第15話 王都を観よう 2

 シルヴィさんの店を出て昼食を摂る。

 今度はセバストの御薦めの御店だ。

 

「ここは魚が美味いんだぜ」

 

「じゃあ魚を頼もうかな」 

 

「私も」

 

「おう。これなんか御薦めだぜ」

 

 ボクとユウのはセバストの御薦めを注文する。

 セバストも同じもの。

 セバスンとノエラは日替わりランチ。

 

「「美味しい」」


「だろ?このトロミがなんともな~」

 

 セバストの御薦めは揚げた白身魚に野菜のあんをかけたもの。

 セバスンとノエラの日替わりランチは魚の煮つけだ。

 

「食べ終わったら魔法道具店とステファニアさんの店にいこうか」

 

 ピタッ

 と、擬音が聞こえてきそうな感じでセバスンとセバストが止まる。

 ノエラは眉間に皺を寄せている。

 なにがそんなにイヤなんだろうか?

 

「ンンッ コホン。 ジュン様。ステファニアさんの御店は鍛冶屋と魔法道具店を兼ねております。どちらも一流の腕前です」

 

「そっか。じゃあステファニアさんの御店にいこうか」

 

 店を出てノエラを先頭にステファニアさんの御店に向かう。

 しばし歩いてたどり着いた店は…なんだろう、激しく感じるこの違和感。

 すごくピンクだ。


 ここが鍛冶屋と魔法道具店なのは知ってる。

 だから案内してもらったのだし、看板にもそう書いてる。

 だけどそれらが無ければ別の店にしか見えない。

 

「ここが…」

 

「はい…。ステファニアさんの御店です」

 

 だよね。

 とにかく店の前で立っててもしょうがない。

 

「ま、まぁとにかく入ろう」

  

「「「はい…」」」

 

 この店を見てからなんとな~くだが

 三人がイヤそうな顔をしてるのがわかった気がする。

 ユウもなんとなく察しがついたようだ。


「いらっしゃ~い」


「どうも。こんにちは」

 

 店に入ると出迎えたのはドワーフの女の子だ。

 女の子といってもドワーフは長命種。

 この娘も見た目通りの年齢ではないだろう。


 この娘がステファニアさん?

 だとしたら普通の娘にしか見えないけど。

 

「こんにちは。ドミニーさん。スティー…いえステファニアさんは居られますか?」

 

「あ、セバスンさんじゃない。こんにちは。師匠なら奥にいるよ」

 

 この娘、ドミニーさんはステファニアさんの弟子らしい。

 セバスンとも顔見知りのようだ。

 

「セバストにノエラも来てるのね。久しぶり」

 

「おう」

 

「お久しぶりです。ドミニーさん」

 

「三人と一緒に来たってことはこの子達は?」

 

「ええ。ジュン様とユウ様です」

 

「そっか。よろしくね。私はドミニー。この店の店主ステファニアの弟子だよ」

 

「よろしくお願いします。ドミニーさん」

 

「よろしく」

 

「それで今日はどうしたの?」

 

「今日はジュン様が将来、武器や魔法道具を作ってもらう時のために御挨拶と魔法道具を見に来ました」

 

「そっかそっか。将来の魔王様にひいきにしてもらえるなら師匠も喜ぶよ。じゃあ呼んでくるね」

 

 そうしてドミニーさんは奥に行き

 ドドド と音を立ててやってきたのは…

 

「セバスンちゃぁぁぁぁぁぁんんんんん!!!!」

 

「お、お久しぶりですステファニアさん・・・」

 

 おお…いつも凛とした佇まいに不快な表情を見せたりしない

 セバスンが珍しく露骨な困り顔を隠さない。

 いや、隠せないのか。

 

「セバストちゃんもお久しぶりぃぃぃぃぃ!!!」

 

「はい。お久しぶりです」

 

 おお、セバストが敬語を使っている。

 ジリジリと後ろに下がって距離を取っている。

 

「ノエラちゃんは相変わらず綺麗ね~。お久しぶり」

 

「お久しぶりです。ステファニアさん」

 

 ノエラは苦手とはいえ二人ほどじゃないんだろう

 ステファニアさんに普通に接していた。

 

「それでこちらの可愛らしい御二人は?」

 

「こちらはジュン様とユウ様。魔王様の御子息です」

 

「ジュンです。よろしくお願いします」

 

「ユ、ユウです。よろしくお願いします…」

 

 ユウは若干怯えているようだ。

 ボクの後ろにまわって隠れるようにしている。

 

「あら?怯えなくても大丈夫よぉ。取って食べたりしないわぁ」

 

 バチコーン とウインクしてくるステファニアさん。

 そうステファニアさんは所謂オカマさんだ。


 ドワーフの男性らしく長く立派な髭。

 白い髪をオールバックにして後ろで編んでまとめている。

 ピンクのリボンに紅い口紅。

 アイシャドウまで付けている。

 付けまつ毛もしているのだろうか。

 可哀そうなくらい似合っていない。

 仕事の邪魔にならないんだろうか?

 

「こんな見た目だけど師匠の腕は確かだよ。この国では一番、全ドワーフの中でも五指に入る腕なんだよ? 特に魔法付与の腕はトップクラスさ」

 

「こんな見た目、は余計よ。ドミニー。失礼な弟子ねぇ」

 

 魔法付与とは剣や槍に魔法を込めて

 魔剣や魔槍にする技術の事だ。

 道具に魔法を込めて作られるのが魔法道具というわけだ。

 防具に魔法付与する事も可能だ。

 

「それで今日はどうしたのかしら?」

 

「今日は将来ボク達の武器や防具、魔法道具を作ってもらう時のための御挨拶と、魔法道具を見せてもらいに伺いました」

 

「あらあらそうなの。うんうん二人のためなら腕を振るうしサービスしちゃうわよお。アスラッドちゃんの子なら断れないしねえ」

 

「お父さんとはどのようなご関係で?」

 

「アスラッドちゃんはねえ、魔王になってこの国を継ぐ前は冒険者だったのよ」

 

「え。そうだったんですか?」

 

 冒険者を生業にしてる人達がいるのは知っていたがお父さんがそうだったというのは初耳だった。

 

「ええ。それでね希少な鉱石や魔獣の素材を取りにいく時なんかよくアスラッドちゃんに依頼してついてきてもらってね。何度か命を助けてもらったこともあるのよ。あたし腕っぷしはだめでねえ。思いっきりハンマーでぶん殴るくらいしかできないのよぉ。怖いしねぇ」

 

 クネクネしながら言うステファニアさんの両腕にはセバスンとセバストがガッチリと捕まっている。二人は抜け出せないのがわかってるのか諦め顔だ。

 とゆうかその太い腕でハンマーを振り回せば大抵なんとかなりそうな気もするんだが。

 

「それじゃあ魔法道具を見せてもらえますか?」

 

「もちろんよ。好きに見て構わないわ。ドミニー、二人についててあげなさいな。あたしはお茶をいれてくるわぁ」

 

「はい、師匠」

 

 お茶を入れてくるといいつつもセバスンとセバストをガッチリ捕まえたまま奥へ引きずっていく。

 ノエラはついていかず残っている。

 ステファニアさんはセバスンとセバストの二人が好みなんだろう。

 あの二人が嫌がったわけだ。


「あんなんでも悪い人じゃないし優しい人だから怖がらないでね」

 

「ええ、大丈夫ですよ」

 

 日本にいた時に付き合いで何度かオカマバーに連れていかれた事がある。

 その経験があるからかそれほどの衝撃は受けなかった。

 もっともドワーフのオカマさんとはゲームやマンガの中でも見たことはないが…髭をそればもう少しまともに見えるんじゃないだろうか?


「ドワーフの男はねえ、髭を剃っても一日で元に戻っちゃうのよ」

 

「そうなんだ…」

 

 加えて髪の毛も死ぬまでフサフサらしい。

 髪の毛に関しては女性も同じでモサっとしてる。

 髪の毛で悩んでる人を敵に回しそうだ。

 

 それはさておき魔法道具だ。

 見た目からわかりやすいもの聞かないとわからないものまで色々ある。

 

「これはライターだな。懐中電灯もある。これは…メガネ?」

 

「それは本来見えないものを見えるようにする魔法道具だよ。霊的な存在を見たり魔法で姿を隠してる者を見つけたりするためのものだよ。魔眼のかわりだよ」

 

 魔眼とは紋章とはまた別のこの世界の人が持って生まれてくる才能の一つだ。

 魔法で隠蔽されたモノを見破ったり壁の向こうを見たりする透視眼。

 遥か遠くにあるものを見ることができる千里眼等がある。

 この魔法道具のメガネはそれらを再現した道具なのだろう。

 

「魔眼ほど強力ではないけど持ってる人は希少だしね。あ、普通のメガネもあるよ」

 

 普通のメガネといっても近視や遠視の人ための視力調整の効果がある魔法道具だ。

 モノクルのようなものもある。

 

「ねえ鑑定眼のメガネはない?」

 

「あるよ。これこれ、このモノクル」

 

 ユウの言う鑑定眼とは見つめたものの詳細を教えてくれる物だ。

 食べ物を見れば毒があるかどうかわかるし道具を見ればその使い方がわかる。

 とはいえ隠蔽の効果があるものは見破れない。

 

「食べれる野草やキノコ、薬草を見分けたりするのには便利だと思って」

 

「なるほど」

 

「確かに便利だけど結構いい値段するよ?金貨で五枚」

 

 日本円にして五十万円。

 確かに結構な御値段だ。

 チラっといつのまにか戻ってきているセバスンを見る。

 

「それくらいなら大丈夫です。危険なものでもありませんし買っても問題ないでしょう」

 

「よかった。買ってもいいってさ。ユウ」

 

「うん!」

 

 最初は今日は見るだけと思ってたのだがセバスンが御金を預かってきているとのことだし

 甘えるとしよう。

 しかし五十万円が問題ないとは。

 さすが魔王様。一体いくら預けたのやら。

 

 さて、他にはなにがあるかな?

 ボクの御目当てのモノはあるだろうか。

 

「このホウキは、もしかして空を飛ぶ道具?」

 

「アハハ。ホウキで空を飛ぶなんて面白い発想するね。それは自動で掃除してくれる魔法道具だよ。この塵取りとセットで使うの」

 

 考えてみればホウキは掃除をするための物。そっちのほうが自然か。

 

「空を飛ぶ魔法道具はあるにはあるんだけど制御が難しいし落ちたら危ないからね。安全なとこで訓練を受ける必要があるんだよ。かなり高価な品だし」

 

「なるほど」

 

 まあボクは魔法で自力で空を飛べるようになっている。

 魔法を使わなくても堕天使の翼で一応、飛行可能なのだが、魔法のほうが高速で飛行できる。

 両方使ったほうが高速で飛べるのだが疲れるのでしない。

 それに堕天使の翼での飛行は目立つ。


 ちなみに普段は翼はしまっておける。

 生身の翼というわけではなく光でできたような翼で少し透明でほんのり光っている。

 実体があるわけではないのに触れることができるし、身体を浮かせることができるのは不思議でならないが。

 

「あの、魔法の袋はありませんか?空間拡張と状態保存の魔法が付与されているものがいいんですが」

 

「ん?そんなのないよ?」

 

 え?ないの?

 

「ないんですか?」

 

「そんなのあれば確かに便利だろうけどそもそも空間魔法を使える人が少ないし。さらに魔法付与ができる人なんて世界中探してもいるかどうか。状態保存の魔法が付与されたものならあるけど、あれは倉庫や食糧庫にかけてあるものがほとんどよ。それに付与された魔法は永遠に効果が持続されるわけじゃない。魔石に魔力を込めないといけないから魔力が切れたら中身が袋を突き破って出てきちゃうわ」

 

 なるほど…

 

「なんの話かしらぁ?」

 

 いつのまにかステファニアさんがそばに来て話に入ってくる。

 説明するとステファニアさんが申し訳なさそうな顔をする。

 

「そうねえドミニーの言う通りよ。私にもそれは作れないわ。魔力切れの問題のほうは許容量の大きい魔石を使うなりすればある程度緩和できるとおもうけどぉ。ごめんなさいね」

 

「いえ、そんな。ステファニアさんが謝るようなことじゃないですよ」

 

 そこでふと思いついた事を提案する。

 

「あの、だったらボクに魔法道具の作り方を教えてくれませんか?ボクは空間魔法が使えますので」

 

「あら、そうなの?すごいじゃない。ん~それでも簡単なことじゃないわよ?」

 

「はい。お願いします」

 

「ん~そうねぇ。じゃあこうしましょ。魔法付与の部分だけジュンちゃんがやる。他の作業はあたしがやるわ。それでいい?」

 

「はい、もちろんです。あ、御代は…」

 

「御金の話は大人がするものよ。ねぇセバスンちゃん?」

 

「はい。お任せくださいジュン様。アスラッド様もお許しくださるでしょう」

 

「だってさ。じゃさっそく始めましょ。こっちよぉ」

 

「はい!」 

 

 ステファニアさんに案内されて魔法道具の工房にいく。

 ドミニーさんは店番があるので店のほうに残った。

 

「じゃあちょっとまってね。まずは袋に使う布の用意ね」

 

 そういってステファニアさんが取り出したのは鎧の裏地等に使うのだろう。

 そこそこ大きな皮と銀糸で作られた布だ。

 そこに特殊インクを使い文字を書いていく。

 書いてる文字はこの世界ではルーン文字と呼ばれているが

 現代地球ではラテン文字の筆記体だ。

 書いてある文の意味は…

 

「私の物となり私の意に応え私の魔力を受け入れ私の魔法を発現せよ?」

 

「あらぁ!すごいじゃない!その歳でルーン文字まで読めるなんて!」


 と、本心から関心した顔で褒めてくれる。

 セバスンたちも驚いてるようだ。

 

「流石、ジュン様ですな。ルーン文字まで学習なさっていたとは」

 

「すげえなジュン様。オレにゃさっぱりだぜ」

 

「流石です。ジュン様」

 

 そんな褒められるとやはり照れ臭い。

 ユウはなぜかまた胸をはって フフン としているが。

 

「ルーン文字を理解してるなら魔法付与のほうも案外簡単にできるかもしれないわねえ」

 

「そうなんですか?」

 

「ええ。魔法付与はルーン文字を理解してないと上手くいかないから。じゃ始めましょうか」

 

 そう言うとステファニアさんは今度は魔石を二つ持ってくる。

 子供の手の平サイズの魔石として大き目の純度の高い物だ。

 

 魔石は強い魔獣の体内や鉱山から稀に発掘される物で高価なものだ。

 魔法道具か高いのはこの魔石のせいだったりする。

 もちろん魔石以外の素材も高級なものを使えばその分値段も高くなるが。

 

「いいんですか?これ結構いい魔石じゃ?」

 

「いいのよ。さぁ始めるわよ。両手に魔石をもってルーン文字の上に手を置いて。魔石をルーン文字に充当てるように」

  

 ステファニアさんに言われたようにすると魔石がほんのり光る。

 

「そう。そのまま空間拡張の魔法を使って。魔石を通してルーン文字に魔法をかけるイメージで。あ、ついでに状態保存の魔法も使えるなら使っちゃって」

 

「はい。やってみます」

 

 ボクは言われたように空間拡張の魔法と状態保存の魔法を同時に使う。

 魔法がルーン文字に吸い込まれていくような、そんな感覚がする。

 使い終わった後はルーン文字が光っている。

 成功したんだろうか?

 

「あの、どうでしょう?成功しましたか?」

 

「あ、ああ。ええ、そうね。成功してるわよ」

 

 なんだかひどく驚いてるな。


「あの、どうかしましたか?」

 

「いやだって、今、二つの魔法を同時に使ったでしょう?それも難度の高い空間魔法を。補助魔法はそうでもないけど、それにしたって同時に使うなんて普通はできないわよ?しかも初めての魔法付与を一発成功。すごい才能ね」

 

 そんなすごい事なんだろうか?

 

「ジュン様、私たちはジュン様の魔法訓練にお付き合いしておりますので存じておりましたが初めて二つの魔法の同時使用を見た時は大変驚きましたよ。城内でも話題になっておりました」

 

「ああ。魔法の同時使用ができるやつなんてよほど熟練の魔法使いかそういう紋章をもったやつくらいさ。自慢してもいいぜ」 

 

 そうなのか。実は三つ同時に使えることはいわないほうがよさそうだ。

 

「さて、色々驚いちゃったけど、あとの作業は私がやるわ。ちょっと時間がかかるし受取は明日以降にお願いするわね」

 

「はい。わかりました」

 

 そう話をまとめてその日は城に帰った。

 魔法袋の話を両親にすると

 

「ジュン。その魔法袋な、幾つかか作ってもらってくれ。代金はわしが払う」

 

「そうね。すごい便利そうだし。軍の行軍にも旅行にも便利そうよね~」

 

 という話になり明日、魔法袋を受け取る際、頼むことになった。

 そして翌日。

 

「あ、それね。あたしからも頼みたいのよ。だってこれすっごい便利だし。魔法付与はジュンちゃんにやってもらわなきゃだから値段は勉強させてもらうわよ」

 

 と、話はすんなり進み

 お父さんに頼まれた分だけでなくステファニアさんの店で売る分の作成もすることになり

 魔法付与をボクが担当する分、売り上げの二割をボクがもらうことになった。 

 数はあまり用意できないし非常に高額なのでそれほど売れないのだが

 結構な金額がボクに入ることになるのだった。

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