第17話 アイ・ダルムダット  1

「三ヵ国会議?」


「はい。まもなく開催されるエルムバーン・ダルムダット・フレムリーラの三ヵ国の魔王様方が集まり会議をするのです。三年ごとに開催され会議場所は各国が順番に持ち回りで行われます。今年は我が国で行われます」


 前回はダルムダット魔王国、前々回はフレムリーラ連合魔王国で行われたらしい。


「今回はダルムダット魔王国の魔王女様も来られるとか。そこでジュン様とユウ様も出迎えに参加するようにとの事です」


 前回はユウが前々回はボクがまだ幼かったので連れて行かなかったらしい。

 今年でボクは八歳。ユウは五歳になったので出迎えに参加しダルムダットの魔王女様の相手をするくらいなら問題無いだろうと、そういうことらしい。


「それでいつ開催されるの?」


「一週間後とのことです」


 この世界での一年は三百六十五日。一日は二十四時間。一週間は七日間と。

 現代地球と同じだが、閏年はない。


「ダルムダットの魔王女様はどんな人なのか聞いてる?」


「はい。なんでもまだ五歳で表舞台に出るのはジュン様と同じく今回が初めてとの事。なのであまり詳しいことは存じませんが、大変可愛らしい優秀な御嬢様だそうですよ」


 ユウ様と同じですね、と付け加えてノエラの説明は終る。

 五歳の女の子の相手をするのかぁ。

 見た目は子供でも中身はオッサンなボク。

 五歳の子供の相手が上手くできるだろうか。

 ユウを相手にするようには行かないだろうし。

 ちょっと不安だな。


 そして一週間がたち。

 ボクとユウは各国のお偉いさん方を出迎えるため

 転移魔法陣の間に両親と大勢の騎士・使用人と共にいる。


 転移魔法陣とは魔法陣と魔法陣を結んで、結んだ魔法陣なら転移できるという代物で大変便利なものだ。ただし転移魔法陣の起動には御金と時間がかかる。

 オマケに一度にあまり大勢の人は転移できない。

 さらにお互いの魔法陣を起動させないと転移できない。

 なので起動させる前に通信魔法等で連絡を取り合ってから

 前もって準備する必要があるのだ。

 こうすることで互いが転移魔法陣を使っての悪事を働けないようにしている。

 友好国とはいえ用心は必要ということだ。


 ちなみに一般人が気軽に使用できる転移魔法陣は存在しない。

 あれば観光旅行にはいいかもしれないが、軍事利用されるのがオチだろうしな。


 そろそろ時間のようだ。

 魔法陣が動きだした。


 まずやってきたのは

 フレムリーラ連合魔王国 国主 魔王シャンゼ・フレムリーラ一行だ。

 シャンゼ様はキリとした顔つきで緑の瞳に長いオレンジの髪を一本の三つ編みにしている。

 真面目そうな印象を受ける人だ。


「よく来てくれた。魔王シャンゼ殿」


「久しぶりだな魔王アスラッド殿。私はまだ魔王として若輩の身。よろしくお願いする」


 フレムリーラの魔王は先年、代替わりしたばかりだ。

 故にシャンゼ様も今回が初参加の三ヵ国会議となる。

 最も父アスラッドとは顔見知りだったようですぐ砕けた口調での会話となる。


「まぁ、そうあまり硬くなるなシャンゼ。三ヵ国会議と言ってもここのところはあまり大きな問題も起きていない。大事にはならんさ。魔王らしくドンと構えておればいい」


「そうですね。慣れればできると思いますけど、慣れるまでが…なにせ今回が私が魔王になって初の大舞台ですので」


「大丈夫だ。お前ならちゃんとできる。ガウルの奴も知らない仲じゃない。気楽にやることだ」


「はい。ありがとうございます。エリザ様もお久しぶりです」


「シャンゼちゃん、元気だった~?」


「はい。そちらの二人が以前おっしゃっていた?」


「そうよ。ジュンとユウよ。ほら御挨拶なさい」


「はい。母上。御初に御目にかかります魔王シャンゼ・フレムリーラ様。魔王アスラッドの長男ジュン・エルムバーンと申します。よろしくお願いいたします」


「初めまして。ユウ・エルムバーンです。よろしくお願いします」


「うむ。御初に御目にかかる。フレムリーラ連合魔王国の魔王シャンゼ・フレムリーラだ。よろしくお願いする」


 子供が背伸びをして大人っぽい挨拶したようにしか見えないだろうに

 シャンゼ様は笑わず相応の態度でもって返事をくれる。

 数秒見つめあったところでお互いに笑顔になった。


「すいません。まだこういうのに慣れていなくて」


「私もだからお互い様よ。気にしないで。それにちゃんとした挨拶だったわよ。偉いわね。二人は今おいくつ?」


「八歳です」


「五歳です」


「その歳でそんな立派な挨拶ができればなにも問題ないわ。私が八歳の頃に同じことができたなんて思えないもの。エリザ様から聞いていたけど本当に賢くて優秀なのね」


「…母はどんなことを?」


「一歳で魔法を完璧に使いこなした~とか文字の読み書きも算数も完璧だったとか。ユウさんのほうも同じような内容だったわ」


 うううむ。

 ほぼほぼ事実なためにお母さんには強くやめるよう言えないな。

 文字の読み書きや算数が出来るのは前世の記憶があるからで決して努力したからとか優秀だからというわけではないのだが。


「あまり優秀だなんて言い触らさないで欲しいと、お父さんにもお母さんにも言ってるんですが、困ったものです」


「あらぁしょうがないじゃない。事実なんだもの。ねぇ?あなた」


「うむ。二人とも可愛いしな」


 若干、女顔なのは密かに気にしてるんだけどな。

 早く大人になりたい。

 そうすれば多少は男らしくなるはずだし。

 前世と同じなら。


 おっとダルムダットの御一行がやってきたようだ。


「よう!ガウル!」


「おう!アスラッド!久しぶりだな!」


 この厳つい、モミアゲと顎髭が繋がった顔に傷のある赤毛のオッサンが

 ダルムダット魔王国 魔王ガウル・ダルムダット様だ。

 体格は父アスラッドといい勝負。

 顔の怖さは…角がない分、父アスラッドのほうが怖いかもしれない。

 獅子人族らしく歯が鋭そうだ。

 時折みえる歯がギラっと光っている。


「久しぶりだなエリザ」


「お久しぶりです。義姉さん」


 母エリザと挨拶を交わしているのはアリーゼ・ダルムダット様。

 父アスラッドの実の姉だ。

 ボクの伯母さんという事になる。

 金髪を短髪した鋭い目つきの女性でまさに女戦士といった風貌だ。

 悪魔族かな。


「それでそっちの二人がお前達の子か」


「ああ。紹介しよう。ジュンにユウだ」


「初めまして。ジュンです」


「初めまして。ユウです」


 ダルムダット魔王夫妻は親戚でもあるから堅い挨拶はしないでいいと言われていたので、簡潔に自己紹介する。


「おう!俺はガウル・ダルムダットだ。よろしくな坊主共!」


「私はアリーゼ・ダルムダットだ。アスラッドの姉だ。よろしくな」


「はい。よろしくお願いします。義伯父様、伯母様」


 と、挨拶すると何故かスっと目を細めたアリーゼ様が肩にポンッと手を置く。


「いいか、ジュン」


「は、はい」


「私のことはアリーゼ姉さん、あるいはアリーゼ姉ちゃんと呼ぶように。異論、反論、口答えは一切認めない」


「は、はい。アリーゼお姉ちゃん」


「よし。いい子だ」


 ニカッと笑いガシガシと頭を撫でるアリーゼお姉ちゃん。

 なんだか男らしい人だ…


「おい、アリーゼ子供になにを教えこんでるんだ」


「そうだぞ姉貴。いくらなんでも姉ちゃんなんて歳じゃ…」


「なんか言ったか」


「「いえ、なんでも」」


 アリーゼお姉ちゃんの一睨みで逆らうことやめた父と義伯父。

 もしかしたらこの場で一番偉いのはアリーゼお姉ちゃんなのかもしれない。

 もちろんボクも逆らうことはしなかった。


「で、では今度はうちの子を紹介しよう。アイ、おいで」


 そう義伯父さんが声をかけると従者達の後ろほうにいた女の子が前に歩いてくる。

 黒髪のロングストレート。黒い瞳。

 着物をきれば大和撫子と例えられるだろう風貌をもつ女の子。

 だけどこの子はあの子によく似ている

 前世でボクの恋人だった事がある人。

 そして名前は…


「初めまして。アイ・ダルムダットです。よろしくお願いします」


 名前は 神名 愛。

 前世でボクの恋人だった事があり婚約寸前まで話が進み、そして別れた。


「愛、なのか?」


「淳…会いたかった!」


 そう言って抱き着いてくる彼女。

 彼女の前世の名前は神名 愛。

 前世でボクの元恋人。

 そして異父兄妹でもあるボクの妹。


 そう、アイ・ダルムダットは

 前世のボクの元恋人であり妹の神名 愛の生まれ変わりだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る