アイ、ジュンがそうなのか?」

 

「そうよママ。ジュンが運命の人。ウチが愛するただ一人の人よ」

 

 何の話だ?

 

「アイはずっと以前から、この世界には運命の人がいる。必ず出会うことになるし、会えば必ずその人が運命の人だとわかる。相手も自分が運命の人だと必ずわかるはずだ、と言っていてな」

 

 それはまた随分と乙女チックな。

 

「そして一月ほど前に突然、この三ヵ国会議についてくると言い出してな。その日に運命の人と出会うはずだと。半信半疑だったがジュンもアイを知っているかのような反応だったしな。信じるしかなかろう」

 

「半分は信じていたんですか?正直、その、随分と根拠のない話だと思うんですけど」

 

「アイは特殊な紋章を持っていてな。先見の紋章という。知っているか?」

 

 先見の紋章。

 先見の紋章を持つ人に訪れる危険な未来を教えてくれたり、特定の未来のことを教えてくれたりする。予知能力を与えてくれる紋章というわけだ。

 

「なるほど、それで」

 

「先見の紋章は便利だが教えてもらった未来は絶対に実現されるとは限らない。遠い未来のことなら尚更な。危険な予知ではないし子供が抱きがちな夢のような話だったのでな。つい話半分に聞いていたのだ。すまないな、アイ」

 

「ううん、平気よママ」

 

 まあ実際のとこはボクがこの世界にいるのは転生の際に神様に聞いていたのだろうしね。

 先見の紋章で教えられたのは三ヵ国会議で会えるってことだろうな。

 いや、あるいはそれも神様に教えられて知っていたのかな。

 

「で、ジュン。実際お前もアイをみて運命の人だと感じたのか?少なくとも以前からアイを知っているかのような反応だったな」

 

「え、ええ~とですね…実は夢で何度か見たことが…」

 

 まさか前世では恋人同士だったとは言えず。

 少々苦しい言い訳になってしまった。

 だけど

 

「ほう。夢で逢っていたか。ますます運命の人っぽいな」

 

「ロマンチックだわあ」

 

「素敵な話ですね」

 

 母エリザにアリーゼお姉ちゃん、シャンゼ様までもが少しを頬を赤くして頷いている。

 話をきいていた周りの女性使用人達も同様だ。

 ただ一人、ユウは不機嫌な顔のままだったが。

 

「取り合えず場所を変えましょう?歓迎の宴の用意はできてるわよ」

 

「そうだな。ほらガウルもいい加減落ち着け。行くぞ」

 

「う、うううむ」

 

「ほらガウル行くぞ」

 

 ようやく場所を変えるため移動を開始する。

 向かうは宴の用意がされた会場だ。


 ボクとアイ、ユウの三人は会場を早々に抜け出して

 ボクの部屋で話をしている。

 使用人達は部屋の外で待機してもらっている。


「じゃあ神様に事情は聞いているんだな?」

 

「うん。ユウちゃんが転生してることも聞いてたわよ」

 

「それにしては会いにこなかったじゃないか」


「どこに転生してるのか知ってはいたよ。でもまだ見た目は子供だもの。そう簡単には会いにいけなかったの」

 

「あの…」


 それまで黙っていたユウが話に入ってくる。 

 前世で二人は何度か会っている。

 ただ前世でボクと愛が別れた理由を優は知らない。

 説明するべきか…

 

「愛さんもお兄ちゃんを追って転生したんですか?」

 

「さん はいらないよ。アイでいいよ。今じゃ同い年みたいだし、タメ口でOK。で~、そうだよ、ウチもジュンを追って転生したの」

 

「じゃあまだお兄ちゃんを…その…」

 

「うん。大好き。愛してる」

 

「じゃあなんで別れたの?まだ好きならなんで…」

 

「ウチは別れるつもりはなかったんだけど、ジュンが一方的にね。だけど別れたあともちょくちょく会ってはいたんだ。ジュンもほんとはウチを好きなくせに素直じゃないんだから、もう」

 

 やめてくれ。

 そんなハッキリと…確かに未練がないと言えば嘘になる。

 だからこそ別れたあとも会っていたんだし…

 

「理由はそうだね…今は違うけど、ユウちゃんと同じだから、かな」

 

「おいっ」

 

「いいじゃない。それに聞かないと納得しないでしょ。ユウちゃんも」

 

「聞かせて。同じってどういう意味?」

 

「ウチはね。ジュンと異父兄妹だったの。婚約の話をするために両親に会いにきたとき発覚したってわけ」

 

「え…」

 

 愛と初めて会ったのはボクが三十歳。愛が二十歳の時。

 出会いは偶然。でも最初から他人とは思えなくて。

 愛したのは必然。当たり前のように愛した。

 そして婚約の挨拶のため訪れた彼女の家にいたのは

 かつて母だった人だった。

 

「それでまあ、両親から大反対にあってジュンからも別れを一方的に告げられたけどウチは納得しなかったわけ。知ってた?兄妹でも戸籍上他人なら結婚できたのよ、実は」

 

「え、そうなの?」

 

 実はそうなのだ。

 だけど、どうしても兄妹で結婚するには…常識が邪魔をした。


 アイは…神名 愛は実は結構な有名人だった。

 美しすぎる女格闘家とか美少女格闘家などと呼ばれ、大きな大会でいくつもの優勝経験がある天才空手家だった。ボクと付き合い始めてからは引退して普通の大学生になり、卒業後は中学の体育教師になっていた。

 

「それでまあ、会うたびに説得を続けたけど世界が滅んで今に至るわけね」

 

「そう・・・」

 

 ユウがなんだか元気がないな。

 

「どうかした?ユウ」

 

「なんでもない…」

 

 そうは見えないが。

 

「相変わらず鈍いんだから」

 

「なにがだよ」

 

「べーつにー。で、この世界に転生するにあたってジュンの妹ではなく従妹くらいに転生させてほしいって頼んだの。妹だとまた結婚の説得をしなきゃいけないだろうけど他人だとそれはそれでちょっと寂しい気もしたから」

 

「そうか…」

 

「というわけだから、今度こそ結婚しよ、ジュン!」


「う、ううむ」

 

「なーによ。もうなにも問題はないじゃない!それにエルムバーンでもダルムダットでも兄妹で結婚は認められてるの。ますます問題ないはずだよ」

 

「え、そうなの?」

 

 確かに、確かになんの問題もないかもしれない。

 だが前世での記憶を引き継いでいる以上なにかが引っかかてしまう。

 再会できたのは喜ばしいのだけど。

 

「うううむ」

 

「…ふぅ。まぁ今はいいかな、まだお互い子供だしね。今は素直に再会を喜びましょ。ね?」

 

「あ、ああ。そうだな。また会えてよかったアイ」

 

「うん。ユウちゃんもまた会えてよかった。これからよろしくね」

 

「う、うん。よろしく…」

 

 ユウは終始難しい顔をして悩んでいるようだった。

 そういえば愛と優はあまり仲良くしていた記憶がない。

 アイとユウは仲良くやってくれるだろうか。

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